23.腹黒姉弟
アリーチェ王女殿下とのお茶会が終わり、案内をしてくれる侍女に付いて、馬車を待たせているところまで歩いていた。
王宮は迷路のようで、どこに何があるのか、道順もさっぱり分からない。
レオン様もいつかここで暮らすのだろう。
私では迷子になってしまうような場所で、迷わず当たり前に歩き回るのだろう。
何となく胸がチクリとして、胸を押えて俯きがちに長い廊下を歩く。
馬車まで遠いなと思いつつ、侍女の方の足下をボーっと見ながら歩いていたら「フレイヤ」と声を掛けられた気がした。
でも王宮には知り合いなどいないので、空耳かしらと思っていたら、もう一度名を呼ばれた。
「フレイヤ」
はっきりと聞こえたので振り向くと、なんとエドワード王子殿下だった。
「エドワード王子殿下!」
慌てて頭を下げて淑女の礼をした。
空耳だと思って無視してしまった。何て失礼なことをしてしまったのだろう。
アリーチェ王女殿下とのお茶会で散々冷や汗をかいたのに、またしても冷や汗が止まらない。
ドレスを摘まむ手が震えてしまう。
どうして自分はこうなのだろう。
「どうしてここに?レオンとの魔法レッスンは?」
ドキッとした。
そうだ、アリーチェ王女殿下との会話で頭がいっぱいいっぱいになり、魔法レッスンから逃げていたことを忘れていた。
「あ、あの……今日は、アリーチェ王女殿下にお茶会にお招き頂きまして……」
「姉上とお茶会?……何の話を?」
「そ……それは……殿下から他言無用と言われておりますので、ご容赦くださいませ」
頭を上げられそうにない。
頭を下げながらも、目を強く瞑ってしまう。
声を掛けて頂いたのに無視して、話を聞かれたのに答えられなくて、エドワード殿下に対して不敬ばかりだ。
「……そうか。分かった。気をつけて帰ってくれ」
「は、はい!失礼します!」
恐縮して震えている私へ配慮してくださったのだろう。それ以上追及されなかった。
そして、逃げるような気持ちでそこから立ち去った。
◇◇◇
「姉上、フレイヤと何の話をされたのですか?」
「あら?何のこと?」
フレイヤと別れてそのまま姉上の部屋に行き、何の話だと聞けば素知らぬ顔だ。都合の悪いことなのだろう。
「先程、フレイヤとすれ違いました。姉上にお茶会に呼ばれたと言っていました」
「………」
「どこか上の空な様子でした。何か言って圧力でもかけたのではないですか?」
「圧力だなんて。レオンと恋人なのって聞いただけよ」
恋人か。
フレイヤは否定しただろうな、と予想する。
レオンがやっと自分の気持ちを自覚したばかりで、確かまだ恋人にはなれていない筈。
「……婚約の話はされたのですか?」
「それを聞いてどうするの?」
「されたのですね」
「貴方は自分の為に私の邪魔をするのね」
「友人であるレオンの為です」
「どうだか。自分の為でしょう。腹黒な貴方のことだから、建前に友人の名を使っているのでしょう?」
なかなか辛辣な言葉を言ってくる。気位が高く、私と同じでなかなか本心を見せない。
私が腹黒なら、この姉上も腹黒だ。
そういうところばかりがそっくりな姉弟なのだ。
「何が仰りたいのです?」
「知っているのよ?貴方に婚約の話が出る度に、ご令嬢やその親を調べ尽くして、素行不良や不行跡、はたまた不正摘発等を理由にして話を潰しているでしょう?」
「婚約候補者の身辺を調べるのは当然のことです」
「それだけ?」
「姉上の婚約も決まっていないのに、先に私のところへ頼んでもない婚約話を持ってくるなんて、野心があるからとしか考えられません。なので潰したまでです」
「建前がお上手ね。確かにそうかもしれないけれど、本当に結婚したい相手と婚約するその時のために、候補者の粗探しをして貴方自身は身綺麗を保っているのでしょう?」
お見通しだと言うことか。
「……姉上がなかなか婚約されないから私も決めずに身綺麗を保たなくてはならないのです。レオンが候補にあがる前は、姉上とアカデミーでも一緒だった王宮魔導士のフーシェ侯爵の息子が候補ではありませんでしたか?」
「あれはだめよ。魔法の技術と頭の良さは評価できるけれど、魔法のことしか考えていないもの。彼に政治は無理よ。王宮魔導士筆頭にはなれるかもしれないから、そちらで王家に尽くして貰う方がいいわ」
「では、前宰相の孫は?プブル侯爵家の嫡子ですが、文官としてとても優秀だと聞きます。姉上よりも2つ年上で、確か姉上に熱心にアプローチしておりましたよね?」
「あいつの父親こそ野心家よ。前宰相である父のように宰相を目指した結果、ただの文官どまり。娘達を早くから高位貴族の高魔力者の婚約者にして、家の力を上げようとしているのよ。私に対するアプローチもその父親の差し金よ。そんな風に見えないでしょうけど、ベルック公爵夫人に観察してもらったらはっきり嘘の愛ですって言ってたわ。嘘が上手いのは政治家として合格だけれどね」
レオンの母親は嘘の愛を見抜くのに長けているからな。
「……ベルック公爵夫人ですか。周到ですね」
「それはどうも。始めは国王陛下から言われた婚約の話ではあったけれど、私も自分自身にとって一番最良と思われるから、レオンとの婚約を望んでいるの。別にレオンに断られた腹いせに嫌がらせをしている訳ではないわよ」
最良か。
高魔力のことを言っているのだろうか。
しかし、この姉上のことだから、恐らくそれだけではないはず。
私の友人候補として昔から王宮には来ており、私と一緒に幾つかの教育は受けてきている。
始まりの魔女の直系の公爵家という最高位の爵位の家柄。
アカデミーでも好成績。
社交についてだけは不合格だが。
かなりの好条件であることは確か。
「……友人の恋を応援してやりたい気持ちは、建前ではなく本心です。レオンは諦めないと思いますよ。何しろ、アナベル様の家系ですから」
「どう動くのかしらね。楽しみだわ」
姉上は窓から空を見上げて、笑いながら言った。本当に楽しんでいるのだろう。
レオンを見て楽しむとは、私と同じ悪趣味を持っているようだ。
こういうところまでそっくりな姉弟なのかと思ってしまった。




