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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
45/159

16.愛が重い

まさか、フレイヤがあんな声を出すなんて。


あんな声を聞いたら……無理だ。


欲情を誘う、甘い、女の、艶めいた、声。


あんなにも可愛い声で……


あああああ!



固まって良かった。

良かったのか?情けなくないか?


いや、でも理性が飛んだら何してたか分からない。


固まって良かった。



……もっと、聞きたい。



いや、聞いたら、次こそ理性が飛びかねない。

そうしたら、止まらない。彼女を襲ってしまう。



もっと、言わせたい。啼かせたい。違う声も、聞きたい。


想像してしまう。服に隠された、その中の素の彼女を。触れたら、あんな声で……



あああああ!





「今日のレオン、殺気が凄い……」


「強固な防御魔法を掛けてたのに、打たれた右脇がヒリヒリする……」


「アレは何か面白いことがあったんだろうな」


「いや、殿下。面白がってる場合じゃないですよ」


「あいつをああさせるのは、フレイヤしかいないだろ?面白いじゃないか。相手してくるか」


「いやいや!危ないですよ!殿下は近づかない方が……」


「いいから、いいから」





雑念……

いや、男の欲を抱いている自分自身に当惑しながらも、欲が収まらず膨らんでしまい自己嫌悪になり、衝動を彼女にぶつける訳にはいかない為、騎士科の男にぶつけている。


今日は野外訓練場での授業。

手当たり次第に対戦を挑み、憂さ晴らし状態。


彼女を傷付ける訳にはいかない。これ以上はまだ触れてはいけない。これ以上はまだ踏み込んではいけない。


まだ……

まだ……


結婚するまで、あと2年…………長い!


彼女を大切にしたい。

こんな欲にまみれた感情を見せてはいけない。ぶつけてはいけない。


あああああ!



「うっ……」


目の前にいたヤツの腹に一撃を加えて、また1人倒れていく。気付けば周りには倒れたり座り込んでいるヤツばかり。まだ立っているヤツはいないのか?


「レオン。私の相手をしてくれ」


「殿下……」


まだこの方がいた。さすがに憂さ晴らしに利用するのは気が引ける。


殿下は剣に氷の魔法を纏っている。鏡の様な輝きのある綺麗なクリスタルの氷。相変わらず仕上がりが良い。


氷を選択したのは、俺が炎を纏っているからだろう。


「いくぞ」


踏み込んで素早く間合いに入ってくる。


俺の意思は無視だった。

でも受け止めないと打たれる。


ギィイイイ───ン!


氷の剣を炎の剣で受け止めると、鈍く乱れた音がした。


「魔力に揺らぎがあるぞ。氷が当たっているところの炎が揺らめいている」


グッと氷の剣を弾いて、炎の魔法を調整し直す。

殿下は直ぐに再び打ち込んで来たので、受け止める。右に左に速い振りを受け止め続けるが、炎が揺らめいてしまう。


「乱れてるな。フレイヤと何かあったか?」


「何もありませんよ」


「裸でも見たか?」


「なっ!見てませんよ!」


キンッと、炎が氷に負けて、剣に直接当たった音がした。魔力を流し、炎を舞い上がらせて、氷の剣を殿下ごと遠ざける。


裸は見てはいない!

……ちょっと想像しただけだ。


「当たらずとも遠からずかな」


殿下はニヤリとする。

殿下に心を乱されている。もともと乱れてはいたけど、さらに乱されている。

深呼吸をして、剣に炎を再び纏わせ、意識を集中させコーティングし直す。


その後暫く打ち合いが続いた。殿下の氷は全く揺るがない。欠けることもない。強い精神力だ。


上段に打たれた剣を止める。そのまま踏み込み押し込もうとしたら、突きを打たれた。


ビッと頬に当たった。


「勝負アリだな」


「はぁ……完敗ですね」


「医務室で手当てしてこい」


手で頬に触れたら、指に血がついた。

防御魔法をかけていたのに負傷するとは、風圧か?それとも俺の防御魔法の精度も乱れていたのか?


「もうじき騎士団の入団試験もある。騎士団には私より強い者が多くいる。浮かれてばかりいるなよ」


「浮かれて……ますか?」


「仕方ないことかもしれないが、訓練中は心を乱すなよ。危険だ。それに、あまりに愛が重いと、フレイヤに嫌われるぞ?」



重い……?


嫌われる……?


俺の愛は、重いのか……?


もしかして俺は、愛を押し付けているのか……?



そう言えば……


彼女は、告白したときに「お慕いしている」と言ってくれたっきり……


一度も……


そう。一度も……


好きだと、言われたことがない。



「レオン?」


「殿下、レオンはどうしたんですか?固まってますけど?」


「何か、ショックを受けているようだな」



◇◇◇



放心状態の俺は、友人達によって、無理やり引き摺るように医務室に連れてこられた。

医務室の先生に治癒魔法で出血を止めて貰ったが、自己再生能力の低下を抑えるために、あとは自己治癒力で治した方が良いと言われ、軟膏を塗って傷テープを貼って終わりだった。


医務室から出ると、1人の令嬢がいた。


「あっ!あの、レオン様!お怪我は大丈夫ですか?これ、もし宜しければ切り傷に良く効く軟膏なんです!貰ってください!」


差し出された小さなケース。


「いや、例え傷薬だとしても、贈り物は受け取れないから、すまない」


「あっ……そうですか。そうですよね、すみませんでした!失礼しました!」


パタパタと令嬢が去っていった。



「傷薬くらい、貰っても平気じゃないか?」


「どんな小さなことでも、フレイヤに誤解されたくない。それに、大した怪我でもない」


「ブレないな……」


「まぁ、しかし、婚約しても人気あるね。さすがだね」


嬉しくない。


「あのご令嬢も婚約者のいるレオンに近寄って、醜聞になったりしたらとか思わなかったのかな?」


「傷薬くらいなら逆に聖女だと思われるんじゃないか?」


「そうか?」


「俺は思ったぞ。可愛かったし」


友人の話を適当に聞き流す。


「レオン。今の令嬢、ドルバック伯爵の妹だぞ。フーシェ侯爵令嬢だ」


殿下がこっそり教えてくださった。


「今のが……」


侯爵の愛人の娘。ドルバック伯爵は冴えない顔だが、今の令嬢は綺麗な顔立ちをしていた。


「ドルバック伯爵の妹は、お前に惚れているみたいだな」


もしそうなら断って良かった。気のある者からの贈り物を受け取れば、どんな噂をされるか分からない。


例え愛が重いと思われようとも、彼女を傷付けるようなことにはなって欲しくない。


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