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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
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6.悪意然り

これまでの私には考えられないような、華やかで勝手に視線を集めてしまう落ち着かないランチが終わり、トイレの個室で「はあ」とやっと一息つけたと思いながらも、今後が不安になっていた。


(毎日、こんな感じなんだろうか)


食事を楽しむどころではない。そのうちこれも収まるのか。私が慣れるのか……。


(魔法で目立ちたいと思っていた私だけど、こういう目立ち方をするとは……)


人を惹き付ける魅力を持った方と婚約をしたのだから、仕方ないとは思うし、覚悟もしていたつもりだったけれど、実際に体験すると精神が持たないことが分かった。


(レオン様や殿下、カリナ様も、これまでずっとこんな感じだったのだろうか。同じ始まりの魔女の家系でも、私が知らずにいたこんな苦労をされてきていたのだろうな……)


その時だった。私が入っているトイレの個室のドアをバンッと強く叩かれた。


「ソフィア様の直系だからレオン様と婚約出来たんでしょ!魔法の技術も劣ってるのに、自惚れてんじゃないわよ!」


(えっ……)


初めてだった。こんな風に悪意を向けられたのは。


その場から暫く動けなくなってしまった。




頭では、顔も見せずに嫉妬心をぶつけてくる人の言うことなんか、気にしなくてもいいと思うのに、どこかで自分でも思っていたことだから、改めて人に言われることで心にずしりとのし掛かってくるようだった。


レオン様と婚約するということは、悲しむ令嬢に敵意を向けられる。そんな覚悟も、何となくしてはいた。

でも、親しい友人には羨ましがられたけれど、敵意を向けられることもなく、これからも変わらない友人関係でいられることが分かって嬉しかった。

それどころか、


「長期休暇前に、まさかの憧れのレオン様が1年生の教室に現れ、話しかけられて会話することが出来たのだから、フレイヤのお陰よ!ありがとう!!」


と、言われ感謝されたぐらいだ。大切な友人を失うこともなく、アカデミーのほぼ全令嬢を敵に回すことにもならずに済んだことにほっとした。


だからかもしれないが、私にとっては、「魔法技術が劣っている」という言葉の方が、深く刺さった。


その通りだから。



「フレイヤ?ぼーっとしてる様だけど、大丈夫か?」


はっとする。

顔をあげると、心配そうな顔をしたレオン様が覗き込んでいた。


「ごめんなさい!大丈夫です!」


しまったと思った。

今はレオン様との授業後の魔法レッスン中だった。


「疲れているのではないか?」


「いえっ!大丈夫ですから、レッスンの続きをお願いします」


もう基礎科でもないのに、私は魔力コントロールが不安定だ。しかも2年生になったのだ。カリナ様達1年の後輩も出来たのだから、もっとちゃんとお手本になれるように、魔力コントロールを安定させたい。


ソフィア様の直系として、家に恥じない技術を習得したい。


もう、「魔法技術が劣っている」なんて言われたくない。


「魔法は集中出来ていないと危ない。無理はしない方がいい」


「でもっ…!やりたいのです!お願いします!」


レオン様の言うことは分かっているけれど、どうしても1日でも早く上達したいからと、頭を深く下げてお願いする。


頭を下げているからレオン様の顔は見えないけれど、頭の上で溜め息の音が聞こえた。


「……君を疲れさせた原因は俺だろう?すまなかった」


謝罪の言葉に驚いて慌てて顔を上げる。


「ち、違います!疲れている訳ではなくて、えっと……何と言いますか……」


何も言い訳が思い付かない。情けない。

疲れている訳ではないのだ。それは本当で。あえて言うなら、焦っているだろうか。


「よし!今日はもうレッスンをやめよう」


「えっ!それは、嫌です!」


「デートしよう!」


「へ?デ、デー……ト?」


予想外の提案に間抜けな声が出てしまった。


「いつもこの初秋の時期、カリナに連れていかれる洋梨のタルトが美味しいお店があるんだ。一緒に行こう」


レオン様はそう言うと、さっと私の腰に手を回して、レッスン場の外に連れ出す。

この強引なのにさりげない感じ、カリナ様と同じだなと思った。しかし、それより……


(わわわわわっ!こっ、こっ、こっ、腰!)


またまたニワトリみたいになってしまったが、声に出していないのでセーフということにしよう。


にしても、触れられている腰に意識が集中してしまう。そのドキドキで、魔力コントロールのことなんてすっかりどこかに消えてしまった。



そしてレオン様にエスコートされ連れてこられたお店の隅っこの席。


「ん!!美味しい~!」


カリナ様行きつけなだけあり、本当に美味しい洋梨のタルトだった。サクサクのタルト生地も、その上のアーモンドクリームも、洋梨本来のさわやかな甘味と酸味も感じる果肉も、全てが見事に合わさり美味しい。


その美味しさに思わず笑顔が零れてしまう程だ。


「やっと、笑ってくれた」


私の目の前で、変装したレオン様がニコニコしている。目立ってしまうからと、髪色を変え、眼鏡と帽子で顔を隠している。さらに、お店の隅っこの席、店内へ背を向けて座っている為、レオン様に気付く人はいない。私に気を遣ってくれたのだろう。


「お昼に、カリナ達と楽しそうに笑っているのが羨ましくて」


そんなことを思っているなんて、私は自分のことでいっぱいいっぱいで気付かなかった。顔が火照ってしまう。


「注目されて、戸惑わせてしまって、すまなかった。お昼はやっぱり別々にしよう」


また謝られてしまった。

否定したいのに、何だかレオン様の優しさで胸がいっぱいになってしまって、言葉が出てこない。だから代わりに、小さくコクリと頷いた。


私には本当に勿体ないくらい、優しくて素敵な婚約者だ。この人の隣に立つのに恥ずかしくない女性になりたい。


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