24.躍起
かなり苛立っている自覚はある。
いや、焦っているのかもしれない。
アカデミーの校舎の廊下を、カツカツと靴の音を力強く鳴らしながら、そして足早に歩いていた。
先週、2日連続でフレイヤ嬢が魔法レッスンに来なかった。待ちぼうけをくらった。
それもそうだろう。突然キスされ、何も言わなかった相手と会いたくないと思っても仕方がない。
嫌われたのなら顔も見たくないと思うだろう。
俺の責任だ。
どうにか挽回の機会をと思っていたところに、休日の昨日、突然彼女から手紙が来たのだ。
思いがけず来た手紙に、嬉しいような期待と、何が書かれているのかの不安がぐるぐると巡っている中、ドキドキを抑えて封を開き、手紙を読んだ。
しかし俺には受け入れがたい内容で、ショックを隠しきれなかった。
手紙には、魔法レッスンを終わりにしたいということと、これまでの指導のお礼、そしてアリーチェ王女殿下との婚約を祝う内容が書かれていた。
魔法レッスンを終わりにしてしまったら、彼女との繋がりが無くなってしまう。
そしてアリーチェ王女殿下との婚約話を何故知っているのか。しかも断った話だ。
彼女と話がしたい。
そう思い、アカデミーでどうにか会えないかと、魔法科の校舎の中を歩いているのだ。
座学であれば1年生の教室にいるはず。
押し掛けるなんて迷惑かもしれない。嫌がられるかもしれない。
それでも、彼女と話をして、きちんと伝えたい。
騎士科の俺がいるのが物珍しいのか、周囲にやたらと見られているが、そんなことは気にせず真っ直ぐに1年生の教室に向かった。
教室に入ると、皆が驚いた表情を浮かべて俺を見てくる。その中から彼女を見つけた。何日ぶりかに見る彼女もまた驚いて目を見開いていた。
朝の時間。授業が始まる前。皆が教室に入って授業の準備をしている中、カツカツと彼女の前まで行った。
皆が何事かとざわざわしながら俺を見ている。騒いでいるご令嬢もいるが、気にせず彼女だけを真っ直ぐに見る。
「話をさせて欲しい」
「……話すことは、何も……」
「俺がある」
彼女は困惑した表情を浮かべ、青色の瞳が揺れている。
「……ご、ごめんなさい!」
そう言って一瞬にして呪文を唱えると魔方陣を出現させて、教室中を照らす強い光を纏って消えてしまった。
「しまった……!転移か」
逃げられてしまった。いつの間にか転移魔法を使いこなしていた。
ああ、隠れ家で魔法書を見せてもらったときに、呪文を覚えておけば良かった。そうすれば追いかけられたのに。
いや、彼女の腕を捕まえておけば良かった。そうしたら一緒に転移出来たかもしれない。
後悔しても遅い。
◇◇◇
昼の時間、殿下から話があると言われ、また個室で食事を摂りながら話をすることになった。
「朝、どこに行っていたんだ?」
「フレイヤ嬢のところへ。しかし転移魔法で逃げられてしまいました」
「そう言えば、彼女は転移魔法が使えたんだったな」
「ええ。前は魔法書を見ながらだったのですが、もう使いこなしていました」
「そうか、すごいな」
今この星で転移魔法を使える人は少ないだろう。そのぐらい高度な魔法であるのだが、呪文が載っている魔法書自体が無いのだ。
彼女の家と繋がっている隠れ家にある、ソフィア様が書き記した魔法書の他は、王家の書物庫くらいでは無いだろうか。少なくとも俺は隠れ家で見せて貰うまで見たことが無かった。
「しかし逃げられたとは、お前、彼女に避けられてるのか?」
「………」
つい、喋ってしまった。キスしたことは絶対に殿下に言うまいと思っていたのだ。このままではなし崩しにバレてしまう。
「……話とは何ですか?」
「話題を変えようとするな。まあ、いい。先週末、フレイヤは魔法レッスンに来なかっただろう?」
ドキリとした。それは誰にも言っていなかった筈。カリナにも他の家族にも話していなかった。
「……何故ご存知なのです?」
「王宮で偶然会ったからだ」
「王宮に?」
彼女が王宮に何の用事があったのだろう。
彼女も公爵家ではあるが、俺と同じでそんなに社交をしている様子では無かった。
エドワード殿下と先週お会いした時も、「お久し振りです」と言っていたので、王族と頻繁に会っている訳ではないのだなと思ったのだ。
社交を積極的にしている兄ですらも、彼女のことを知らない様だったし。
「姉上にお茶会に呼ばれたと」
「それで……婚約話を知っていたのか」
婚約話は王家とうちの家族しか知らない筈の話。それを彼女が知っているのはおかしいと思っていた。
「フレイヤは婚約の件を聞いたようだな」
「ええ。昨日彼女から手紙が来たんです。魔法レッスンをやめたいと、そしてアリーチェ王女殿下との婚約を祝う内容でした」
「身を引いた訳か。姉上が相手ではな。分からなくもない」
殿下が溜め息をつく。彼女へ同情する気持ちがあるのだろうか。
「俺は断ったはずですが」
「姉上は諦めていないようだ。お前が一番最良だと言っていたからな」
「何故俺なんです?」
「さあな」
殿下も知らないのか。そしたらもう、ご本人に確認するしかない。
「……殿下、お願いがあります。アリーチェ王女殿下とお話をする機会を作って頂けませんか?」




