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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
14/159

14.浮遊

「基礎科の方にまで噂になってますよ」


「………」


「私のところまで、お兄様とフレイヤ様のご関係を問われに来られたご令嬢が沢山おりましたわ」


「………」


「特定のご令嬢と一緒におられるのが珍しいですからね」


「………」


「私の話、聞いてます?」


「……聞いてるよ」


アカデミーでも散々友人に言われた。「どういうことだ」だの、「お前にもとうとう春が来たか」だの、「やっと俺達にも青春がやってくる!」だの……


違うのに。

そういうんじゃないのに。


「転移してきたものの、転移で帰れないから歩いて帰るって言うけど、令嬢が一人で歩いて帰るなんて危ないだろ。ほっとく訳にもいかなくて、それで家まで送っただけだ」


この台詞を何度言ったことか。

一様にして彼女が転移魔法を使えたことに皆驚いていたが、それよりも興味は違う方ばかりだった。


「馬車の中でちゃんと気の聞いた会話は出来ましたの?」


「たぶん…」


これが意外にも話が弾んだのだ。殆どが魔法談義だったが。この妹のように、どこそこの菓子が美味しいだの、やれそこの仕立屋のデザイナーが良いだの、そういった話じゃなかったのが有り難かった。


楽しそうに魔法について話す彼女につられて、珍しく口が軽やかだった気がする。

……喋りすぎたかもしれない。


彼女が始まりの魔女のソフィア様の家系であることにも驚いた。魔力が高いと言っていたのにも頷ける。


いや、それより……

俺の上に落ちてきた彼女を見た瞬間に、あの唇に視線が集中してしまったことだ!


普段から、俺の容姿だけしか見ない令嬢に対して批判的なくせに、自身が彼女の見た目に惹き付けられるなんて……最低だ。


俺の視線はバレていなかっただろうか。

失礼な人だと思われなかっただろうか。

馬車の中ではそんな様子は感じられなかったから大丈夫だろうか。


はぁと溜め息をつく。


「大丈夫ですの?心ここに非ずになってますわよ?そんな感じで今日のお仕事は出来ますの?」


「……大丈夫だ」


今日は父と兄に依頼されて、我がベルック公爵領地内の害虫駆除に妹と一緒にやってきた。

隣接する男爵領からバッタが集団で移動してきて、作物を食べてしまっているらしい。男爵領ではかなりの被害が出てしまったそうで、春野菜の収穫量が減ってしまったそうだ。公爵領でもこれから夏、秋に向けての苗等に被害が出始めてしまったので、直ぐに駆除することになったのだ。


「この辺が前線かな。早速始めよう」


魔法で大きな網を出し、辺り一面を覆い被せ、一気に捕獲する。網を上空に持ち上げれば、なるほど、気持ち悪いほど沢山捕れた。

その作業を妹と手分けして場所を少しずつずらしながら、何回か繰り返す。


気が付けば準備した荷馬車2台に山のようにのった。


「こんなにいるのね!男爵領で繁殖しちゃったのかしら。気持ち悪い!」


「カリナ、目と鼻と口を覆って」


後は、捕り残してまた被害を生むのを防ぐために、とうがらしスプレーを辺りに散布する。


「こんなもんかな」


「この大量のバッタ、どうするの?」


「食用にするらしいよ。専門業者に引き渡すって兄さんが言ってた」


「……食べるんだ」


「意外とたんぱく質があって、好きな人は好きなんだって」


妹は若干引いていたが、荷馬車の御者に配送依頼をして、害虫駆除の仕事は無事に終わった。


「さ、終わったぞ」


「じゃあ近くの町に行きましょ!そこにベリーのタルトが有名なお店があるのよ!」


妹がこの駆除作業に同行した目的はこれだ。

まぁ、領地の様子や特産品を実際に見ることは悪いことではないので良いのだけれど。


町に移動する為に馬車に戻ろうかとしたその時だった。

奥の森から地響きが聞こえてきた。


「ん?何だ?」


地響きはだんだんと近付いて来ているようで、砂煙も見える。


「なあに、あれ……何か、来る?」



……ドドドドドドドドド



あれは……



ドドドドドドドドド!!



ダチョウと猪と……フレイヤ嬢!!!


「え──────!」

「きゃ─────!」


妹が叫ぶ。


フレイヤ嬢を先頭に、ダチョウと猪が彼女を追いかけている!


田舎の一本道のせいでこっちに来たものだから、俺達も一緒に追われる羽目に!


「なっ…何ですか、これ!」


「はぁ、はぁ、……ちょっ……はぁ、はぁ!」


彼女に聞いても息が切れていて、会話が出来ないようだ。そりゃそうだろう、森からずっと走ってきた様子だ。


「にっ、兄様!はぁ、わたしっ、そんな、走れませんっ!はぁ…」


普通のご令嬢ならそうだろう。


「はぁ、はぁ、ごっ…ごめっ、なさっ!はっ…はぁ」


このままじゃ不味い!彼女も限界の様子だ。

辺りを見渡す。


「あそこの木の上に避難しよう!カリナ!飛べるな!?」


「飛びます!はぁっ…もう、走れない!」


妹は直ぐに浮遊の魔法で木の上まで飛んでいった。


「フレイヤ嬢!浮遊の魔法は?」


「はぁ!はぁ!いちっ…はぁ!1メートルっ、くらいしか……はぁ!はぁ!」


「じゃあ、少し失礼します!」


とにかく直ぐに避難しなければ、彼女が倒れてしまいそうな程、呼吸が限界の様子だったので、彼女の膝裏に腕を通して体を持ち上げて浮遊した。そして妹が避難した枝の隣の太い枝に止まった。


ほっと一安心……と思ったら、猪が木に突進したり、ダチョウが木を蹴ったりしてくる。その度に木が揺れた。


「きゃあ!お兄様、これじゃあ、落ちてしまいますわ!」


「フレイヤ嬢、これは一体どうしてこんなことに?」


「あ…あのっ、はぁ。間違えてうり坊を、はぁ、ダチョウに変身させてしまって、はぁ。怒らせてしまったみたいで……」


「なるほど……じゃあ、とりあえずうり坊の変身を解こう」


ぱっと解除魔法を掛けてやる。

するとダチョウが1羽、うり坊の姿に戻った。それを見て、猪はうり坊にすり寄り喜んでいる様子。猪の突進からは逃れられたようだ。


でもまだダチョウが1羽、木を蹴り続けている。


「あれは何だろう……興奮しているのか?」


よく分からないので、乾燥トウモロコシを魔法で出して与えてやった。それに気付いたダチョウはトウモロコシを啄み始め、やっと蹴りによる揺れから解放された。


「あああ…良かった……」


妹はほっとしながら、ぐったりしている。


俺もほっとしたところで、ハタと自身の状況に気付く。


フレイヤ嬢の顔が直ぐ近くにあった。

抱き上げて枝の上に乗って、彼女を落とさないように膝の上に乗せて腰を腕でしっかり支えて、彼女も落ちないように俺の首にしっかりとしがみついて……

走ったせいで荒くなった呼吸の吐息が、あのぷるりとした唇の隙間から吐き出され、俺の首筋に当たって……


急激に恥ずかしさが襲った。


(これはっ……まずい!咄嗟とは言え……)


同時に彼女も我に返ったのか慌て出した。


「ごっごごごごご、ごめんなさい!」


俺の首にしがみついていた腕を急に離したので、バランスが崩れ、彼女を落としそうになる。


「わっ、危ない!」


彼女の腰を支えていた腕で上半身を抱き寄せたので、また顔が近くなる。お互いに顔が熱くなっているのが分かる。


「下ろしますので、動かないで、ください」


「はっ…はいっ!」


猪親子と満足したダチョウは森に戻っていったので、地面に彼女を下ろした。

妹も浮遊魔法でゆっくりと飛び降りてきた。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」


深々と頭を下げている。


「いえ。あちらの森はフレイヤ様のお家の公爵領地でしたわね」


「はい、そうです。勝手にこちらの領地まで侵入してしまい申し訳ありません!」


「仕方のないことですからお気になさらないでくださいませ」


「元はと言えば私がダチョウに変身するつもりがうり坊を変身させてしまい、親猪を怒らせてしまったのが原因ですので……仕方なくもないと言いますか……」


本当に申し訳なさそうに、胸の前で握りしめた両手を震わせている。審判を待つ罪人のような勢いだ。

何だか哀れに思えてくる。


「魔法を掛けるときに変身対象をしっかりと定められなかったから、魔力抵抗の弱い子どもの猪に魔法が掛かってしまったのでしょうね」


「そうですね、初歩的なことですね…すみません」


「でも、ダチョウの変身は上手でしたね。あれが変身したダチョウだとは気付きませんでした」


「本当ですか!ありがとうございます!」


哀れに思ってフォローしたところ、顔をあげて嬉しそうに笑う彼女に、ドキッとしてしまった。

なんだ?なんなんだ……?


「フレイヤ様は魔法が苦手なのですか?」


「あの……コントロールが上手く出来なくて、失敗ばかりで……」


「それならレオンお兄様が教えて差し上げたら宜しいのでは?」


「は?」

「え?」


「お兄様はお上手でしょう?」


「おっ…教えて欲しいです!レオン様の様に、魔法が使えるようになりたいです!」


え────!?


「じゃ、決まりですね」


「ありがとうございます!」


妹よ、俺の意思は?無視?


「フレイヤ様。これから近くの町でベリーのタルトを食べる予定なんです。一緒にいかがですか?」


「はっ、はい!」


「じゃあ行きましょう!あっちに馬車があります」


俺を無視するかのように、どんどん話が進んでいく。妹の誘導能力に驚く。

……いつもこんな感じか。



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