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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
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4.仮装トーナメント大会②

「レオン、手加減するなよ」


この方にはバレていた。

猪の仮装は完璧な仕上がりで、俺の姿形を綺麗に隠すことが出来た。絶対にバレないだろうと思っていた。


しかし、剣術戦が始まれば剣技や癖で分かる人には分かってしまったようだ。


「やはり、殿下には分かりますか」


「当たり前だろう」


仮装トーナメント大会の剣術戦、決勝戦。


女性に姿がバレると面倒なので顔も形も分からないように、そして声でバレるのを防ぐため誰にも話し掛けられないように(特に女性に)、リアルな猪に仮装した。


まあ、話し掛けてきた馬はいたけど。

まさかのあの時の魔法科の女の子だった。

話していると聞き覚えのある声だと思った。一部だけ変身しきれていないちょっと間抜けな感じも、思い出すのに一役買った。

女の子で馬に仮装するという選択をするのも凄いと思うけど、魔法戦でのあの竜巻には驚いた。本当に魔力が高いのだろう。災害級の巨大な竜巻だった。自身も飛ばされていたしな……。


「モテる男は大変だな」


「……」


「昨年の大会は目立って凄かったからな」


そう。昨年は兄もまだアカデミーに在籍していた為、兄が魔法戦で優勝していた。そして、俺も初めて大会に出場し、剣術戦の決勝まで行った。決勝で今目の前にいる殿下に負けてしまったのだが、美形最強兄弟として見事に目立ってしまったのだ。


不本意この上無い。


戦いやすいようにと、憧れているこの国の騎士の格好に仮装してしまったが為に、顔を隠さなかったので顔が広く知れ渡ってしまい、この日を境に女性から告白される機会が増えてしまった。


その反省を活かして、今年はこの猪に仮装をした訳だが……。


「さっきも言ったけど、手加減はするなよ。昨年、お前決勝で私と当たってしまい戸惑って手加減しただろう。別に私に勝っても良いんだぞ。忖度はするな。この大会の成績は、アカデミー卒業後の騎士団の入隊試験に有利になるだろ?」


「……決勝まで行けば、十分かなって…思ったり…」


「手加減したら、この猪がレオンだって言いふらすぞ」


「……!」


「ついでに、さっき馬とキスしてたって言うぞ」


「キス!!!してませんよ!」


「鼻と鼻が当たってたろ?」


馬に詰め寄られたときか……。

あれをキスと言うのか!?鼻キス!?


っていうか、剣術戦が始まる前にすでに殿下にはバレていたのか。何で分かったんだろう……。


目の前で殿下がニヤリとする。


この方は本当に意地が悪い。俺に対して、特に。


この国の王子、エドワード殿下。上に王女がおり、この国は性別関係無く長子が継承する為、殿下は継承権第2位となる。アカデミー卒業後は騎士団に入るそうだ。

殿下とは同じ歳なので、高位貴族の俺は友人候補として小さい頃から城に上がり、一緒に遊んだり剣術指導を受けたりしてきた。


なので、何度も剣を交えてきたし、お互い剣術の癖なんかも知り尽くしており、今更戦って皆の目の前で怪我でもさせたらどうしようと思うわけで……。


しかし、猪の正体をばらされるのは困る。そして猪と馬の鼻キスを言われるのも、あの馬の女の子にも迷惑が掛かってしまう為困る。


仕方がないので本気でいくしかない。この方には誤魔化しは効かない。


「そろそろ雑談はいいか?決勝戦を始めるぞ」


俺と殿下のやりとりを待ってくれていた審判を務める先生が声を掛けてきた。


「「お願いします」」


俺も殿下も同じ人から剣術の指導を受けてきたので、構えは同じ。剣をピタリと正眼の構えで止め、合図を待つ。

指導してくれた人は、地球の日本という国の武士の子孫だ。その影響もあり、殿下は武士らしい着物に袴姿。長い金髪を高い位置で一つに縛り、とても凛々しい姿。


一方の俺は、野性的な猪。端から観たら猪を退治する武士だろうな。

剣が握れないから手だけは人間で、裸なのも何だかなと思って、猪の毛と同じ焦げ茶色の着物を着ている、二足歩行の猪。

これが俺だとバレたら、男の友人に笑われるかもしれない。


負けられない戦いになってしまった。


「はじめ!」


審判の合図でお互い踏み込み、打ち合う。木剣のぶつかり合うカンカンという音が間髪入れずに鳴り続ける。

上段だけでなく時折サイドからも木剣を振り下ろして、俺のミスや隙を誘ってくる。相も変わらず嫌らしい攻めをしてくる。全て避けること無く木剣で受け止める俺を見て、殿下はニヤリとする。


嫌な笑みだ。

更に打ち込みが強くなり、俺は押されて後ろに後退りながら受け止め続ける。


突然深く体を沈め俺の足元を狙って真横に振り抜いてきたので、大きく後ろに飛び避けた。


「さすが獣の身体能力だな。変身で見事に跳躍力もアップしている」


「ありがとうございます」


しかし後ろに下がりすぎたので、これ以上下がると競技場から落ちてしまう。俺も攻めなければ。


大きく踏み込み一気に殿下との距離を詰めて打ち込む。助走があった分、剣に重さが増したはずなのに、全ての打ち込みをガンガンガンッと受け止められる。間合いに踏み込み右肩を狙って木剣を振り下ろしたが、これも柄に近い位置で受け止められた。


「馬の子、医務室から戻って来て、この試合を観ている様だな」


「……精神的ダメージを与えようとしてますか?」


「お前が苦手な女性と2人でいるのに驚いただけだよ」


殿下は笑みを浮かべながら、ぐぐぐっと木剣を押し返してくる。


「俺の猪の変身に興味を持って、向こうから声を掛けてきただけですよ」


「お前が笑っているように見えたからな」


「……まあ、お互いに顔も名前も知らないので、気軽に話せましたけど」


「そうか」


上から木剣を押しているのに、殿下の下から押し返してくる力に、俺ももっと力をつけなければなと思う。


上から押している力を緩め、木剣を滑らせて殿下の木剣を流し、右脇へ体を潜り込ませるように入り、腹を狙って打つ。

殿下は急に力の受け止めを外され、姿勢が崩れたが、流石の反応で剣先を下に向け腹に入ってくる俺の木剣を止めた。

しかし、剣先では受け止めきれずに俺の木剣が殿下の腹を押し込んだ。


「ぐっ……!」


苦しそうな声を漏らしながらも後ろへ飛び逃げようとするので、間合いが空き、突きの構えをとりながら前に踏み込み、殿下の右肩を狙い木剣を突き出した。

剣先を下に向けたままだった殿下は柄で俺の突きを受け止めたが、まあ止められるだろうなと思っていたので、二段目の突きを繰り出した。


ガランガラン──


「そこまで!」


柄で俺の突きを受け止めた殿下は脇ががら空きになっていたので、脇に二段目の突きが決まり、腕に力が入らなくなった殿下は木剣を落としてしまい、審判の声が掛かった。


わあああ────

歓声が上がる。

そういえば、集中していて周りが気にならなかった。今になって歓声が聞こえてきた。


殿下の木剣を拾い、渡す。


「剣を落とすとは、情けないな」


そう言って脇を押さえながらも木剣を受け取り、お互いに礼をする。


「殿下は反射が良いから、二段構えでないと敵いません」


殿下はニヤリとしながら手を差し出してきたので、握手をする。


「そうか。では二段目も躱せるように対策を講じることにしよう」


「……剣術好きの剣術馬鹿……」


「小声でも聞こえているぞ」


ボソリと言ったのに、地獄耳だ。いや、口にしてしまった辺り、聞かれても良いやと無意識に思っていたんだろうけど。


「優勝おめでとう」


殿下の言葉の後に、俺に何人かが飛びついてきた。


「レオン!すげーな!」


「おめでとー!」


「名前を言ってやるなよ!せっかく仮装してんだから」


「猪の猪突猛進の突き、よかったぜ!」


わらわらと回りに集まり飛びついてきた奴らの会話に呆然とする。


「お前がどこにも見当たらなくて、顔を隠している猪がいたら、レオンなのかなって察しがつく。それに、こんなに強いのはレオンくらいだ」


「……」


「残念ながら、殆どの男は今の試合を観て猪がレオンだって気付いてると思うぞ」


殿下の言葉に考えるのが嫌になった。


最後に俺の耳元で言った。


「キスの件は黙っておいてやるから安心しろ」


鼻が当たっただけで、キスじゃないのにー!


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