13.確信犯
エミリー様が戻ってきて、そのまま案内をしてくれた。どうやら会わせて貰えるようだ。
「フレイヤの部屋は暫く別の部屋に移動することにしたの。顔をお見せできないって言うから、ベッドの天蓋を下ろしてあげたの。だから極力覗かないであげてね」
「わかりました」
コンコンコンと扉を叩く。
「フレイヤ、レオン様を連れてきたわよ。入るわね」
そして扉を開けて、「どうぞ」と案内だけしてエミリー様は行ってしまった。
部屋の中は空き部屋だったのかシンプルな壁紙と、落ち着いた茶色で統一された家具が置かれているだけだった。
フレイヤはベッドにいるのだろう。エミリー様が言っていたように、天蓋が掛けられている。そして、影が写っている。
そのフレイヤと思われる影に近寄る。
「フレイヤ」
声を掛けると、影がびくりと跳ねる。
「あのっ!こ、こんな、布越しですみません!わざわざ来ていただいたのに……我が儘を言って…しまって……」
「いや、いいよ。俺に見せるのが恥ずかしいと思ってくれたんだろう?その気持ちが嬉しい」
「本当に…酷い顔をしてて」
「フレイヤ。俺は君のどんな顔でも、どんな姿でも、どんな格好をしていても、見たいと思ってしまうんだ」
「私は……恥ずかしいです」
「じゃあ、俺に背を向けて、向こうを見てて」
「む、向こう、ですか??」
天蓋の向こうで、ごそごそと動く音がする。
天蓋を開けて、ベッドに乗り上げて、背を向けているフレイヤを抱き締めた。
「ひゃっ!あ、あのっ!」
「これなら見えないだろう?」
「ほ、ほんとうに、見ませんか……?」
「ああ。君が、無事で良かった……。すまない。これは俺の我が儘だ。君を抱き締めて、俺が安心したかったんだ」
ぎゅっと抱き締める力を強くする。クマが出来てしまうくらいだ。未だに寝られない程の怖い思いをしたのだろう。
「……あったかい、です」
「そうか。寝れそうなら寝ていいよ」
「寝たら、顔、見られてしまいます……」
「クマも寝顔も見たいと思ってしまうんだけど。なんなら、いつか……同じベッドの上で、君の寝起きの顔を見られるようになるのが楽しみなんだ」
髪の間から覗く耳や首が真っ赤だ。恥ずかしがっているのだろう。
黙り込んでしまったフレイヤの少し早い鼓動の音が、抱き締めた背から伝わってくる。
この愛しい人の不安を、俺が全部取り払えられたらいいのに。
しかし、俺のせいかもしれないのだ。
どうしたら良いのだろう。
どうしたら令嬢が彼女を妬んだり悪意をぶつけたりしないで済む?
どうしたら彼女を守れる?
俺に出来ることは何だろう。
暫くすると、彼女がウトウトし出した。
このまま寝てくれればいい。
彼女の手を握り、魔法で温めた。
「あった…かい……です………」
それだけポツリと言って、目を閉じた。
どのくらいそうしていただろうか。次第に俺の胸に寄りかかってきた重みを感じ、寝たようだと分かった。
ゆっくりと体を横に倒してやる。そうすると顔がよく見えた。
化粧で隠してもうっすら見えるクマ。
それすら愛おしく見えてしまう寝顔。
恥ずかしがらなくても良いのに。
見られるのが恥ずかしいというのが乙女心なら、何でも見たいと思ってしまうのが男心だろう。
布団を掛けてやり、可愛い寝顔の額にキスをする。
「おやすみ」
クマを見てしまったことも、寝顔を見てしまったことも、次会った時に怒られてしまうだろうか。
可愛い顔を見ることが出来たのだから、怒られることくらい大したことじゃない。嫌われなければ良い。素直に怒られておこう。
◇◇◇
目が覚めたら、朝だった。まだ薄暗い。
(夢だった……?)
昨日、レオン様が来たのは夢だったのだろうか?
そもそも深夜に侵入してきた人すら夢だった?
(でも、ここ、自分の部屋じゃない。侵入者は夢じゃなく現実だわ)
ずっと寝られなくて、クマが消えなくて、レオン様に会うのが恥ずかしくて、でも会いたくて、お母様に我が儘を言って天蓋を下ろして貰ったんだ。
どんな顔でも見たいと言って。
後ろから抱き締めてくれて。
寝起きの顔を見るのが楽しみだと言ってくれて。
同じ、ベッドで……ああ!それは想像すると恥ずかしい!まだ私には無理!!なんてことを平気で言うのだ、あの方は……!!!
また顔が火照ってしまう。
恥ずかしかったのに、抱き締められて背中が温かくなって、それは安心する温もりで。手を握り、手も温めてくれた。そしたらもう、睡眠魔法でも掛けられたのかと思うくらい簡単に意識を手離してしまった。
つまり……
見られたのよね……きっと……
クマも、寝顔も……
見ないって言ってたのに……
いや。はっきりとレオン様は見ないとは言わなかった。なんか……上手く流された?見るつもりで、はぐらかしてた?確信犯??
どんな顔でも見たいって言ってくれたけれど、酷い顔だと幻滅しなかっただろうか?
可愛くないと思わなかっただろうか?
私のこと、嫌いになっていないだろうか?
恥ずかしさで顔は熱いのに、秋の朝の空気はひんやりしていて、何だか背中が寒く寂しく感じた。




