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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
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9.美形の口

沈んだ気持ちを何とか切り替えて、化粧室から出た。ダンスの音楽が遠くに聞こえる。切り替えたつもりでも、華やかな会場から置いてきぼりを食らったような気分がした。


(だめだ、だめだ!暗いぞ、フレイヤ)


どこで誰が見てるか分からないのだ。背筋を伸ばして堂々と歩かなくてはならない。私のせいでベルック公爵家に迷惑をかける訳にはいかない。


「もしかして、フレイヤ嬢?」


男性の声のする方を見やると、見覚えがあるような方がいた。必死に記憶を探る。


「えっと……フーシェ卿」


「今はドルバック伯爵を名乗っているよ」


「そうなのですね。ドルバック伯爵、お久し振りに御目にかかります」


「すっかり大人びて、見違えるようだよ」


「ありがとうございます」


「おや?その青い石のネックレスは……」


今日もお気に入りのソフィア様の青い石のネックレスをしていた。今日にあわせてレオン様がネックレスを贈ってくださったのだが、私がこの青い石のネックレスを気に入っていることを知っている為、重ね着け出来るようなシンプルなデザインのものを贈ってくださった。


贈り物が届いて開けて喜んでいたら、母に「愛が凄いわね」と言われた。そんな高価な石が付いている訳でもないのにどう言う意味か聞いたら、


「ネックレスを贈るのは、≪束縛≫や≪独占≫を意味するのよ。≪ずっと一緒にいて欲しい≫とかね。アクセサリーも花言葉みたいに、想いを込めて贈られるものなのよ。それに、それ、レオン様の瞳の色でしょ」


またしても顔が真っ赤になってしまったのは、仕方ないと思う。お母様もどこか楽しんでいる節がある気がする。


まあ、それはさておき。


レオン様の贈ってくださったネックレスは、青い石のネックレスのゴールドチェーンにあわせて、肌馴染みの良いゴールドの物だ。なので青い石が目立つようになっている。


「このネックレスがどうかされました?」


「なんか……魔力を感じるね」


「魔力……ですか?」


青い石に引き寄せられるように、ドルバック伯爵の手が延びてきた。


「フレイヤ!」


石に触れる直前に、レオン様の声がした。振り向いて姿を見た瞬間に、私とドルバック伯爵との間にスッと体を入り込ませる。相変わらずの素早く軽い身のこなし。騎士科って、本当に凄い。


「こちらは?」


「あっ、あの、ドルバック伯爵で、父や母と同じ王宮魔導士の方で、何度かお会いになったことがあるのです」


レオン様の鋭い雰囲気に慌てて紹介をした。何だか言い訳をしているような気分なのは、何故なんだろう。


「ああ、フレイヤ嬢はベルック公爵の子息と婚約をされたんだったな。軽々しく話し掛けてしまって申し訳ない」


「いえ……」


ドルバック伯爵はニコリと笑顔で謝罪をしてくれたが、レオン様の鋭い雰囲気は消えないようだ。


「今日は妹のエスコートで来たのだが、妹が何処かに行ってしまって探していたところだったんだ。また探しに出掛けるとするよ」


そう言ってドルバック伯爵は去っていった。


「何も……無かった?戻りが遅いから、心配したんだ」


レオン様は私の腰をグッと引き寄せ、顔を覗き込んでくる。


(いやっ……!ちょっ……!美形の顔が近いです!!今日はいつもに増して美しいので耐えられません……!)


「なっ、何も、無いです!」


化粧室で嫌みは言われたけれど、わざわざレオン様に伝えることでもない。

ドルバック伯爵とは少し話をしただけで、すぐにレオン様が来たし。


「それならいいけど……。少し、外の空気を吸いに行こうか」


レオン様は私の腰に手を回したまま、庭園まで連れて来た。この会場の庭園はとても広く、噴水もある。


しかしよく見ると、あちこちにカップルらしき男女がいた。逢瀬の場なのだろうか……。

学生ばかりとは言え、私達のように婚約している人もいるだろうし、恋人同士もいるだろう。もしかしたら、今日出会った人達もいるかもしれない。


何故かソワソワしてしまう。


秋の大きく綺麗な月を眺めながら、空いているベンチに座る。レオン様はちゃんとハンカチを敷いてくれた。カリナ様に仕込まれているそうだ。


ここに辿り着くまでに、草むらの向こうから官能的な声が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。


涼しい風が、少し火照った頬を気持ち良く落ち着かせてくれる様だ。


「ここは……失敗したかな。雰囲気にあてられ、キスをしてしまいそうだ」


ドキリとする。レオン様もこの周りのカップルが醸し出す雰囲気にソワソワしているのだろうか。社交場に慣れない2人が迷い込んでしまった。


「流されてして、誰かに見られでもしたら、君に迷惑が掛かるな」


口さがない者にそりゃもう好き勝手に噂されることでしょう。節操が無いだの、品位が卑しいだの。さっきだってわざわざ追い掛けて悪言を吐かれたのだから、今だってどこで見られているのか分からない。


「いえっ!レオン様に迷惑が掛かってしまうのが怖いです」


「俺は構わないけどな」


辺りは暗く、少しの灯りと月の明かりだけ。それでもレオン様の顔は、顔の造形に影がくっきり入り、余計に格好良さが増している気がする。

見つめられても、見つめ返す程の度胸はなく、俯いてしまう。


「本当に、君を拐ってしまいたいな。俯くと、赤くなったうなじがよく見えるんだよ」


うなじ!?

隠したくても隠せるものがない!

ストールを持ってきたら良かった。

髪型をハーフアップにすれば良かった。


「……そんなことをしたら、マデリン様やカリナ様に怒られますよ?」


ちょっとした仕返しのつもりで言った。


「そうだな。それに、好きな君に嫌われたくないし、我慢する」


美形の口には敵わない。



しかも、帰りの馬車の中、誰にも見られないことを良いことに、キスをした。何度も何度も。呼吸もままならない、身体中が火照ってしまうような、我慢なんて1ミリもない強く求めてくるキスだった。


レオン様の唇に私のコーラルレッドの口紅がついた。邸で侍女によって唇に載せられ鏡越しに見た時、気後れする程に何て大人な色だろうと思った。その口紅が唇に移ってしまったレオン様の顔は艶かしく、心臓が止まりそうな程で、慌てて指で拭ったら、指を咥えられ、食べられそうになった。


やっぱり、美形の口には敵いそうもない。



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