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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
30/159

1.入道雲

真っ青な空に浮かぶ入道雲。もくもくしていて柔らかそうで、美味しそうにも見える。あそこまで飛んでいってボヨンボヨンと飛び跳ねて遊んでみたい。むしりとって口に運んでみたらどんな味がするのか。


そんなことを小さな頃、思っていた。


でも大人に近づくにつれ、現実を知る。


雲は水蒸気がまとまった水や氷のつぶのかたまり。魔法を扱うには物体の原理や現象を学び、理解する必要がある為、王立アカデミーの基礎科で習った。


だから近づいてもむしりとれないのだ。そして、ボヨンボヨン飛び跳ねることもできない。それを知った時はショックだった。小さな夢が壊れたのだから仕方ない。


さらに、私は浮遊の魔法があまり得意ではないので、あんな上空まで飛んでいけない。本当にむしりとれないのか、ボヨンボヨン飛び跳ねることが出来ないのか、確かめることが出来ないのだ。


そして今日ももくもくもこもこした入道雲が空に浮かんでいる夏の暑い日、ソワソワと落ち着かない気持ちを静める為に、窓から空を見上げて、雲が何の形に見えるか考えていた。

定番は羊。それからソフトクリーム。

もっと発想力豊かに、サボテン、カエルアンコウ。

似ているものより、もっと形状に着目してみるなら……今着ているふわふわのドレス……。


(ああ!気持ちを落ち着かせようと思ったのに、結局現実に戻ってしまい落ち着かない!)


窓のサッシに手を掛けたまま、しゃがみこむように俯き溜め息を吐く。


「貴女がそんなに緊張しなくても。座ってお茶でも飲んだら?」


お母様が落ち着いた様子でソファに座り、紅茶のカップを口につけている。


「そ、そ、そ、そ、そうだ、な。フレイヤもこっちに、す、すわっ、すわったら、どうだ……」


おそらく私より緊張している人、お父様が紅茶のカップの取手に指を入れたまま、手が震えて持ち上げられない様で、カチャカチャ鳴っている。

そのまま持ち上げたら、きっと紅茶を溢して、せっかくの素敵な衣装が汚れてしまうだろう。


普段は王宮魔導士のローブ姿か、帰宅するとラフなシャツにズボン姿なので、見慣れないキッチリした格好だ。しかもお父様はアナベル様の家系らしいので、そこそこ美形なのだ。髪を後ろに撫で付けており、こんなに格好いいお父様を見るのは久し振りなんだけれど、何しろとにかく緊張して顔が強張っているので、申し訳ないが間抜けに見える。私のお父様なのだから、仕方ないのだけれど。


「貴方も落ち着きましょうね。お茶を溢してしまったら大変よ。さすがに着替える時間はなさそうだから」


お母様1人だけ落ち着き払っている。

何故そんなに平気でいられるのだ。

どんな心臓の持ち主なのだ。


お父様はお母様に言われて、紅茶を飲むのを諦めたようだ。カップの取手から震える指を引き抜き、両手の指を絡めて組むが、その手の震えは止まることがないようだ。


「普通、こういう時って、相手方の方が緊張しているんじゃないかしら。あなた達がそんなに緊張してどうするの?」


お母様は呆れている。


「いや、だって、アナベル様の直系なんだよ。ベルック公爵家だよ。直接お会いする機会がこれまであまり無かったから、そりゃあ、緊張するって……」


アナベル様の家系のお父様でも、直系の公爵家は緊張するのか。


「うちもソフィア様の直系の公爵家なんだけど」


その通りで分かってはいるが、緊張が解かれることはないのだ。

我が公爵家と相対することになった他家もこんな緊張感を持つのだろうか。社交場に出たことが無いので分からない。


いや、でも私のこの緊張感はアナベル様の直系のベルック公爵家にお会いするからだけではないのだ。


そして、気持ちが落ち着かないまま、窓の外から馬車の音が聞こえてきた。


その音に、私とお父様は顔を見合わせ、お互いにゴクリと唾を飲み込んだ。

ああ、私の顔も今のお父様みたいな緊張で強張った表情を通り越して、震える仔犬のような顔をしているのだろうな……。


部屋をコンコンコンとノックされ、扉を開けて執事が現れる。


「ご到着されました」


それを聞くなりさっと立ち上がり、私とお父様をニコリと笑顔で見るお母様。


「さっ、2人とも、お出迎えにいきますよ」


今日はレオン様と、レオン様のご両親であるベルック公爵閣下とベルック公爵夫人が、我がリーズ公爵家を訪れる日。


私とレオン様の婚約の挨拶だ。


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