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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
16/159

16.自覚

「レオンお兄様、フレイヤ様との魔法レッスンは順調なんですか?」


「ん?ああ、まあ」


今日は休日なので、朝食の後に庭で打ち込みをしていたら、妹が番犬のフリードを連れてやって来た。

また邪魔しに来たのか、何処かに強制連行されるのか、はたまた犬の散歩に付き合えなのか、ちょっと身構えてしまうのは仕方がないだろう。


「その打ち込み台、だいぶボロボロになってますわね」


「……まあね」


かなり強く打ち続けている自覚はある。


バシッバシッ……

ダンッダンッ……


木剣で打つ度に、打ち込み台が振動する。布が薄汚れ破れているところもあり、覆われている筈の木材が見えている。布を縛り付けている紐も切れそうだ。


「その打ち込み台、新しくしたばかりじゃありませんでした?」


「……そうだったかな」


バンッバンッ……

ビシッビシッ……


妹は近くに置いてある椅子に腰掛け、フリードの背を撫でてやっている。白くふさふさの毛並みを整えるように撫でられて、フリードは嬉しいのか尻尾をパタパタとさせ、大人しく座っている。大型犬なので、腰掛けている妹とさほど大きさが変わらないくらいの存在感だ。

そして我が家の番犬らしく、キリッとした顔立ちの美形犬。犬に美形も何も無いだろうと思うのだが、本当に整った顔立ちに美しい毛並みと体躯なのだ。


「まだ終わりませんの?」


「……ああ」


バシッバシッ……

ダンッダンッ……


「いつもより長いという自覚はありまして?」


「………」


バンッバンッ……

ビシッビシッ……


「邪念を振り払うような荒々しい打ち込みですわね」


ピタッと手が止まる。


「……何が言いたい?」


「邪念がなんなのか、自覚はありまして?」


「………」



分かっている。

おかしい自分に対しての戸惑いと苛立ち。


自分がおかしいと思った原因は……フレイヤ嬢だ。


彼女の笑顔を見ると、胸がいっぱいになる。

ふとしたときに、彼女のあのぷるりとした唇を思い出す。

猪とダチョウに追い掛けられ、浮遊して木に避難する為に抱き上げたときに、俺の首にしがみついた彼女の細い腕も、俺の顔の直ぐ近くにあった彼女の顔も、俺の首筋にあたった荒い呼吸の生暖かな吐息も。

それらを思い出しては頭や体が熱くなる。


彼女との楽しく面白い会話も思い出す。賑やかなのに煩く感じない、心地よい会話。あっという間に過ぎてしまう時間。そして、また会えるのを楽しみに待ち遠しく思うのだ。



おかしい。

こんなのは、俺じゃない。



木剣を両手で握りしめ構えたまま、考え込んでいた。



「手が止まりましたわね。邪念がなんなのか、分かりました?」


原因は……


「……彼女だ」


「好きなのでしょう?」


「は?」


「やっぱり自覚ありませんでしたわね」


「なっ…えっ…ええっ……?」


明らかに動揺している声を出してしまっている。


「恋愛に疎すぎます」


「……好き?」


「そうでしょう?」


「俺が?」


「ええ」


「彼女を?」


「そうですわ」


「えええっ!」


思わず手から木剣を落としてしまい、カランカランと音を鳴らす。


「そろそろ自覚しましょうよ」


妹が盛大な溜め息を吐く。



(好きって……俺が、彼女を?)


俺がおかしいと思っている、彼女に対してのこの感情は、好きというものなのか?


俺には想い人なんて出来ないと思っていた。

結婚なんてしなくていい。ずっと1人でいいと思っていた。

アカデミーを卒業したら騎士団に入って、給料と報奨金を自分の為だけに使って、自由気ままな独身生活を送ろうと思っていた。


なのに、俺が、彼女を、好き?

…………



落としてしまった木剣を再び拾い、打ち込み台に向かって構える。


ドクドクと速いリズムで騒がしく鳴る心臓と、僅かに震える呼吸を整えるように息を吐いて、勢い良くまた打ち始めた。


めちゃくちゃな打ち込みになっているのは分かっているが、打たなきゃやってられない気分だ。

感情と衝動に任せ、ひたすら打ち込み続けた。


打ち込み台の紐はとうとう千切れてしまい、破れた布がハラリと落ちる。木材がむき出しになっても、構わず打ち続けた。


妹はそんな俺に呆れながらも、すぐそこでフリードと戯れて遊んでいた。



「あ、そうだ!明日の授業後、フレイヤ様との魔法レッスンが終わったら、本屋に連れてってくださいませんか?小説の新刊の発売日なんです!」


バシンッバシンッバシンッ!!!


「お兄様、聞いてます?」


邪念─────!!!


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