5.注目
長期休暇が終わり、王立アカデミーの新学期が始まった。
私とレオン様との婚約の話は、あっという間に貴族達に広まった。お互いが始まりの魔女の直系であり、歴史ある公爵家だ。かなりの話題となった、らしい。
そして、アカデミーでももちろん注目をされる訳なのだが……
「フレイヤは何にするの?」
「あの……私は、いつも、魚ランチ、です」
「じゃあ、俺も同じ物にしよう」
アカデミーの食堂。学年も科も違う為、レオン様が「お昼は一緒に」と言ってくださり、こうして食堂で一緒にランチをすることになったのだが、そこはやはりレオン様。周りからの視線を独り占め状態。
そして、レオン様は婚約後、私のことを「フレイヤ」と呼ぶようになった。それもくすぐったくて、呼ばれるこちらがまだ慣れない。そんな小さなことにもドキドキしてしまう。
「フレイヤは魚料理が好きなんだ?」
「は、はい」
「そうか」
そう言うレオン様の微笑みで周囲の令嬢から悲鳴と感嘆の声が上がる。
こうも注目される中でのご飯は、味を楽しむどころではなく、せっかくのサーモンときのこのパスタも美味しさがよく分からない。
「レオン。授業が終わった途端にさっさと何処かに行ったと思ったら、ここにいたのか」
声のする方を見ると、はい、エドワード殿下でした。それから、ご友人もご一緒のご様子。
慌てて立ち上がって頭を下げる。
「ああ、フレイヤ、気にしないでね。それからレオンとの婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「君がフレイヤちゃんね!可愛いね」
「あっ、えと、フ───」
「こいつらには挨拶しなくて良いよ」
「ひどっ!レオン、酷いな~」
「レオンをこんな風に変えちゃうなんて、凄いよね!それにしても、くちび───」
「おい」
私からはレオン様のお顔は見えないけど、多分怒ってらっしゃる気がする。ご友人が「ごめんごめん!もう言わないからっ!」と焦ったように謝っている。
「くちび」って、なんだろう?口火?
「しかし、レオンのフレイヤに向ける微笑みは、他のご令嬢からの注目を集めてしまうことを自覚した方がいいぞ」
「……」
「そうだぞ。フレイヤちゃんも注目されて落ち着いてご飯を食べられないんじゃないか?」
「……そう、だった?」
殿下やご友人に指摘され、レオン様がくるりとこちらに向き直り、私を心配して確認をしてくる。
「いえっ!そんな!だ、大丈夫です!」
必死に両手を振って大丈夫だとアピールするけれど、本当は味が分からない程落ち着かなかった。私が強がっているのはバレバレだろう。
「すまない、フレイヤ。気遣いが足りなかったな」
その美形の哀愁を帯びた表情と溜め息交じりの声は、その場にいた令嬢達の言葉を奪う程の破壊力だった。
間近で見てしまった私も、顔が火照り体が固まってしまった。失神直前だ。
「……令嬢達は、お前が婚約してショックを受けただろうけど、レオンのいろんな表情を見ることが出来て喜んでいるかもしれないな……」
殿下がボソリと言った言葉が遠くに聞こえた。
「殿下!レオンお兄様!」
そして続いてご登場したのがカリナ様だ。
「っかわいい~!」
「カリナちゃん!久し振り~!」
「……カリナ」
次から次へと凄いです。レオン様の周りが華やかなんでしょう。私はレオン様の隣にいることに居たたまれなくなってしまう。
レオン様は私に、「君以外にふさわしい人はいない」と言ってくれたけれど、ただただオロオロしてるだけの私は、どうしてもふさわしいと思えなくなってしまう。
「やあ、カリナ。魔法科への進学おめでとう」
「ありがとうございます、殿下。それにしても、凄く注目を集めていらっしゃいますね」
「レオンだからね」
「あ、なるほど!レオンお兄様ですもんね」
「おい」
「フレイヤ様!魔法科の先輩として授業のことお聞きしたいのですが、宜しいですか?」
「は、はい!私で分かることでしたら」
「カリナ……」
「お兄様、せっかくのフレイヤ様との時間を奪ってごめんなさい。でも、今日からまた授業後にレッスンされるのでしょう。またお会いできるのだから我慢してください。さあ!フレイヤ様、あちらに私の友人もいるのです。一緒に教えて頂けますか!」
「は、はい!」
カリナ様のペースでどんどん話が進んでいく。凄い。流れるように腕を取られ、グイグイと背を押され、促されるまま席に座れば、目の前には食べ途中だったサーモンときのこのパスタが置かれた。一緒に移動してきたようだ。
「殿下とレオンお兄様が揃っていると目立ちますから、こちらに避難した方がいいですよ」
「あ、ありがとう、ございます」
私に気を遣ってくださったのか。
いや、でも、カリナ様も絶世の美女と言われたアナベル様の直系。食堂にいる男性陣にチラ見されているし、憧れるような視線を送る令嬢もいる。
「こちらは私の友人達ですわ」
「あ、えっと、フレイヤ・ソフィア・リーズです」
「存じておりますわ!フレイヤ様とお話出来るなんて、カリナには感謝しなくちゃ!」
「ほんとね!フレイヤ様、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「早速なんですけど、魔法科の選択の授業について聞きたいのです。薬草学と気象学の───」
その後、授業内容や先生の噂等の話をした。強引に連れてこられたけれど、年下の方と話す機会が殆ど無かった私には、頼られる喜びがあり、また可愛く見えて仕方がなかった。
お母様がレオン様のお母様のことを妹のように思っていたと言っていたことを思い出す。
きっとこんな感情を抱いていたのだろうな。
何だか心が温かくなる感じがして、食べかけで少し伸びてしまったパスタも美味しく食べることが出来た。
◇◇◇
「大丈夫か?レオン」
「妹に奪われるとはな」
少し離れた席で、フレイヤがカリナ達と楽しそうに会話している。俺の前でもあんな笑顔をして欲しい……。
「完全に、少し前の堅物で表情があまり変わらないレオンに戻ったな」
邪魔しに来ておいて、好き勝手言いやがって。
「カリナはフレイヤを助けてあげただけだろう?そんな怒るなよ」
……殿下の言うことは分かるのだが、一緒にいたいのだから仕方ない。




