32.魔女のプライド
パラパラと天井から屑が落ちてくるが、揺れや崩壊は止まったようだ。
「……また、君か……」
テオドールが呆れたような顔を私に向ける。けれど、連続してかなり魔力を使ったからか、疲労の色が見える。
「いくらお前でも、魔女に魔力では勝てない」
「……なるほど。じゃあ、その魔女が魔法を使えなきゃいいんだな」
テオドールがそう言った瞬間、何かの呪文を唱える。
「おいっ!その魔法……!」
急にテオドールの目に囚われ目が離せなくなる。
「フレイヤ!駄目だ!テオドールの目を見るな!」
でも、目が離せない。ぼーっとしてくる。
「催眠魔法だ!解除をするんだ!」
レオン様の声が遠くなる……。
催眠魔法……?
解除……しないと……
足の感覚が無くなり、崩れ落ちそうになるのをレオン様が支えてくださるけれど、ぐったりとどこも力が入らない────
バ─────ン!!!
大きな音と共に意識が戻っていく。
見えてきたのは……星空?
天井が……ない!?
驚きで一気に目が覚めた。
「情けないわね、レオン。大事な女性を守ることも出来ないの?」
星空をバックに魔女達が浮遊していた。
お母様にマデリン様、それにカリナ様、そしてまさかのアリーチェ王女殿下まで……!直系が揃い踏みしていた。
魔女達がゆっくりと降りてくる。
私はそれを唖然と眺めることしか出来ない。
「貴方がテオドールね。残念だけど、お仲間は全員拘束させていただいたわ」
「……王女、か」
「いかにも。貴方も捕らえさせてもらうわ」
「捕らえてどうする?」
「魔女への毒殺未遂、誘拐、監禁、禁忌魔法の使用、アカデミーへの侵入、王都の広場の破壊、王宮へのスパイ行為等々、沢山やってくれているから全ての罪に向き合ってもらいたいわね」
錚々たる罪状になりそうだけど、所謂国家反逆罪というやつだろうか。でもテオドールは曲がりなりにも王族だ。
テオドールはわざとらしく舌打ちをする。
「貴方の境遇に同情はするけれど、貴方のやっていることはただの子どもの反抗期じゃない」
「何……!?」
「貴方には私たちが羨ましく見えるのでしょう?私は王家に生まれ、ここにいる者達も公爵家の者として生まれ、周りから注目され華やかな暮らしをし、始まりの魔女の直系としてちやほやされていると。当たり前よね、そう見えるように振る舞っているのだから。それが義務のように」
「義務?」
「そうよ。そうでなければ胡散臭い貴族の中で家を守っていけないから。そしてその為に努力をし同時に苦労もある。生まれ持った使命を背負って戦っているのよ。貴方はどう?境遇に向き合わずに島から逃げ出しただけじゃないの?」
「……!?」
「誰にだってそんな反抗期はあるわよね。そうやって島から出て視野を変えることで見えることも分かることもあると思うわ。でも、貴方はちょっとやり過ぎね。苛立ちを私達に向けて害を及ぼした……悪いけど、敵意を向けるのなら全力で応戦するわよ。始まりの魔女の直系のプライドにかけて。大切な者達を傷付けた代償は払ってもらうわ」
「そんなに始まりの魔女が大切なのか?」
「そうね、この星にとっては支えのようなものじゃないかしら。けれど、始まりの魔女の子孫ということより前に、カリナは私の義妹になる子よ?そのカリナの義姉になるのがフレイヤ。私にとっては大事な家族になるわ。だから大切で守りたい者達よ」
テオドールは視線を逸らす。彼には守りたいと思える人が居ないのだろうか。それとも、それから逃げているだけなのか……。
「そして、貴方もね。貴方は私の再従兄弟なのでしょう?親族としてしっかり貴方に罪を悔い改めてもらい、在るべき姿になってもらうよう監督させてもらうわ」
「……在るべき、姿?」
「ええ。では王宮まで来てもらいましょうか」
「なぜ従わなければならない?ごめんだね!」
再び同じ呪文を唱える。テオドールはここにいる全員に催眠魔法を掛けようと言うのだろうか。
でも素早くお母様が指を振り魔法解除をし、誰にも催眠魔法は掛からなかった。そして同じ呪文をマデリン様が唱えると、一瞬にしてテオドールの目が虚ろになり、ガックリと眠ったように座り込み項垂れてしまった。
「悪いけれど、私の方が催眠魔法は得意なのよ」
今日も美しい笑顔でマデリン様が自信満々に言い放つ。
「相変わらずアナベル様の直系魔女は人を惑わす魔法が得意ね。魔法じゃなくても得意かしら?」
「まぁ、アリーチェ殿下ったら。でも、その通りなのでしょうね」
……受け入れて認めていらっしゃる。
「催眠魔法の使用は今回は大目に見るけれど、もう駄目よ?」
「分かっておりますわ」
唖然とレオン様に支えられて立ち、行く末を見守ることしか出来なかった私のところへ、お母様が近寄ってくる。
「ああ、フレイヤ!無事で良かったわ!」
ぎゅっと強く抱き締められる。温かいお母様の体温に胸がつまり目が涙で霞み、溢れそうになる。
「お…が……」
声が出ないことに気づいたお母様が、直ぐに首の絞められた跡に目をやり、痛ましげな表情を一瞬して、手を首に当てて治癒魔法をかけてくださった。治癒魔法の熱がまた温かくて、ほっとした。レオン様の剣帯に刺繍した時も、赤くなった指に治癒魔法を掛けてくれたことを思い出す。同じ温かさだった。
「……声が……戻った」
喉の痛みも消え、声も普通に出せるようになった。
「お母様……ありがとうございます」
にこりと微笑んでくださる。……でも、何か、怖い?
「色々と叱りたいことがあるけれど、もう今日は帰りましょう。お父様が待ってるわ。明日改めてみっちりお話しましょうね」
……叱りたいこと。
「……はい、お母様」
これは、本気で怒られるだろうな。勝手に出ていったことだろう、おそらくは。
お母様とお話しをしている隙に、隣に居た筈のレオン様が居なくなって、アリーチェ王女殿下とエドワード王子殿下と何事かお話しされているよう。
「フレイヤ様!ご無事で良かったです!」
今度はカリナ様に抱き締められた。
「カリナ様は……もう体調は宜しいのですか?」
「ええ。私が不甲斐ないばかりにフレイヤ様に背負わせてしまい、申し訳ありません」
「そんな!決してそんな……!結局こうして皆様にご迷惑を……でもどうやってこちらに?」
「エミリー様が全員を転移させたのよ」
「全員!?」
マデリン様の言葉に驚く。一体何人を転移させたのだろう。そもそも自分以外の人も同時に転移なんて出来るの!?とてつもなく魔力を消費しないだろうか……。
「地球に転移する時も失敗して命を落とさない為に補助として魔力を込めた魔石を利用するのだけれど、今回は大勢を転移させる為に数日かけて魔石に魔力を貯めていたのよ。丁度また地球に転移する予定もあったから、貯めてある魔石も多少あったので良かったわ」
魔石……。そうだったんだ。知らなかった。
「ここはどうして分かったのですか?」
「ある時、夜になるとフレイヤの魔力を強く感じることが分かって、その魔力を頼りに夜になると居場所を探って、方角からアストゥリア公爵が所有するこの湖城だと判明したの。そして準備が整った今日皆で転移して来たのよ」
夜になると?つまり、毎夜テオドールと攻防戦を繰り広げていたお陰で魔力を探れたということなのだろう。皮肉な……。いや、毎夜頑張って良かった。
「レオンには個別に転移魔法を教えてあげたから、彼だけ皆とは違うところに転移したみたいだけれどね。丁度フレイヤのところに転移したのかしら?」
「あっ、はい……」
やっぱりあの光は転移魔法だったんだ。レオン様は使えるようになったんだ。高度魔法なのに、やっぱり凄いな。
それにしても、お母様はレオン様のことを呼び捨てで呼んでいる……?
「さあ、帰りましょう。ここは冷えるわ」
……天井がなく、星空が綺麗に見えますもんね。この天井破壊は何方がやったのだろう。魔女って……凄い。
お母様に伴ってお城の塔を下り、初めて来るお城の本館らしきところに足を踏み入れると、皆が捕らえられていた。大きな怪我等は無さそうで安心をした。お城の倒壊を防げて良かったなと思った。
お世話係の女性や、美味しいご飯を作ってくださった料理人には感謝している部分もあるのだ。
レオン様は騎士団として動き回っており、近づけそうも無い。
準備が整い全員が固まり帰還する為に転移魔法をする。お母様に見習い、私も微力ながら転移魔法の手助けをして王宮に戻った。
王宮ではお父様が待っており、同じように強く抱き締められた。やっぱりお母様と同じで「今日はもうしっかりと休むこと。だけれど、明日みっちり話をするからな」と言われてしまった。
いつもは娘に甘く優しいお父様でも、今回は怒っているようだ。甘んじて受け入れよう……。
そして2週間ぶりに邸へと帰ってきた。




