15.囲い
アカデミーの授業後の、レオン様との魔法レッスン。
「氷の塊を浮かせて、檻に閉じ込める」
「はい」
「檻に防御魔法をかけて」
「はい」
「そしたら全体に炎を纏わす。魔力を出しすぎないように、一気に出さずに少しずつね」
「はい……」
「もう少し……いいね。そのくらい。ちょっとキープ。炎が弱くならないように魔力を微調整して」
「んんん……」
結構きつい。一定量の魔力を出し続けるのは集中力も体力も使う。
「OK!炎だけを消して」
「炎……だけ……」
フッと炎を消す。
「氷の様子はどう?」
「溶けてないです!」
「防御魔法がちゃんと出来てる証拠だね。氷も檻も防御魔法も消えていないから、炎だけ消すのも問題なく出来たようだね」
「良かったぁ」
「はい、まだ安心しないよ。今度は防御魔法を解いて」
「はい」
「そうしたらまた炎を纏わせて」
「はい……あっ……出しすぎたかな……」
檻の中の氷は炎で溶かされ、あっという間に蒸発して消えてしまった。
「ちょっと強かった気もするけど、まあ、合格点かな。最後、炎と檻の魔法を解除」
フッと炎と檻を消す。
「良かったぁ。出来た。ありがとうございます」
くしゃりと頭を撫でてくれる。
「だいぶ安定してきたね」
おお……今日も美形の微笑みは破壊力満点。
「どう?魔力の余力ある?」
「大丈夫です!まだ出来ます!」
「じゃあ、今度は動く対象物を捕らえる練習をしよう」
「はい!」
「空中に鳥を出すから、1羽ずつ檻で囲ってみて。いくよ」
そう言うと、空中に掌サイズの火の鳥が現れ、レッスン場内を飛び回る。
目標を定めて檻を出すけど、火の鳥の動きが素早く、上手く囲えない。
「鳥の動きが速いから、動きを予測して進行方向に檻を出すんだ」
(進行方向……あっ……)
火の鳥の進行方向に檻を出すのだが、急に旋回して避けられてしまった。
(難しい……もう一回!)
でもなかなか檻で囲えない。
「鳥の飛行するルートのパターンを観察して予測してみて」
レッスン場内を飛び回る火の鳥の飛行ルート……成る程!確かに火の鳥はレッスン場を飛び回ってはいるが、飛行ルートは比較的同じなのだ。
(あそこを旋回したら……直線を狙って……)
ガシャンッと火の鳥を檻で囲うことが出来た。
「やった!出来た!」
「いいね!じゃあ、もう1羽出すよ」
今度は氷の鳥だ!クリスタルでちょっと見えにくい。
(また飛行ルートを観察して……)
「……パターン無いですか?」
「そうだね。無くしてみた」
意外と意地悪だ。
いや、私の訓練の為よね。そうに違いない。うん。
とりあえず、観察してみる。
よく動き回る氷の鳥。火の鳥より素早い。
動き回るなら、動きが鈍くなるように、もしくは動かなくなるように出来ないかな。
(氷だから、火を当ててみる?)
思い立ったら即行動!
「えいっ!」
氷の鳥の前に炎を出してみる。嫌がって横に逸れた。
(進行方向を限定させたらどうだろう?)
思い立ったら即行動!
「んんんっ……」
ちょっと魔力を使うけど、壁に沿って炎の壁を作り、通路を作り誘導させ、檻を出した。
が、檻は空っぽ。氷の鳥は檻の手前で降下して、炎の壁の下を潜って逃げて行ってしまった。
「ああああ……」
「惜しいな。あとちょっとだったな」
ガクッと両手をついて項垂れる。悔しい。
しかし、炎の壁で少し魔力を使いすぎてしまった。これまでもレッスンや授業でも魔力を使ってきたから、回復が間に合わない。
はあはあと、呼吸が乱れる。
「大丈夫か?無理をさせ過ぎたかな。すまなかった」
「はぁ……いえ、私がなかなか捕らえられずに、無駄に魔力を使い過ぎたせいです」
「今日は終わりにしよう」
「はい……」
捕らえられず残念。次までの課題だな。
◇◇◇
レッスン場の裏の湖畔で少し休憩することにした。
秋の湖畔は、紅葉が湖に写り、赤や黄色が2倍だ。水面に落ち葉が舞い降り、波紋が広がる様も美しい。
まだ日の光が届く時間。けれど、日が短くなってきたから、じきに陰ってくるだろう。それまでの休憩。
「氷の鳥はどうしたら捕らえることが出来るんだろう……横だけじゃなく上も下も塞ぐ?そうすると魔力を使いすぎちゃう……上は天井を利用して、横と下だけにするとか……思い切って大きな檻を出して、閉じ込めたら檻を小さくするとか……それも魔力を使いすぎちゃうかな……ブツブツ」
「魔法のことばっかり考えてる?」
「どうしたらいいんだろうって、気になっちゃって」
ざわざわと木々が揺れ、冷たい風が顔に当たる。
ブルッとした。日が当たっていても、水辺は少し寒い。
そんな私に気付いて、レオン様は肩を抱き寄せる。
「寒い?くっついていれば温かいよ」
温かいけど、まだ慣れない私は恥ずかしい。
でも照れた顔を見せると、レオン様はいつも「可愛い」と言ってキスをしてくる。
でも今日は手でレオン様の口をストップさせた。
「ダメです。何処で誰が見てるか分かりません。アカデミーではダメです」
赤い顔で言って説得力があるのかどうか。
「……素早いな」
そう言うけど、レオン様の方が素早いのだ。横にいた筈なのに、いつの間にか体勢が変わって後ろから抱き締められる。
「赤くなった顔を見るとキスしたくなるから、これなら我慢出来るかなと。この方が温かいな」
囲われている。これはいつぞやの体勢と同じ。
「……この間、レオン様、私のクマ、見ましたよね?」
「……鳥は種類にもよるけど、殆どの種は真後ろが死角になるから、後ろから狙うのも手だよ」
いつぞやも後ろから狙われましたしね。
「……寝顔も見ましたよね?」
「……また怖い目にあったら俺のところに転移しておいで」
「話をはぐらかさないでください」
「……とっても可愛い寝顔を見た」
「嘘です!可愛くないです!酷い顔でしたもん!」
「恥ずかしがると余計に見たくなるのが男心だよ。ああ、耳まで真っ赤になってるよ」
すると、耳にキスされ、舌で舐められた。
ゾクリと背中に何かが走った感覚を覚え吃驚して声が出た。
「ひゃっ……うぅん……」
えっ!!!
咄嗟に両手で口を押えた。
(何今の声!私の声?なんか……恥ずかしい声だった……)
自分の出した声に動揺してしまった。
(……レオン様、何も言わない?)
黙ってしまったレオン様が気になり、そろりと振り向くと、赤い顔をしたレオン様と目が合った。
(あか……い?レオン様も、照れてるの?)
「あ……すまない。調子に、乗ってしまった、かな」
両手で口を押えたままなので、コクコクと頷く。
そのままお互いの赤い顔を見られなくなり、湖畔が陰ってくるまで、後ろから抱き締めてもらう体勢のまま無言でいた。




