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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
5/159

5.猪は誰?

盛り上がった仮装トーナメント大会から数日が経った。恋する乙女の話題はもっぱら猪さんのことだった。


「やっぱりあの猪がレオン様だったのかしら!」


「優勝する程強いのなら、レオン様の可能性が高いわよね!レオン様、あの日どこにも見当たらなかったもの」


この友人2人も猪さんの話をしているようだ。


お昼の時間、食堂の窓際で日向ぼっこをしながら今日の魚ランチを頂く。大好きなサーモンのムニエル。キノコが沢山入ったクリームソースを余さずパンで掬って食べるまでが美味しい時間なのだ。


「レオン様?」


聞き覚えのない名前に誰だったかしらと考える。


「えっ!もしかしてフレイヤ知らないの?」


「レオン様のこと知らないの!?」


「えっ……う、うん」


友人2人がぐいっと前のめりで聞いてくるが、誰だか全然分からない。信じられないといった顔をしているが、そんな知っていないといけないような人なのだろうか。


「このアカデミーの王子様よ!」


「は?王子様は、決勝戦で猪さんと戦ったエドワード殿下でしょ?」


「本物の王子様じゃなくて!物語の王子様のように格好良くて素敵な方って意味よ!」


「あの始まりの魔女の1人で、絶世の美女だったと言われているアナベル様の家系なんだそうよ!だからレオン様のお兄様もすっごく格好良いのよ~」


そう言えば、猪さんから魔力をレッスン場の壁に流すと教えて貰った時に、「基礎科の頃は魔力が暴走してた」とか「兄も魔力が高かった」とか言ってたのを思い出す。

始まりの魔女の家系なら、特に魔力が高いのも頷けるし、お兄様がいらっしゃるのも合致するなぁ。猪さんはそのレオン様という人なのだろうか。


「昨年の大会ではそのお兄様が魔法戦で優勝されて、レオン様も剣術戦の決勝戦まで行ったのだけれど殿下に負けてしまったの。でもすっっっごく格好良かったって噂で、今年私達も大会に参加出来るようになったからとっても楽しみにしていたのに、どこにもレオン様が見当たらなくて、結局その勇姿を観ることが出来なかったのよ~」


「観たかったわよね~!殿下も素敵だけれど、やっぱり本物の王子様だから不敬になってしまうのが怖くて、近寄りがたいもの。レオン様ならお優しいから怒られることもないし、皆でキャーキャー言ってるから怖いもの無しよ!」


「それって…皆がキャーキャー言ってるから自分も言っていいやってこと?迷惑なんじゃ──」


私の言葉は耳に届くことなく掻き消される。


「しかもとってもモテるのに誰の告白も受けないのよね!誰のものでも無いのがいいの!アイドル的存在!でも、誰のものでも無いから自分のものにしたいという欲が多くの女性に出てしまい、ダメもとでアタックしては砕け散ってしまっているのよ。断られると分かっていながら、告白しているときは自分だけを見てくれて、そして目が合うのが嬉しくて、その為に告白してる子も多いそうよ」


なんじゃ、そりゃ。


「でも、レオン様が猪だったのなら……ショックだわ……」


「どうして?」


「だって、あんなに素敵な方なのに……よりによって猪……」


「ダメなの?」


「猪よ!?面影ゼロ!しかも、やけにリアルで汚ならしかったし……」


確かにリアルだった。私も野性的な猪に感動したし、臭いすらしそうな仕上がりに引き寄せられるように、お近づきになりたい気持ちを抑えられずに話し掛けてしまった。でも……


「汚ならしく感じる程に忠実に再現できる変身技術は素晴らしいじゃない。魔法の能力も高い上に騎士としても強いのを証明されているのに、何故ショックを受けるの?」


「格好良くいて欲しいのよ!」


「そうよ!レオン様は理想の王子様なのよ!」


う~ん。

私には理解できないな……。


「理想って……ご本人の意思関係無く勝手に理想化してるだけなんじゃ──」


やっぱり私の言葉は最後まで聞いて貰えることはなく掻き消される。


「フレイヤもレオン様を一目でも見たら分かるわ!」


「絶対見て!見掛けたら直ぐに教えてあげるから!本当に格好良いんだから!」


友人2人は立ち上がって物凄い勢いで顔を近付けてくる。顔が付きそうで、私はもう仰け反るしかない程に。


「わ…分かった、から」


もはや私の意見は届かないようだ。


「あら?フレイヤ、そのネックレスどうしたの?アクセサリーをつけるなんて、珍しいわね」


顔を近付けたせいか、私の首もとのネックレスに気が付いたようだ。


「ああ、家で見つけたの。アンティークで可愛かったから、お母様に言って貰ったのよ」


「フレイヤの瞳と同じ色ね。ブルークオーツ?」


「私、石については詳しくないから分からないの」


「そっか。でもとっても素敵なネックレスね。はー!素敵と言えばレオン様よ!」


私のネックレスについての話、一瞬で終わったよ!

直ぐにレオン様の話に戻ったよ…!


「猪…レオン様だったのかしら……」


「猪さんがそのレオン様とは限らないんでしょ?」


「そうよ!」


「猪だなんて信じない!」


2人は猪さんがレオン様という説を立てながらも、理想を追い求め信じないことに決めたようだ。


私は話を聞く限り、その説が正しいように思う。

魔力が高く、お兄様がいて、昨年同様決勝戦まで行く実力。それに、顔を隠したいから猪に変身したと言っていたし、キャーキャー言われるのを避けるために女性に敬遠される猪をわざわざチョイスしたのではないだろうか。


討論等しようとも思わないので、これ以上はもう何も言うつもりは無いが。


友人2人が、レオン様がいかに素敵かを熱弁しているのを適当に相槌を打ちながら、大好きなサーモンのムニエルの残りを堪能することにした。


……そうか!私はいつもこの友人2人がキャーキャー言っているのを、こうやってまともに聞かずに流していたから記憶に残らず、そのレオン様を知らなかったのだろうな、と納得した。



◇◇◇



「なるほどね~」


「……」


なんとも居心地の悪い席だ。


「良かったな、レオン」


「……何がですか?」


「俺は近寄りがたいけど、レオンは理想の王子様だそうだぞ」


ニヤリと笑みを浮かべながら言う殿下は、やっぱり意地が悪い。楽しんでいらっしゃるようだ。


ここは食堂の個室のスペース。打ち合わせ等で使われる場所なのだが、王族は執務もあるので優先して使用が出来る。

殿下に伴って食事をしていれば、すぐ隣のオープンスペースの女性グループが話す自身の噂話を聞く羽目に。


「俺が猪だったことは、ほぼバレてるみたいですね」


「大丈夫だろ。レオンが猪だったことはショックだから信じないみたいだし」


「どうせなら幻滅してくれた方が有難いんですけど……」


「今の話を聞く限り、それは無さそうだな」


テーブルに肘を突き、額を押さえる。

決勝戦の後に、変身を解いてバラせば良かったなと後悔する。


「でも、その容姿に囚われずに変身技術や騎士としての能力の高さをちゃんと見てくれる人もいたみたいで、良かったじゃないか」


「ああ……馬の子」


あの声は聞き覚えがあった。馬に変身してた子と同じ声だ。レッスン場で魔力暴走を起こした魔法科の女の子。さっきの話からすると、学年は1つ下の1年生のようだ。


そして、俺のことを全く知らないようだ。


「馬の子?あの子がお前が鼻キスしてた馬の子なのか?」


「だから!鼻キスじゃないですよ!ただ当たっただけで……」


「馬の子はフレイヤだったのか。確かにあの竜巻はフレイヤなら……」


なにやら殿下がブツブツ呟いている。


「ご存知なんですか?」


「俺は王族だぞ?高位貴族の子息令嬢の名くらい把握している。レオンは家督を継がないからと言って知らなさすぎだろ」


両親に連れられて初めて夜会に参加したとき、あっという間に女性に囲まれ、まだ14歳だった俺は詰め寄ってくる女性達が怖くて仕方なく、それ以来夜会に滅多に参加しなくなった。お陰で貴族の名前と顔が全然分からないのだ。


「さあ、女性グループも席を立ったようだから、私達も午後の授業に向かおうか」


「……そうですね」


この個室から出るのも気が重いが、噂をしていた女性達が居なくなってくれてるだけでも有難い。

ずっと居るようならそれこそ変身でもしなければ出られなかっただろう。


「いや、いっそのことずっと猪の格好でいようか……」


「それはやめろ」


心の中で呟いたつもりが声に出ていたらしい。殿下に嫌がられてしまった。


「猪を引き連れていたら目立って仕方ない」


また意地の悪いことを言うようなら、仕返しに猪に変身して殿下にお供してやろうと、こっそり思った。


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