28.其々の思い
「この島のことは陛下にも報告をする。どのような判断をされるか分からないが、今の城主の貴女の希望はあるだろうか?」
「この島の方達の暮らしを守って頂けるのなら、どのような沙汰でも受け入れましょう」
「分かった。では私達は失礼する」
「この時間から海に出るのですか?一晩お泊まりになっていかれてはいかがですか?」
「折角のご厚意だがゆっくりはしていられない」
「……そうですか。孫が、本当に申し訳ありません。何かお力になれることがあれば申し付けくださいませ」
そして俺と殿下は城を後にした。
来た町の道を再び通り、船に戻った。
それぞれの調査隊の報告を聞き、王都に戻ることにした。
帰りは3日半掛かった。王都に着いて新しい年を迎えたことに気付く。町は殆どの店が閉まり、家族や親しい人と共に過ごしていることだろう。新年の礼拝に訪れる者もいる。王都を立つまではポインセチアで溢れていた町も、今は新年を祝う置き物があちらこちらに置かれている。
王宮に着き陛下とリアム隊長に報告をする。
そこでリーズ公爵夫妻が王宮魔導室に籠りっきりだと話を聞き、魔導室を訪れた。
「レオン!ああ、無事だったか!」
ヒューゴ様はホッと顔を緩めて魔導室に迎い入れてくれた。
魔導室は見慣れぬ物が棚に並んでおり、様々な書籍が本棚に所狭しと詰められ、入りきらないものが積み上げられている。
「しかしフレイヤの行方の手掛かりは何も掴めませんでした」
「そうか……魔力探知は?」
「所々で試したのですが、魔力を感じるだけでどこかまでは分かりませんでした」
「魔力を霞ませているのか、遠く探知出来ないか……かな」
一方のエミリー様は多くの魔石に囲まれている。
「これは……」
「これは私の意地とプライドです」
……どういう意味だろう。
いつも穏やかな微笑みを浮かべているエミリー様も、顔に疲労が出ており、無理をしている様子が伺える。大事な1人娘が居なくなってしまったのだ。当然だろう。
「エミリー様。実はお願いしたいことがあるのですが……」
◇◇◇
父上に報告した際に、ローラを訪ねてやれと言われ王族の居住エリアへと足を向けた。
任務で汚れた体を清め、着替えてからローラの部屋へ行くと、廊下にまで明るい声が漏れていた。任務に赴く前は毒を盛られ寝込んでいたので、元気になったことに安心感を覚える。
部屋に入るとカリナもいた。
ああ、だから父上はローラを訪ねてやれと言ったのだな。カリナが居ることを知っていて。それならそうはっきり伝えてくれたら良いのに。何とも遠回しな。
「お兄様!」
元気な様子のローラが飛び込んでくる。
「お帰りなさいませ」
「ああ。もう体調は良くなった様だな」
「はい」
顔を覗き見れば血色の良いいつもの表情。
「殿下、お帰りなさいませ」
カリナもすっかり顔色が良くなっている。ホッとして近づいて来てくれたカリナを抱き締めた。
「元気になって、良かった」
「ご心配をお掛けしました」
舞踏会ではすぐ隣にいたのに何も気づけず守ってやれなかった。苦しい思いをさせてしまって、自分の不甲斐なさを思い知った。
「あら。私、お邪魔虫かしら?でも、ここ、私の部屋だし」
「……すまん」
10歳の妹に冷やかされてしまった。
結局ローラに部屋を追い出されてしまい、私の部屋に連れていくのも躊躇われ、何処かの部屋を用意して貰おうとしたが庭園が良いとカリナが言うので外に出た。
「今日は何故王宮に?」
「年末年始は妃教育もお休みなのですが、今日の午前中は王族の縁戚の方が新年のご挨拶にいらっしゃるとのことで、陛下に私の参加も促され参りました」
「ああ……そう言えば、そうか」
確か昨年、姉上の婚約者も参加していた。私が不在だったので1人で参加させてしまった。
「その後ローラ殿下に誘われて遊んでおりましたの」
私が不在で、姉上も忙しく時間が空いても婚約者殿とお会いになったりするから、ローラと遊んでやれない。
「ローラの相手をしてくれありがとう」
「いいえ。私も弟妹がおりませんからローラ殿下が可愛らしくて。楽しかったのです」
「そうか。ローラも好む遊びが変わってきて私ではついていけない時がある」
「ふふふっ。そうでしょうね。私もよくレオンお兄様を無理矢理遊びに引っ張って無表情にさせてましたわ。我慢させてしまっていたのでしょうね」
嫌でもなんだかんだ言って付き合うところはレオンらしいな。
庭園はこの時期花数が少ない。そして外は寒い。たまには温室に行くのも良いかと方向を変える。
温室は温かく、植えてあるものも王都ではあまり見ないものばかりだ。マトフェイでいくつか同じようなものを見た気がする。
護衛達は温室の外で待っているよう指示して2人になる。
「……あの……、フレイヤ様の行方は、何かお分かりになりましたか?」
「いや……分からなかった」
「そうですか」
「また、気にしているのか」
「また……ですから。また、私が不甲斐ないせいで、フレイヤ様は居なくなってしまったので」
以前はカリナがフレイヤと離れフーシェ侯爵令嬢の後を追っている隙にプブル卿に連れていかれてしまった。今回は自身が毒をまんまと盛られてしまい脅される原因を作ってしまったので、また自分のせいだと責めているのだろう。
溜め息を吐く。
「カリナだけじゃない。皆だ。皆、同じように自分を責めている」
「皆?レオンお兄様ではなく、ですか?」
「ああ。一緒に暮らしていたのに気づけなかったリーズ公爵夫妻も、カリナと同じで毒を盛られたルイーズも、カリナの側にいた筈の俺もだ」
「殿下……」
カリナを抱き締める。
何故気づかなかったのだろう。ずっと側にいたのに。カリナ自身も気がつかなかった。近寄るもの、手にするもの、口にするもの全てに気を配っていた。どのような手口で盛ったのか。
それに会場には魔法を使えないよう制限魔法を掛けていた。
なのにローラもルイーズもクランリカード侯爵令嬢も、そしてカリナも、ほぼ同時だった。
「……私、驕りがあったかもしれません」
「驕り?」
「昨年の仮装トーナメント大会で優勝して、アナベル様の直系魔女の実力を示せたと自信を持てたのですが、それが驕りになったのかもしれません」
「そうか」
「それで反省しました。お母様は私よりもずっと強い魔女です。まだ私には学ぶことが多く、鍛練を怠ってはならないのだと」
「そうだな」
意外にも前向きな様子で安心する。以前のように私の前で涙を浮かべるようなことは無い。
「そして、私はテオドールを許しません。私の大切なお義姉様になられる方を連れ去って悲しませていることへの報復を受けて頂き、反省して頂かなければ私の気が済みません」
「……そうか」
「テオドールはお母様の本当の怖さを知りません。だからあんなことが出来るのでしょう。始まりの魔女の直系魔女の恐ろしさを知らしめなければなりません。私もお母様を見習って魔法技術だけでなく心身ともに強くありたいと思います」
「……そうだな」
だんだんと話が思いもよらぬ方へと進んでいる気がするのだが。
「こんな好戦的な女でガッカリされましたか?」
「まさか。でも、益々ベルック公爵夫人に似てきたなとは思った」
「そうでしょうか」
にこりとしているのに笑っていない。強くなったなと思う。
姉上もベルック爵夫人も毅然と立っている。何事に対してもどんなことを言われようともおくびにも出さずに美しい笑顔を浮かべている。
「私の婚約者は最高だ」
「ありがとうございます」
婚約を申し込み苦労をかけるだろうと言った時、一緒に立ち向かいたいと答えた強い気持ちは彼女の見栄でも理想でもなく、本当なのだと感じた。
私の腕の中にいる彼女を、やっぱり離すことなんて出来ない。
だからこそ余計にレオンの悔しさが哀れに思えてならないのだ。




