22.不相応
逃げてしまった。
今日のレオン様との魔法レッスンへ行かず、帰ってきてしまったのだ。
分からない。
どうしたらいい?
昨日のはいったい何だったの?
私は……遊ばれてる?
レオン様はとてもお優しい方だ。
そんな遊ばれるような方とは思えない。
けれど、じゃあ何で昨日はあんな……恥ずかしいことをしたのだろう。
何も言われなかったし。
挨拶なのかしら。
ベルック公爵家では普通のことなのかしら。
家族が頬にする挨拶のような感じなのかしら。
ああ、考えても考えても分からない。
隠れ家の書斎の椅子に座って、ぼーっとしながら考えてしまう。昨夜は寝られるわけもなく、レオン様の唇の感触を思い出しては、無意識に自分の唇に何度も触れてしまっている。
思考を振り払うように、魔法書に視線を落とす。
昨日レオン様に開いて見せた転移魔法のページを見て、また思い出してしまう。
「はああああああ……」
わざとらしく大きな溜め息をして、気分を変えようとしてみても、何も変わらない。
「んんんー!こんなの私じゃない!」
気を取り直して再び魔法書に視線を落とす。
「転移魔法をまたやってみようかな!思い立ったら即行動!それが私よね!」
無理矢理自分に言い聞かせて立ち上がる。
転移魔法の呪文を唱えて魔方陣を出現させることが出来た。
「とりあえず、すぐ外の森へ!」
念じながら魔力を流すと、魔方陣が光ったのと同時に首もとのネックレスの石も光った。
眩しさに目を閉じると、体がふわりとした。
眩しさが無くなり目を開けると、ちゃんと森の中に立っていた。
「あ……また出来た」
前回は凄く気持ち悪くなったのに、今回はならなかった。
距離が短かったからかな?
それとも、レオン様との練習のお陰で、魔力の流し方が上手くなって魔力酔いをしなかったからかな?
転移の瞬間、ネックレスの石が光った気がした。このネックレスのお陰なのかな?
前回はネックレスの元へ転移した。ネックレスに引き寄せられたのかな?
ピチチチチチッと、私の姿を見つけた青い鳥が飛んできて、私の肩に乗る。
「ねぇ!また転移魔法が出来たよ!見てた?」
青い鳥に喜びを伝える。チチチと返してくれた。
「今度は家の中に戻ってみようかな!」
すると青い鳥がバササッと飛び、私の頭に乗っかった。
「……何で、またそこなの?」
間抜けに見えるから肩に乗っていて欲しいところだけれど、誰も見てないし、まあいいかと思い直して再び転移魔法にチャレンジする。
呪文はすっかり覚えられたので、魔法書を見ずに呪文を唱え魔方陣を出現させて、家の中に転移した。
「また成功だわ!やったー!転移魔法を覚えちゃったわ!」
青い鳥と一緒に喜びあっていると、青色の扉をノックする音が聞こえた。王都の邸の方だ。
「どうぞ」
「失礼します。お嬢様、王女殿下より招待状が届きました」
「えっ!王女殿下から!?」
◇◇◇
「フレイヤ、来てくれて嬉しいわ」
目の前には、アリーチェ王女殿下。
エドワード王子殿下と同じ金髪で、綺麗に波打つ長い髪がゴージャスで美しい方。仕草一つひとつが優雅で淑女の見本のような方だ。
「とっ、とんでもございません!本日はお招き頂き、ありがとうございますっ!」
昨日、まさかの殿下からお茶会の招待状が届いた。そんなことは初めてだったので、驚いた。
そして今日、アカデミーの授業は午前のみだったので、午後こうして王宮にやって来たのだ。
……よって、今日もレオン様との魔法レッスンを無断欠席してしまった。
招かれたのは昨日の今日な上に、私1人の様子……。何だろう、一体私に何の御用なのだろう。
正直……怖い。
「貴女の両親リーズ公爵夫妻には、王宮魔導士として仕えてもらい普段から力になってもらっているけれど、貴女とは久しぶりに会うわね」
「さっ、左様でございますね。両親がお世話になっております」
「それで、今日来てもらった件なんだけれどね、不躾で申し訳ないのだけれど、貴女はレオンと恋人同士なの?」
「!?」
何故急にここでレオン様の名が……。
しかも、こ……恋人!?
どうしてそういう……?
アカデミーの噂が殿下のところまで届いたの??
「違うの?」
「えっと……こ、恋人では、ありません」
「そうなの?」
「はい。私が魔力暴走をよく起こしてしまうので、レオン様には魔法レッスンをして頂いておりまして……それで大変良くして頂いてはおりますが」
今現在、逃げております。
「ふ~ん」
扇で口許を隠しながら、何か、探るような視線を向けられ、緊張でドキドキと心拍数が上がってしまう。冷や汗がダラダラと流れてくる。
そして、パチンと扇を閉じた。
「他言しないで頂きたいのだけれど、私とレオンの婚約話があるの。でも、レオンから断られてしまって、レオンの身辺を探ったけれど、貴女との噂しか出てこなかったのよね」
「こここっ、婚約!」
まさか、殿下とレオン様が……!
驚きすぎて、またニワトリみたいになってしまった。
「私はレオンと婚約したいと思っているの。既に相手がいるのならと思ったけれど、貴女とは恋人ではないのよね?」
じっと目を見られる。体が固まる。
「は……はい……」
そうだ。私は恋人ではない。
「そう。それなら良かったわ。私の用件は終わりよ。菓子を用意してあるから、たくさん食べて行ってね」
にっこりと笑顔でお菓子を勧められた。
目の前には、可愛らしいティースタンドに盛られた美味しそうなスイーツ達。
微かに震える手で一番近くにあったシュガーペーストのカップケーキを手に取り口に運ぶけれど、味がよく分からなかった。
レオン様は、王女殿下と婚約するのだ。
そして、いずれ結婚して王族の一員になるような方なのだ。
当たり前だ。
アナベル様の直系のベルック公爵家の子息。
魔法の技術も、剣術の腕も確かで、仮装トーナメント大会で優勝するような方なのだから。
魔力コントロールもまともに出来ない自分とは、比べるのも烏滸がましい、とても立派な方。
それを思い知らされた。




