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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第5部
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2.衣装合わせ

日の光がたっぷりと差し込む硝子張りの明るい部屋には、光をキラキラと輝かせながら反射する装飾が施され、非日常感が漂っている。これも商業手法なのだろうか。

綺麗に磨かれた硝子で出来たショーケースには、様々な色の宝石が嵌め込まれたネックレスやティアラが美しさを競うように並べられている。アクセサリーにも意志があり、隣に負けぬように輝きを放っているのだとしたら、なんと美意識が高いことだろう。


ああ、見習わなければ。

そんなことを考えてしまうのも、今の状況のせい。


「良い!フレイヤは何を着ても可愛いけれど、この純白のドレスと白い肌が清純な美しさの花嫁を見事に表しているよ!」


今日も娘に甘く娘へのお世辞が凄いお父様。とてもハイテンションで完全に圧倒されている私は、ありがとうの言葉も出ずに多少ひきつってしまった笑顔を返した。


「これが地球の花嫁衣装なのね!なんて素敵なのかしら」


娘の結婚式に普通は母親が気合いを入れるものだろうけれど、婚約者の母親の方がノリノリなのは何故だろう。今日も年齢不詳な美しさのマデリン様が目を輝かせている。


「地球のとある国の女王の婚礼衣装が白ドレスだったことから一般にも普及していったそうで、今では様々な形に進化していっているようです。いやぁ、でもフレイヤには露出の高いものよりレースで抑えられたものの方が良く似合うよ!」


「この繊細なレースが本当に素敵だわ!デコルテ部分のデザインも良いけれど、長く広がるバックレースのクラシカルなデザインが伝統あるあの聖堂にマッチする様が目に浮かぶもの!」


「あの聖堂はステンドグラスが綺麗ですからね。シンプルな白の方が輝きを放ち目立つでしょう」


「そうですわね!きっと女神のように浮かび上がり美しさを際立たせるでしょう。それにステンドグラスの色が白いドレスに写り混んだ時もきっと綺麗でしょうね!」


このお2人がこんなにも意気投合しているのは初めて見る気がする。同じアナベル様の家系同士、美に対して通ずるものがあるのでしょうか……。


今日は結婚式の衣装合わせに来ていた。

お父様の希望で純白のドレスを着て欲しいと言われたが、この星ではカラードレスを着るのが一般的な為に取り扱っているサロンが中々無く、特注では制作日数が掛かる為比較的まだ顧客が少ない開業したばかりのサロンに決まった。ベルック公爵家御用達のサロンの紹介だったこともあり、マデリン様曰く技術は申し分無いらしい。ドレスのデザインはほぼお父様とマデリン様の意見によって制作された。


マデリン様は頓着しない私の代わりに厳しい目で仕上がったドレスを見る。「もう少しここはつめて」とか「ここに宝石を足せないかしら?」とか「このレース部分にシワがよりやすい」とか……。



「こんなに素敵な姿、レオンが見たら見惚れちゃうでしょうね」


衣装負けしている気がしてならないけれど。

そうであれば嬉しい。


「アクセサリーはシルバーが良いか……でもレオンの色を入れてゴールドでもいいかもしれない。でもティアラはシルバーのが上品かなぁ。いっそティアラではなく生花を飾っても良いかもしれないが……」


お父様は本当に男性なのでしょうか……。

ショーケースを隅から隅まで眺めてぶつぶつ言っている。


「貴女自身はどうしたい?」


「お母様」


相変わらず冷静で、盛り上がっているお父様とマデリン様を穏やかに眺めていただけだったお母様が、このサロンに来て初めて喋った。


「何が良いのか……シルバーアクセサリーに琥珀の石が嵌められたものとかでしょうか」


正直何が良いのか全然分からない。だから当たり障り無く答えてみる。


お父様やマデリン様は始まりの魔女の直系公爵家という威厳も重視し、大変高価なものでも躊躇い無く、寧ろ積極的に選択する。実際財力もある。


このサロンは貴族の顧客がまだあまり居ないようで、普通であれば邸で衣装合わせを行うらしいが、マデリン様の策略でサロンまで直接赴いたのだ。両公爵家の者が訪れ、婚礼衣装をオーダーしているという件を周囲にアピールし、短期間での制作を引き受けてくれたことへの礼を兼ねているらしい。サロン側はこのチャンスを逃すまいと大変な気合いの入れようで、こちらの注文に全て首を縦に振っている。

そしてそんな従順なサロン側は例え自店の利益にならずともこちらの要望を叶えるために、店に宝石商を招き、ショーケースに並べられたサロンの宝飾品以外にも宝石商が持参した商品が大きなテーブルに並べられていた。


それらの中からあれはどうだ、これはどうだと次から次へと私に試着させている。


(結婚するって、大変なんだな……)


招待客もとても多い。もともと両家とも寿命が長い上に、ベルック公爵家は代々子宝に恵まれる為に親族が多いのだ。

両家の地位を考えれば王族も列席するものだが、何とかエドワード殿下のみで話が落ち着いた。お母様の時は当時国王陛下だったアディール殿下が列席されたそうだ。アディール殿下とおばあ様が親しかったからというのもあるが、お母様はまだしもお父様が緊張している姿が容易に想像できてしまう。

だけど王族のみならず宰相や高官の方、王宮魔導士の上席の方、レオン様の所属する騎士団の方等、錚々たる方々が来られる予定なのだ。


考えるだけで緊張してしまう。


それにあの格好良くて美しい男の人の隣に立たなければならないのだ。どんなに衣装が素晴らしかろうと、中身が私だ。可能ならずっとベールを被っていたい。



「結婚式での衣装はこんなところかしら」


私が考え事をしている間に装飾品や手袋等も決まったようだ。装飾品に合わせて髪型の検討もされていたようで、気がつけば髪型も変わっていた。今日は侍女のイネスも同行しており、普段通りテキパキと動き回ってくれているので違和感無く考え事をしてしまった。今日も頼りになる侍女健在だ。


「じゃあ次は披露宴での衣装だ」


お父様の言葉に一瞬目の前が暗くなった。もう既にクタクタなのに、似たようなことを全てもう一度行わなければならないらしい。


「フレイヤが特に色に拘りがないって言うから青系にしたよ。若いしピンクも可愛らしくて良いかなぁとか、元気のある黄色も捨てがたいなぁとか考えたけれど、やっぱりリーズ公爵家と言えば青だなと。エミリーも結婚式で青色のドレスを着たんだよ」


「そうなのですか?」


身につけられていた装飾品類を丁寧に外されながらお父様が教えてくれた。


「ええそうよ。私のお母様も結婚式で青色を着たって聞いたから同じ色にしたのよ」


そういう話を聞くと少し嬉しくなって衣装合わせも楽しみになる。あくまでも少し。


サロンの従業員に促され、更衣室に入りカーテンが閉まる。


よし、頑張らねば、と思っている私を余所に着ていたドレスの紐がほどかれドンドン脱がされていく。何とも手際の良い。そしていつの間にか目の前には青色のドレスが掛かっていた。次はこれらしい。



結婚式が嫌という訳ではない。


我が儘を言えるのならもっと気楽なものであって欲しいと思うが、公爵家の一人娘として生まれた以上仕方の無いことだ。王家に嫁ぐカリナ様の方がきっとずっと大変な筈だし。



結婚してレオン様の側で一緒に暮らしていくのは嬉しいし楽しみだと思う。


けれど、一緒に暮らすということは恥も沢山曝すということでもある。寝顔を見られてしまうのは勿論、涎を垂らして寝ている姿とか、酷い寝相とか、イビキをかいちゃったりとか、変な寝言を言っちゃったりとか……そんな間抜けな姿を優しいレオン様は今は可愛いと言ってくださるけれど、曝し過ぎて引かれて幻滅されかねない。気をつけたくても寝ている時って自己管理が難しいし。


あれ?

例えが寝台の上でのことというのに気がつき恥ずかしくなる。

一緒の寝台で一緒に寝るのが当然みたいなことになってないか……!?

でもお父様とお母様はそうだしっ!

でもでも毎夜一緒に……?それって、つまり……


あの王宮舞踏会の夜のように、熱く甘い眼差しで見つめられ、キスをされ、愛を囁かれ……


『好きだ』


気がつけば顔が熱い。



「お疲れでございますか?」


「いっ、いえっ!問題ないわっ」


サロンの従業員に心配されてしまった。


私はこんなところで何の妄想をしているんだ!



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