10.ヤキモチを妬く男
「殿下、ドルバック伯爵ってどんな方ですか?」
「どうした、急に。面白そうな話か?話せ」
面白がらないで欲しい。全くこの方は。
しかし情報は欲しいので簡単に新歓パーティーであったことを説明する。
「なるほど、ヤキモチか。モテるレオンもフレイヤには形無しだな」
「からかいはもう良いですから、ドルバック伯爵のこと教えてください」
「なんだ、つまらん。まあいいや。お前、姉上の婚約者候補だった王宮魔導士のこと覚えているか?」
俺がアリーチェ王女殿下の婚約者候補になってしまい、婚約話を断ったにもかかわらず、フレイヤにわざわざ婚約話を教えられてしまったことに焦って、殿下と直接話をつけに行った時に、チラッとエドワード殿下が名前を挙げていた記憶がある。
「アリーチェ王女殿下が、王宮魔導士筆頭になることを期待していると仰っていた方ですか?」
「そうだ。まあ、それは建前で顔が冴えないタイプだから婚約者候補から外したらしいが。それがドルバック伯爵だ」
「そうなんですか」
さすが美形好きのアリーチェ王女殿下。確かに整った顔立ちでは無かったな。でも優しそうで真面目そうな印象だった。
「フーシェ侯爵家の子息で、親が持っていたドルバック伯爵名を継承したばかりだ。とても魔力が高く魔法に関する知識も深い。優秀な魔導士だ。姉上が言うには魔法のことしか考えていないらしいがな。今は魔道具関係の部署にいるが、確か王宮に仕えるようになった頃は、リーズ公爵が指導していたと思ったが。それで邸に招待されたりしてフレイヤとも顔見知りになったのではないか?」
「そうなのですか」
魔法のことしか考えていない……か。フレイヤは魔法談義が好きだ。それで親しくなったのかもしれない。
でも、親しいからと言ってフレイヤに手を延ばそうとしていたのは、許せるものではない。何をしようとしていたのか……考えるとモヤモヤしてしまう。触れる前に間に合って良かった。あの白く綺麗な肌に勝手な行動をするなと。の男が触れるなんて、絶対に許せない。俺だって、まだ、触れられないのに……。
「フレイヤには聞いてないのか?」
「……聞いていません」
「聞けばいいだろ?」
「フレイヤから他の男の話なんて聞きたくありません」
ぶはっと殿下らしくない吹き出し方をして笑い出した。
「殿下~!パーティーでレオンは無自覚にご令嬢達を落としてたんですよ~。フレイヤちゃんが可愛くて仕方がなくて、顔が緩みっぱなしだったんです」
「化粧室に行ったフレイヤ嬢を迎えに行ったと思ったら全然戻ってこないし、どこで何してたんだか。なあ、レオン?」
「疲れたから外の空気を吸いに出て、休んでただけだ。含みを持たせる言い方は止めろ」
「はいはい」
殿下のみならず、友人達にまで面白がられている。不本意だ。
「そんな面白かったのか。私も変装してお忍びで参加すれば良かったな」
いろいろ面倒なので止めてください。
「そういえば、ドルバック伯爵の腹違いの妹が魔法科の1年になったのではなかったかな」
「妹のエスコートで来たと言ってました」
「腹違いでも仲が良いのだな」
「後妻ですか?」
「愛人の子だ。侯爵夫人は体調を崩されて領地で療養していると聞いている。それをいいことにフーシェ侯爵はその愛人と王都の邸で暮らしている。社交場にも堂々とその愛人を伴って参加しているしな。娘の魔力がまた高いらしく、アカデミーの基礎科の成績も良かったそうだ」
貴族もいろいろあるものだな。父の愛人の子をエスコートするとは、どういう心境なのだろう。
「愛人!羨ましい!」
ピクリとする。さすがにその言葉は友人とて許せるものではない。
「おい。愛人が羨ましいとか言うお前はもうカリナに近づくな」
「なんだよレオン!急に兄ぶりやがって」
「兄だからな。血の繋がった大事な妹だ。新歓パーティーではカリナと踊っていたようだけど、2度とダンスは踊らせんからな」
「ケチー!踊るくらい許せ──」
「そうかそうか。そんなにパーティーでは面白いことがあったのか。もっと詳しく話を聞かせろ。続きを話せるか?声が出せるか?レオンの大事な妹だぞ?大事に出来そうもないお前とのダンスを兄のレオンが許すわけが無いだろ?」
あれ?珍しく笑顔の裏の怖さが露骨に出ちゃってますよ、殿下。
殿下は友人の首を腕でギギギと締め上げながら、話を聞かせろと言っているが、それじゃあ話せませんよー。友人の顔は苦しいのか真っ赤だ。何しろ殿下はなかなかの筋肉を持ち合わせている剣術馬……ゴホン、剣術好きだ。締め上げている殿下の腕をタップしながら、友人が「ギブギブ!」と叫んでいる。
殿下だってヤキモチを妬いてるではないか。
しかも俺の名前を使って。
「ここにカリナちゃんの兄がもう一人いたぞ……」
……何故バレないのだろう。
まあ、俺も最近まで気付かなかったんだけど。




