29.キスまで
「お見合いパーティーですか!?」
実技試験も無事に終え、2年生に進級出来ることが決まり、アカデミーは長期休暇に入った。
そして今日は、レオン様のお母様とカリナ様からお茶会のお誘いを受けて、ベルック公爵邸を訪れていた。
通されたサロンは空調魔法でもかけているのか、夏なのにとても過ごしやすい気温だ。
「アリーチェ王女殿下が美形が好きだって言うから、レオンがアナベル様の家系の親族全てに手紙を出して、適齢年齢であり奥さんも婚約者も恋人もいない人を調べて、該当者全員を集めたお見合いパーティーをしたのよ」
「凄い……」
つまり、美形が勢揃いした訳だ。
「それはもう、何て言うか……ああ言うのは、ハーレムって言うのかしらね?男女逆?権力が欲しいが為にすり寄るような男性がいないか見極める為に、私も世話役としてその場に立ち会ったんだけど、殿下が美形を侍らせている様はなかなか面白い絵だったわ。あ、殿下が美形好きっていうのは内緒ね」
出来れば知りたくなかった最重要機密情報だ。
「その中から婚約者が決まったのですか?」
「そうよ。本当に愛しているのか嘘なのか、私分かっちゃうんだけれど、あ、それ私の特技なんだけれどね。王女殿下に一目惚れをして熱心にアプローチしていた、侯爵位を賜っているお家の方に決まったわ。殿下がお望みの『美形に愛されたい』というのが叶った形ね。もう暫くして準備が整ったら、正式に婚約者として発表される予定よ」
レオン様のお母様の特技って、独特だな。
「発表される前に、私が知ってしまって宜しかったのでしょうか……?」
「貴女とレオンにとっては、とっても重要なことでしょう?それに、レオンはこの為に必死になって動いていたのよ。それこそ、アカデミーの授業もそっちのけで、王女殿下が貴女に与えてしまった誤解を解く為にね。だから、ちゃんと知っておいて欲しかったのよ」
何だか恥ずかしくなってしまった。
レオン様は私の為に色々としてくださっていたのだ。
にも関わらず、私は変装して逃げ回り、勝手に王女殿下には敵わないと自分を卑下して落ち込み、何の努力もせずに卑屈になっていたのだ。
1度教室に来てくれた以降、私を訪ねてくることがなく、それが何だか悲しいと思ってしまっていた。自分が逃げていたくせに、縁が切れたのだと感じていた。でも、レオン様はただアカデミーに来られない程に王女殿下の婚約者探しに奮闘されていただけだったんだ。
本当に恥ずかしい。お面を被りたいくらいだ。
ああ、こういう時に令嬢とは扇子を開いて顔を隠すものなのだろうか。
「レオンはヘタレだけれど、少しは貴女に良いところを見せられたかしら」
「ヘタレだなんて……!そんなことないです!良いところばかりで」
「レオンお兄様はヘタレですわ!いきなりキスをしておきながら恥ずかしくて逃げたんですから!」
何で知っているんですかー!
筒抜けなんですね!!
もう恥ずかしさで顔は真っ赤だ。両手で顔を覆い隠してしまった。
「あら、可愛らしい反応ね」
「でも、赤いカーネーションを贈ったのには、レオンお兄様の成長を感じましたわね」
「?」
「あら?花言葉、ご存じないのかしら?」
「赤いカーネーションは≪あなたに会いたい≫っていう意味があるのですよ」
カリナ様の言葉に吃驚してしまった。そんな意味があるとは……。だからお母様はあんなことを仰っていたんだ……。
私の顔はもはや火照りが収まることはないかもしれない。
「おや。これは顔を真っ赤にして、とても可愛らしいご令嬢だね」
突然現れた男性……なんて美形だ!
顔を見た瞬間にぎょっとしてしまった。
「レオンの兄のエミリオだよ。よろしくね」
レオン様のお兄様!何という遺伝子!
「はっ、初めまして!フレイヤ・ソフィア・リーズと申します!」
慌てて立ち上がりご挨拶をする。
私はソフィア様の直系魔女である為、ミドルネームがソフィアなのだ。
すると物凄く自然にスルリと手を取られ、手の甲にキスされた。
その素早さに驚きを通り越して、唖然としてしまった。
「本当に魅力的な唇だね。レオンに飽きたらいつでも私のところにおいで──」
「行かないよ!!!」
ガシリと私の両肩を掴んで引き寄せられた。
背後にレオン様がいた。
いつの間に現れたのだ??素早い!騎士科って凄い。
「何勝手に乱入してるんだよ!俺だって我慢して待ってたのに」
「待っててもチャンスは来ないぞ?」
「エミリオお兄様!弟の恋人にちょっかい出すなんて最低ですわよ!」
「ちょっかいじゃないよ。挨拶しただけだ」
「あれが挨拶だなんて、お兄様の基準ってどうなっているのです!?」
この美形兄弟凄い……!
いや、美形家族か。お母様もエミリオ様もカリナ様も皆レオン様と同じアンバーの瞳で輝いて見える。
なんなら、邸を訪れた時に出迎えてくれた犬ですら美形だった。
美形家族に囲まれ、アリーチェ王女殿下に負けず劣らずの状況。殿下もきっとこんな興奮を内心していたのかもしれない。
「フレイヤちゃん、ごめんなさいね。エミリオってば、どうしてこんな育ち方をしたのかしら?さぁ、レオンが怒ってるから、私達は退散して2人っきりにしてあげましょうね」
そう言って美形親子は扉をパタンと閉めて去っていった。
でも、急に2人っきりにされても、先程聞いた話を思い出して恥ずかしさがぶり返してしまう。
「顔、真っ赤だけど、大丈夫?暑いなら部屋の温度をもっと下げるけど」
「いいいっ、いえ!大丈夫です!部屋はとても快適です!あの、アリーチェ王女殿下の婚約者についてお話を伺って、その、色々と、私の為に動いてくださってありがとうございました!あと、あの、かっ、カーネーションも贈ってくださって……嬉しかったです……」
最後はかなりゴニョゴニョと小声になってしまった。
恥ずかしくて顔が上げられないでいると、レオン様の大きな手が私の頬に添えられる。ソロリと上目遣いで顔を覗けば、美形のご尊顔が穏やかな笑顔を浮かべていた。
「そんな顔をしないで。我慢できなくなる」
ふちゅりとキスされた。
前の触れただけのキスとは違う、唇を食べられてしまうようなキス。
驚いて固まってしまった私に構わず、レオン様は両手で私の脇を抱え、持ち上げられたと思ったら膝の上に乗せられて、キスの続きをする。
簡単に持ち上げてしまうその腕力にもドキドキしてしまって。
なされるがまま、甘く深く体が火照ってしまうキスをする。
……タタタタタタッ
ん?タタタ?
バン!!!
「レオンー!結婚するまではちゃんと弁えなきゃ駄目よ!キスまでにしなさいよ!それから、2人っきりになっても部屋の扉は閉めきっては駄目!少し開けておきなさい!」
「閉めてったのはそっち……」
「邪魔したわね!続きをどうぞ!」
そう言って、扉を少しだけ開けて、レオン様のお母様はまた去っていった。
唖然としながらも、お母様にキスしているところを見られてしまったのだと頭が理解した瞬間、恥ずかしさがMAXになった。
しかしレオン様は違うようで、お母様が去っていった扉を見つめる私の顎をクイッと掴み、顔をレオン様に向けさせると、また軽い触れるだけのキスをチュッとした。
「続きの許可が出たから」
そう言うレオン様の顔は色気が凄くて、美という顔面凶器に力が抜けてしまった私は、結局なされるがままに、息が止まりそうになりながら、唇を重ね合わせ続けたのだ。
これのどこがヘタレなのだ。
親愛なるご先祖 ソフィア様──
貴女もこんな風にルーク様に敵わなかったのでしょうか……
それって、でも、幸せなことですよ、ね……?
END
これで第1部が完結となります。
前作が悲恋でしたので、今作は明るい話が書きたくなって出来上がった物語です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
また後日第2部を投稿いたしますので、お読みいただけたら嬉しく思います。
知香




