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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
18/159

18.衝動

「昨日はすみませんでした!!!」


昨日の帰りの再来の様に、がばりと頭を下げる。


「恥ずかしさから逃げるように帰ってしまって、殿下にも失礼な態度になってしまい…申し訳ありません!出来れば昨日私が言ったことは無かったことにしてください!」


さらに頭を下げ、もう床に付きそうだ。私ってこんなにも体が柔らかかったんだ。おでこが脛にくっついている。


魔法レッスン場に先に来て、レオン様が部屋に入ってくるなりこの謝罪。


今日どんな顔して会えば良いのか分からず、とりあえず謝罪だけはちゃんとしようと思って、頭を下げて顔を見ないという作戦に出た訳だ。


「あっ…や……髪の毛が床に付いちゃうから、顔を上げて」


私なんかの髪の毛の心配をしてくださる。

ああ、なんて優しいのだ。

でも頭は上げても恥ずかしくて顔は見られない。


「殿下はあれくらいのこと気にはされないから問題ないよ」


気に掛けるように優しく伝えてくださった言葉に誘われるように、チラリとレオン様に視線を向けると、美しい顔があった。


言葉が出てこなくて、俯きがちにコクコクと頷くことしか出来なかった。



◇◇◇



恥ずかしいのか、ずっと頭を下げている彼女。目が合わないことにほっとしたような、寂しいような気持ちになりながら彼女に声を掛けると、チラリと上目遣いで見てきた彼女と視線が合った。


その破壊力といったら……。


恥ずかしいからなのか、はたまた頭を下げて血が昇ったせいなのか、顔は赤く火照り、ネックレスの石と同じブルーの瞳は潤んで、唇はきゅっと引き結ばれている。


「昨日言ったことは無かったことに」と言われても、「素敵な方」と言ってもらえてちょっと嬉しかった俺にとっては、無かったことにするのは無理なことだ。恐らく一生忘れず覚えていることだろう。


お互いが恥ずかしがり、気まずい空気が流れる。

こういう時はどうするのが正解なのか。さっぱり分からない。


何か話を変えて空気を変えるべきだろうか。


(何か、何かないか……。話題、話題、話題……)


頭の引き出しを雑に探しまくる。


「あ、この間転移魔法をしていましたよね!?あれはどこで知ったのですか?あのような高度魔法は魔法科とはいえアカデミーでは習わないですよね!?」


焦ってかなり早口になってしまった。


「は、はい!転移魔法ですか!?あれはうちにある魔法書に載っていたんです!」


「魔法書ですか!さすが、ソフィア様の家系ですね」


「我が邸には魔法の扉があって、始まりの魔女の隠れ家に行けるようになっているのです。この隠れ家にソフィア様の書斎があって、沢山の本が保管されているんです」


「魔法の扉!?隠れ家!?そんな物があるのですか?知りませんでした。きっと貴重な本が沢山あるのでしょうね」


「そうなんです!魔法書もあるのですが、この星の本以外にも地球の本もあったりするんですよ!」


「へぇ。見てみたいな」


「見ますか?宜しければ隠れ家にご案内しますよ」


「良いんですか?」


「はい!では明日ご案内しますよ!」



◇◇◇



そんなわけで翌日の授業後、レオン様に我が邸まで来ていただき、あの青色の扉を押し開ける。


「わっ!すごいな!本当に魔法の扉だ」


押し開けたその先にはアンティーク家具と暖炉のあるリビングダイニング。小さなキッチンもあり、大きな作業台にはハイスツールが3つ並んでいる。

リビングの窓からは森の木々が見える。


貴族の邸とは違う、コンパクトで暖かみのある家。


「こっちの部屋に魔法書が沢山あるんです」


そう言って、レオン様を案内した先のドアを開くと、天井まで壁一杯に本が並んでいる書斎がある。


「これは……すごいなぁ!」


ぐるりと部屋中を見上げて、ビッシリと整列している本に驚きの声をあげている。何だか誇らしく思ってしまうけど、私の部屋じゃなくソフィア様の部屋だったと思い直す。


アカデミーの授業後に来たこともあり、日が傾き森の中は陰りだし、書斎にはあまり日の光が入らなくなっていた。日が長くなってきた季節とはいえ、高い木が繁っているこの森は、闇の訪れが早い。


転移魔法が載っている魔法書を本棚から引き出す。


「書斎では暗いですので、リビングに照明をつけてご覧になりましょう」


リビングに2つある2人掛けのソファの1つをレオン様に勧めて、魔法書をご覧になっている間にキッチンで紅茶を淹れる。昔から1人で来ているので、それも慣れたものだ。


「紅茶です。メイドの方が淹れたものに比べたら美味しくないかもしれませんが、茶葉はうちの領地で採れたものなんです。良かったらどうぞ召し上がってください」


アンティークの茶器に準備した紅茶を、テーブルの上に置く。


「ありがとう。良い香りがするね」


私はレオン様の斜め向かいの1人掛けソファに腰をおろした。


「気になる魔法はありましたか?」


「どれも高度魔法ばかりだね。これは……ソフィア様が書かれた本なのかな?」


「どうなんでしょう?あまりそこは詳しくないのです」


「普通の魔法書は1つの魔法に対しての説明文や解説文等、詳しく書かれているのに、これは、何て言うか、ざっくばらん…だよね。それに印刷用インクではなく、手書きの様だから」


「そうなんです!もうちょっとコツとか書かれてると良いのですが、これだけしか書かれていないのです。だからこの本の中で出来た魔法は、この間の転移魔法だけなんです」


「転移魔法はどこに載っていますか?」


「えっとですね……」


ソファから立ち上がりレオン様の直ぐ隣にしゃがみこみ、魔法書をペラペラと捲る。


「あ、ここですね!」


ぱっとレオン様の方を振り返ったら、思いの外あの美形のご尊顔が近くにあった。


ずっと恥ずかしくて俯きがちでまともに目を見れなかったのに、目が合った途端にその琥珀色の瞳に捕まってしまい、体がピシリと固まってしまった。


じっと見つめ合う。


……………

……………


顔が、近い……


……………

……………


顔が、近い?


近付いて……る?



「─────……」



唇が、触れてる。


黒い、さらりとしたレオン様の前髪が……閉じられた瞼から生えている長い睫が……私の目の前にある。


ゆっくりと離れていく唇。


開かれた瞳と、またじっと見つめ合う。


……………

……………


「あ……そろそろ、失礼するよ!」


スタッと立ち上がったレオン様は、青色の扉を押し開けて出ていった。


私は呆然と閉まった扉を見つめた。


「なにが……起きた……の?」


レオン様を追い掛けて、挨拶をして、お見送りをするということも忘れて、私は暫くその場から動けなかった。



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