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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第5部
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3.ピクニック①

「イネス、おかしくないかな?」


「どこもおかしくありません」


「本当に?」


イネスが大きく溜め息を吐く。それもその筈、このやり取りをもう5回はしている。


「本当でございます」


「後ろの髪の毛おかしくなってない?」


「なっておりません。多少ハネていても寧ろレオン様なら可愛いと言うと思います」


「絶対それって幼い子どもに対する"可愛い"だと思う!それは嫌!顔立ちは変えられないから身だしなみはちゃんとしたいの!」


イネスがウンザリした顔を隠しもしないのを、私も気にせずに不安をぶつけていた。


今日はレオン様との久しぶりのデートだ。お互いの休日が被るのは珍しい為、レオン様が騎士団に入ってからは初めてのデートだ。浮き足立ち変に気合いが入り、落ち着かずでも不安になるのも仕方がない。


ベルック公爵領にポピーが一面に咲く丘があるらしく、そこに連れていってくれると言っていた。


「せっかくのピクニックデートですから膝枕くらいならやって差し上げても宜しいのではないですか?」


「ひっ、膝枕!?そっ、それ、普通なの!?」


膝枕って子どもが母親や乳母にしてもらうものじゃないのかしら。


「恋人同士なら普通ではありませんか?」


「イネスも夫にするの?」


「男は時に女に甘えたい生き物です」


イネスのことを先生と呼びたい。


しかし、レオン様が甘える?

レオン様が私を甘やかすのはいつものことだけれど、甘えられることなんてあるのだろうか。いつも主導権を握られてしまいなされるがまま。膝枕なんて恥ずかしいからと断られたりしないのだろうか。断られたらショックでただただ恥ずかしさしか残らない気がする。

……とても誘えない。勇気が出ない。


悶々と考えていると扉をノックする音が部屋に響いた。


「レオン様がお越しになりました」


その言葉に慌てて部屋を出て階下へ下りた。玄関には長く綺麗な黒髪をした美しい人がいた。私の足音に気がついてこちらに視線を向け、今日も素敵な微笑みを見せてくださる。


「フレイヤ!」


迎えるのは私の方の筈なのに、両手を広げて迎えられ、当たり前に抱き締められる。そして流れるように頬にキスをしてくださる。


「今日は一段と可愛いね」


髪が邪魔にならないようにとまとめられた髪の毛先を掬い上げ、軽く口につける。


やっぱり甘やかし上手。


「やあ、レオン!」


「ヒューゴ様、エミリー様、おはようございます」


今日はお父様もお母様も休日だ。レオン様の来訪を聞いてリビングから出てきた。


「本日1日フレイヤとの時間を頂戴します。夕食前には戻りますので」


「ああ。良かったら夕食も一緒にどうだ?」


「ええ、是非。お誘い有り難くお受けします」


「気をつけて行ってらっしゃい」


お父様とお母様へ挨拶をして邸を出ると、綺麗な黒色の毛並みの馬がいた。


「この子はベルック公爵家の馬ですか?」


「そうだよ。アカデミーの入学祝いで貰った俺の馬で、ブリッツだ」


「ブリッツ、今日はよろしくね」


首を撫でながら話し掛ける。とても大人しくて賢そう。レオン様の髪と同じ黒色の毛並みはとても艶やかで美しい。瞳はつぶらなのに凛々しさも持ち合わせている。ベルック公爵家は犬も美しいけれど馬までもが美しいらしい。


ピクニック用の荷物を積み終え、レオン様がブリッツに先に跨がり、私を引き上げて乗せてくださると直ぐに出発した。


休日の朝は往来も穏やかで馬も歩きやすい。空気は冷たいけれど上り途中の太陽の光は春を感じさせる暖かさだ。


「寒くない?」


「はい。少し冷たい空気が気持ち良い位です」


レオン様に体を包み込まれるように密着しているからか、頬が火照り、冷たい空気が気持ち良く感じるのだ。2人乗りは初めてではないけれど、やっぱりドキドキする。ベルック公爵領のポピーの丘までブリッツの休憩を含めながら行くと昼前頃に着く予定だ。それまでずっとこの体勢というのも、ずっと優しく抱き締められているような感覚で嬉しいけれど恥ずかしくなってしまう。


王都の出入口である城門まで来ると、レオン様が事前に準備しておいてくれた通行許可証を提示し、直ぐに許可が下りた。


「おい、レオンじゃないか!」


門をくぐろうとしたところで声を掛けられた。


「何!?本当だ!」


「リーズ公爵令嬢じゃないか!?婚約者とデートか!くっそ、いいなぁ」


初めの声に反応してか、騎士団の隊服を着た方が数名集まってきてしまい戸惑ってしまう。


(レオン様の同僚の方……?ご挨拶をした方がいいのかな……)


「ご、ご機嫌よう──」


「俺は今プライベートでお前達は勤務中なんだから話し掛けるな。私語は慎め」


私の挨拶はレオン様にかき消された。


「おー、こわっ」


「正論だけど相変わらずの独占欲」


レオン様がジロリと睨み付けるけれど同僚の方々は全く気にされる様子は無く、さっさとブリッツに指示を出して門をくぐってしまったレオン様と私に向かって「行ってらっしゃ~い」とか「楽しんで~」とか声を掛けてくださった。レオン様は完全無視だったけれど、申し訳なくて会釈だけしておいた。


「アイツらに挨拶なんてしなくて良いよ」


「そういう訳には……同僚の方と仲が良いのですね」


「ああ、アイツらは同期でアカデミーでも一緒だったからな」


「そうなのですか?」


それで私のことも直ぐに分かったのだろうか。アカデミーでレオン様と一緒にいるところを見たことがあるのかもしれない。


「通常騎士団へ入団したばかりだと第三中隊に配属になり、城門や王都の主要施設の警備にあたるんだ。だから迎賓館や貴族の邸の夜会に行くとアイツらとよく会うから、絡まれないように気をつけて」


「そうなのですね。でもレオン様は今第一中隊ですよね?」


「ああ。エドワード殿下の警護だ」


「アルロ様は第三中隊なのですか?」


「アルロは実力が評価されて第二中隊に配属され、王宮の警備にあたっている」


騎士団は実力社会のようだ。

私の婚約者様はきっと騎士団でも評価が高いのだろうな。でなければ入団して直ぐに特殊部隊に配属されたり、施設警備をしている他の方と違って王族の警護をしたりはしないだろう。


憧れや尊敬の気持ちと一緒に、劣等感も少し感じてしまう。




予定通り昼前にポピーの丘に着いた。


「うわー!凄い!」


思わず大きな声が出てしまう程、丘一面に鮮やかなポピーレッドが広がっていた。天気の良い青空との対比で一層美しく感じる。


丘の中腹には柵が横切っていて、下の方から小川にかけて数名の領民らしき姿が見えた。


「あの柵から下は一般に開放していて、春の収穫期の前の今頃は時間に余裕があるからか多くの領民も遊びに来ているんだ」


「そうなのですね」


小さな子が駆け回って遊んでいたり、恋人同士のような雰囲気の人がのんびりとしていたりする。

長閑で優しさのある風景だ。思わず笑みが溢れてしまう。


少し眺めていたら小さな子がこちらに気がつき、大きく手を振った。


「おめでとうございまーす!」


大声で言われ、何だか分からないけれど手を振り返したら、子どもの声でこちらを見た親と思われる人が慌てて子どもの頭を下げさせて自身もペコペコし出した。


「おそらく俺に気がついて、一緒にいるフレイヤが婚約者だと察して祝いの言葉を言ったのではないか」


「なるほど」


レオン様と揃って手を振り返してその場を去った。


「俺達がいるとゆっくり出来ないだろう」


「そうですね」


「この先に小川と大木があるからそこに行こう」


領民にも気を配るレオン様に口元が綻んでしまう。


「領民からあんな風にお祝いの言葉を掛けて貰えるなんて、レオン様は愛されているのですね」


「俺がと言うより、両親や兄や先祖が領地と真摯に向き合い領民の為の政策を行ってきたから領主に対して好意的なのだろう」


ベルック公爵領はとても豊かだ。フルートの町も時代の変化に合わせてエミリオ様が町に合った政策を試行錯誤しながら探していた。私も少し参加させてもらいとても勉強になった。


「俺は領地経営については未熟者だけれど、フレイヤと一緒にリーズ公爵領が豊かでいられるよう向き合っていけたら良いなと思う」


これまで一緒にいたい、結婚したいとお互いのことばかりだったので、レオン様からリーズ公爵領の領主に対する想いを聞き、嬉しくなった。


「はい」


想いに答えれば、穏やかで優しい笑顔を返してくださり、頬に唇を寄せられた。



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