36.もう一人の王族
「テオドールは、貴方を庇っているようだ。それは何故だ?テオドールが50年前の事件の真相を知っているのであれば、貴方を恨んでいてもおかしくないだろう」
暫く皆が無言になってしまった後、エドワード殿下が口を開いた。
「私は結婚をしませんでした。今さら幸せになる資格はないと、一生後悔を抱えて一人で生きていくと決め。そんな私にとってテオドールは息子のようなものでした。孫と言ってもおかしくない年齢ですが。ブライアンの死後、一人マトフェイを訪れようと近くの領地の港で偶然にもラファエロ様と再会をし、涙ながらに懺悔しました。お役に立てることなら何でもさせて欲しいと、断っていたラファエロ様も次第に諦め、私は衛兵達へ指導をさせて貰うようになりました。テオドールが生まれた頃には、ラファエロ様もかなり身体が弱ってきていたのもあり、私が父親代わりをすることもありました。テオドールの父親は旅人で、行きずりの関係で出来てしまった子でしたから、父親の顔も知らなければ父親は子が生まれたことも知りません」
「テオドールが島を出た後、彼は貴方の元を訪ねてきたの?」
「はい。テオドールも混乱しているようでした。一度に色々なことを聞き、勢いで実の母も傷付けてしまい、自分を見失っているようでした。なので少しゆっくりと考える時間が必要だろうと、王都に邸を与えてやりました。……しかし、暫くしてテオドールが出した結論は、まさかの始まりの魔女への復讐でした。第一王子と婚約者に毒を盛ってしまった国王陛下も、子を身籠ってしまった婚約者も、ラファエロ様と王位を争うことになってしまったアディール殿下も、愛ゆえに庇ったブライアンの死後図らずも女公爵として囃し立てられたカミーユも、愛の為に身分も何もかもも捨ててラファエロ様の後を追った祖母も、行きずりの愛で自分を生んだ母親も、皆始まりの魔女の子孫。なのにその血は星の者達に敬われ大切にされ、一切咎めを受けない。羨ましさもあり、その血を恨んでしまったのでしょう」
テオドールの人生はそれらの魔女の選択によって決まってしまった。端から聞けば逆恨みではないかと思うが、本人からしたら一人でも違う選択をしていたら、テオドールは王家の人間として生まれることが出来たかもしれないし、違う環境で育っていたかもしれないのだと思ってしまったのだろうか。
「そんな時にドルバック伯爵がフレイヤ嬢に近づいているのを知り、ドルバック伯爵に手を貸すことにしたようです。私はそれを後で知り、もうこんなことは止めるよう伝えました」
「でも貴方は舞踏会で毒を盛ったわ。止めるどころか手を貸しているじゃないの」
「テオドールはフレイヤ嬢が欲しいと言いました。初めは高魔力保持者だから興味を持ったのでしょうが、彼も愛を知ることで考えが変わるのではないかと思い、誰も殺さないという条件で手を貸しました」
「そう……。でも貴方は王族であるローラにまで毒を盛ったわ。貴方は口を閉ざしていただけで罪を犯してはいなかった。それなのに、王族に毒を盛ったことは大罪よ」
「分かっております。罰は受ける覚悟です」
曇り空とは反対に清々しい程の表情のリアム隊長を連れ、墓地の中を歩き出した。
ずっと抱えていた真実。罪悪感もあった筈だ。過去の事件の関係者でもある自身が、特殊部隊の隊長として任務に当たっていたのだ。当時の国王陛下やラファエロ第二王子を守るために口を閉ざして。ある意味王家への忠誠を貫き通したのかもしれない。
「レオン。第一王子の婚約者のお腹の子が王子の子ではないかという可能性は考えなかったのか?」
歩きながらリアム隊長が俺に問い掛ける。
「初めはどちらか全く分かりませんでした。しかし、フレイヤが『結婚する前に本当に好きな人のものになりたかったのでは』と言ったのです。『想いを断ち切る為に好きな人に愛されていたという事実と思い出が欲しかったのかもしれない』、『私も気持ちが分かる』と話してくれたからです」
「フレイヤ嬢が……そうか……。テオドールに愛を知って貰う為に彼女を利用して、悪かったな」
「ええ……」
リアム隊長が何を思ったかは分からない。
けれど、最後に俺に「幸せにな」と言った。
「リアムが全てを話してくれたわ」
「…………」
抹殺したい程憎らしいテオドールの向かいには、アリーチェ殿下が座っていた。
テオドールは不貞腐れた表情を隠しもしないが、何も話そうとはしない。
「リアムは貴方を息子のように思い、貴方が道を大きく踏み外さないことを願っているのよ」
「…………」
「湖城で貴方に言ったわね。貴方は私の再従兄弟で、親族としてしっかり貴方に罪を悔い改めてもらい、在るべき姿になってもらうよう監督させてもらうと」
「…………」
「貴方には王立アカデミーへの入学を命じるわ」
「は?」
無言を貫いていたのにアリーチェ殿下の言葉が意外すぎたのか、テオドールは思わず声を出す。
「マトフェイの島はラファエロ大伯父様が統治されていたのだから、タウンゼン侯爵息女には正式に爵位を与えるわ。だから貴方は貴族の仲間入りをするわけね。貴族となったのならきちんとアカデミーで学んで貰わないといけないから」
「ちょっ……何を勝手に……!」
「どうして?自分の正当な立場が欲しかったんじゃないの?」
「罪に向き合って貰うとか言ってなかったか?」
「そうだったのだけれど、魔女への毒殺未遂は結局リアムの罪で、フレイヤの誘拐と監禁についてはフレイヤも罰を与えることを求めてないのよ。禁忌魔法である催眠魔法の使用は禁忌魔法だと知らなかった訳だから、初犯だし見逃して厳重注意。王宮へのスパイ行為は貴方も王族であれば罪に問われないし、王都の広場の破壊行為は魔法の国ではままあることだから目を瞑って、アカデミーへの侵入は入学前の見学ってことでどうかしら?」
……うん。凄い辻褄合わせだ。
催眠魔法に関しては初犯というには無理のある程多用していた気がするが。
「……俺はもう成人しているぞ。アカデミーに通うような歳じゃない」
「アカデミーで学ぶのに年齢は関係ないわ。貴方、ドルバック伯爵の逃走先にマトフェイの島の土地を提供する予定だったのでしょう?既に島を出ていた身の貴方がね。それは、あの島に魔道具が普及することで、島の暮らしが改善されることを願ったからではなくて?」
「……さあな」
そっぽを向いて誤魔化している。
「魔道具について貴方もアカデミーで学べば良い。それから貴方には文官科に入って貰うから。私の可愛い義妹のカリナの監視付きよ」
「……いいのか、それで……」
テオドールが驚きを通り越して呆れている。
「貴方がアカデミーでどう学び、どう成長してどんな人物になっていくのか、楽しみだわ」
「そこにいる王子の婚約者だろ?俺なんかの側に付けて良いのかよ?」
「大丈夫よ。カリナは賢く強い魔女よ。精々コケにされないよう頑張りなさい」
最近益々母に似てきたカリナ。
2人の師従関係が目に浮かぶようだ。勿論師は妖艶な笑顔を浮かべるカリナだが。
テオドールはもう言葉が出ないようだ。魔女の強さ……と言うか強引さを改めて思い知ったのかもしれない。
あと残り1話です。




