14.その道のプロ
分からないことがあればその道のプロに聞け。
と言うことで、女たらしの兄に聞いてみた。
「兄さん。俺と婚約したことで、フレイヤが令嬢から悪意ある言葉を言われているらしいんだ。どうしたらいい?」
「何も出来ることはない」
「は?」
まさかの一刀両断。
「女の揉め事に男が入ると余計に拗れる。お前がフレイヤを庇えば庇う程、嫉妬が大きくなり、言葉だけで済んでる今より酷いことになる」
「そう……なのか……」
「この間言っただろ?ドレスを切られたり、飲み物をかけられたり。そんなの見たいか?見たくないなら余計なことをするな。まあ、言葉の方が時には鋭い刃に感じることもあるけどな」
見たくない。そんなことで傷付くフレイヤは見たくない。
しかし、余計なことはするなとは……。
何も手立ては無いのか。
俺が彼女にしてあげられることは何も無いのか。
「……でも、リーズ公爵家に不法侵入した者は、その妬んでいる令嬢の可能性もあると言っていたんだ」
「ふ~ん……。可能性の一つだろ?普通に考えて、妬んでいるからと言ってリーズ公爵家に侵入するのはかなりのリスクだ。ソフィア様の直系だぞ?もし捕まったら?嫌がらせの範疇を越えている。アカデミーの学生程度の令嬢が出来ることではないな。まあ、プロに依頼した可能性はあるが」
「まあ、確かに」
「それに、何も盗まれなかったのだろ?ある目的のものがはっきりとしていて、それが見つけられなかったんだろう。妬んでいる令嬢が何を盗むんだ?お前からプレゼントされたネックレスか?そんなものを着けてたらすぐに犯人だとバレる。不法侵入されたという事実で辱しめる為か?ただ悪意ある言葉でコソコソ隠れながら攻撃していただけの令嬢が、いきなりそんなリスクある攻撃をするとは思えないな」
兄の言葉に納得だ。
「不法侵入の犯人は妬んでいる令嬢ではないだろうから、犯人探しはリーズ公爵家と警備隊に任せておけ。悪意ある言葉で攻撃する令嬢は、フレイヤが強くなるしかないな。それか、公爵家という権力を使うか」
「強くなるとは?権力とは?」
「具体的に何を言われたのかは分からないが、文句も言えない程の実力を身に付けることだな。カリナみたいに、顔もスタイルも魔力も魔法技術も教養も、誰も文句言えない程のレベルであれば、言ってくる奴も少ないし、言われても屁でもないだろ。それどころか、一目置かれて同姓から憧れられる存在だ。言われてもアイツなら笑顔で言い返せるメンタルがあるしな」
あのレベルになるのは……大変だ。
あのメンタルと気の強さは……ちょっと……フレイヤには今のままでいて欲しい。
「公爵家の権力は、犯人を見つけ出して公に晒して、社交場に2度と出られない程の醜聞を広め、他の貴族を巻き込んで圧力をかけることだ。犯人と同じことをするようものなら、同じ目に遇わせるぞって、まあ、脅しみたいなことだな」
貴族社会やだなぁ。
そんなことも言ってられないのだけど。自分もいずれ公爵家に婿入りするのだから。
「フレイヤが抱えるプレッシャーは大きなものだろう。始まりの魔女ソフィア様の直系、子どもはただ1人。偉大な魔女を先祖に持っているのに、彼女は魔力コントロールがまだ不安定なんだろ?魔法に対するコンプレックスというか、名に恥じない技術を身に付けたいのに、上手く行かないもどかしさ。俺も長男だから、似たようなプレッシャーはあった。だからお前はこれまで通り、魔法を教えてやれば良いんじゃないのか?」
「兄さんもこの家に生まれてプレッシャーがあったの?」
「そりゃあ、あるだろ。お前は気楽な立場だろうがな。男の俺は魔女には魔力量では勝てない。だから技術を学ぶしかなかった。家の為、始まりの魔女の家系に相応しい力を維持する為、他の貴族に負けるわけにはいかないしな」
兄の意外な一面を見た。小さい頃は何をやっても敵わなくて、負けては泣いていた。年の差はあっても、兄として負けられないプレッシャーがあったのだろう。
そして公爵家嫡男として、他の貴族に下に見られないように、権力だけでなく実力を示してきたのか。
「アリーチェ王女殿下が、兄さんと仮装トーナメント大会で対戦したとき、ねちっこい戦い方だったって……」
「相手の嫌がる戦法を使うのは当然のことだろう?それが王女であろうとな」
エドワード殿下にわざと負けた俺とは大違いだな。
俺はエドワード殿下の友人として、幼い頃から質の高い教育や剣術の指導を一緒に受けさせて貰ってきた。お陰でアカデミーでも成績は良い。
俺が経験してこなかった悩みを彼女は抱えているのか。
「兄さん、ありがとう。とりあえず、魔法レッスンを続けるよ」
「そうだな。あとは、社交場にはカリナをそばにつけてやればいいだろ。化粧室とか茶会とかは男が立ち入れないからな。そうすれば手出し出来ない。アイツもフレイヤのことを気に入ってるんだろ?喜んでやるだろ」
頼もしい兄妹だな。
2人ともなかなか癖は強いが……。




