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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
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26.マトフェイの地

マトフェイの地は、報告書によれば王都から南の方角の大海に浮かぶ島だということだった。馬で駆けると日数が掛かってしまうので、トルクメ伯領の港から船で大河を下り大海を目指す。魔道具を使い速度を上げても丸2日は掛かった。


大海に出て簡単な地図だけを頼りに、魔法を駆使しながらそれらしい島を探した。大海に浮かぶ島は大小様々数も多い。報告書の島の特徴と照らし合わせそれらしい島を見つけた。


調査とは言え、こんな船で上陸したらテオドールには察知されるだろう。気配消しなんて気休めでしかない。


島には小さな港があった。小振りの船が数艘停泊している。しかし人の気配がない。港で働く者は居ないのだろうか。それとも既に我々に感づいて身を隠しているのだろうか。

港には入らず、少し離れた浜に寄せた。すぐ目の前は断崖絶壁で、満潮時にはこの浜が無くなるだろうなと思った。

隊員2名と航海士を船に残し、島の調査に向かう。

手付かずの自然が多く、無人島なのかとも思うが、海から見た時、山の頂きに城の様な大きな建物が見えた。あそこで島に近づく船を監視しているのかもしれない。


島の地図を開き、調査隊を分ける。島の左右と中心。俺は殿下と共に中心、つまりあの城を調査する。

旅装にフードを被り気配を消して、各々散る。


城の麓には町があった。そこまで人口が多い訳ではないが、領地の中規模程度の町で、普通に暮らしているようだ。文明が数十年遡った感じはあるが、貧しさは感じられず、町の建物も街道もそこそこに手が入って整えられている。冬なのに暖かい気候も相まってリゾート地にでも来たような感じがする。店の者も街道を行く者も、穏やかで日々の暮らしを楽しんでいるように見える。


この様な人々の生活は報告書には無い。ブライアンが潜入調査してから40年の間に形成された暮らしなのだろう。小さな国と言ってもおかしくない。


「どの様な国家形成なのかや統制方法等かは分からないが、暮らしている者の表情は悪くないな。寧ろ、明るい」


「そうですね」


第二王子の善政なのだろうか。エドワード殿下と同じように王族として政治や経済を学んでいる筈。


「しかし、こんなにもどこから人が流れてきたのだろうか」


「近くの大陸の領地でしょうか」


町の道を歩いて観察する。宿屋も見つけた。宿屋の客はどこからくるのだろうか。ここは王家が知り得ない場所。貴族にもおそらく知られていない筈。周辺の平民は何も知らずにここを訪れるのだろうか。それなら港に連絡船が停泊していそうなものだが。


町を通り過ぎ城に向かって歩き続ける。城の周りは美しい森が広がっていた。途中警備の者が誰も居なかった。城の門まで来たが、ここにも誰もいない。門は開け放たれている。


「入ってくれって、誘われてますか?これ……」


「一先ず周囲をぐるりと回ってみるか」


城壁があるのでそれに沿って回ってみる。蔓性植物が壁を蔦っていて洒落ているが、城壁は見上げるほどに高く、浮遊しなければ飛び越えられない位なので、魔法に反応する防御魔法を掛けたら直ぐに侵入者が分かるだろう。


半周回った所で裏口を発見した。ここはアイアンの門扉が閉まっているが、鍵が掛けられている様子はない。門から真っ直ぐ小路が延びている。木々の木漏れ日が美しく、誘われているようにも感じる。誰かが定期的に通っているのだろう。道は踏みしめられあまり雑草が生えていない。


「何かあるのだろうか?」


「探ってみますか?」


小路を進む。歩きながら不思議な空気を感じた。時折鳥が鳴く声がする。少し坂になっており、登った先は大きな木がなく、開けていて青空が見えた。


そして墓が2つあった。


墓石の文字を読む。


「『ラファエロ、親愛なる彼に安らぎの眠りを』……もう一つは『小さな命に愛を捧げる』」


「ラファエロ……か。第二王子の名だな」


「ということは、第二王子は亡くなっているということですか」


没年は2年前になっている。70歳位で亡くなったのか。王家の高魔力者としては早い気がする。


墓石には花が供えられている。枯れている様子が無いので、ここ数日内に供えられたものだろう。



「あら。どなたかしら?」


急に後ろから話し掛けられ2人してはっとして振り返る。全く気配に気がつかなかった。油断していただろうか。


1人の女性が花を持って立っていた。


普通の貴族夫人のような佇まいと雰囲気。歳を召しているが綺麗な人だ。気配は殆ど感じられない。魔法技術が高く、魔力も高い魔女であろうと直ぐに察する。しかし、刺がない。


「失礼。この墓は貴女のご家族でしたか?立ち入って申し訳ない」


「ええ。貴殿方は旅のお方でしょうか?そのような格好ではこの島は暑いでしょう」


「そうですね」


姿を隠す為にフードを被っているので、暑くとも脱ぎたくないし、今更魔法で変身して人相を変えることも出来ない。


「町に下りれば洋服屋もあります。良かったら一式揃えて島の衣装を楽しんでください」


気配は無いまま、警戒心も無い。見ず知らずの者に気軽に話し掛け、淡々と墓石を拭き墓に花を供えている。

そして俺達に背を向け墓の前に膝をつき、手を合わせ祈りを捧げている。


祈りが終わるのを待って話し掛けてみる。


「この故人と貴女との関係は?」


「ふふ。私の……何かしらね。夫と言って良いのかしら」


ゆっくりとこちらに振り返る。

向ける瞳が黄金色をしている。


「綺麗な金髪ですね。貴方様は王家の方でしょうか?」


殿下を真っ直ぐ見ている。


「貴女は……タウンゼン侯爵家のご息女ですね」


「……はい」


タウンゼン侯爵家は始まりの魔女アナベル様の3人目の夫の子どもが賜った侯爵家だ。代々高魔力の子孫が産まれており、その血統の良さからも縁を繋ぎたがる家が多い。

綺麗な容姿と瞳からアナベル様の血を濃く受け継いでいるのだろうと感じられる。


「王家の第一王子、エドワードだ。話を伺いたいのだが、宜しいか?」


「はい。ラファエロ様が亡くなった時から、いつか、この様な日が来るのではと思っておりましたから。私でお答え出来ることで宜しければお話しいたします」


「ご協力感謝する」



再び木漏れ日の美しい小路を歩きながら、タウンゼン侯爵息女が話を始めた。


「私は、50年前の事件のことは彼からは何も聞いていないのです。彼が行方をくらましたと知って、何もかも捨ててただ彼の後を追い掛けました。素人の私は手当たり次第に人に聞いて回りました。女のひとり旅でかなり危ない目にも遭いましたが、魔力が高かったお陰で魔法でどうにか切り抜けていました。それが危なっかしかったのでしょうね。人探しのひとり旅をしている女の噂を何処かで聞いた彼が、私の目の前に現れてくれました。相当怒られましたが、私は帰る家も無いから連れて行って欲しいと縋ってお願いをしました」


さすがアナベル様の家系と言うべきか、執着心と行動力に驚く。


「それから2人で転々と旅を続けました。行く宛もない旅。でも、私は王都から領地以外には殆ど出たことが無かったので、見たことの無い景色がとても新鮮でした。それに、彼が居てくれるだけで私は十分幸せでした」


彼女の気配消しの技術が高いのは、ラファエロ第二王子との逃亡生活で身に付き、癖となって抜けなくなっているのかもしれない。


小路を抜け、城に戻ってきた。アイアンの門扉をキイイと音をたて開く。


「どうぞお入りください。お茶をお出ししますから、中でお話ししましょうか」


城壁の中をぐるりと回り、正面の入り口に着くと使用人が出てきた。その者に来客の旨を伝え、俺達は応接間に通された。城と言っても王宮の様な豪華絢爛な雰囲気ではない。とても質素でいて一つ一つの家具の手入れが行き届いているが、高級感は無い。

そして敷地内を歩いていても警備の者が見当たらない。使用人も執事風の男性と、女性使用人を2人見掛けただけ。


「この城には、私と私の娘と、使用人が数名いるだけです。前まではもうちょっといたのですが、今は少なくて。驚かれました?」


訝しんでいるように見えたのだろうか。俺に向かって説明してくれた。


「ええ、まあ。城の大きさに比べて使用人も少ないが、警備が全く見当たらないので」


「そうですね。その話もいたしましょう。先ずは先程の続きからお話しします」


使用人がお茶を運んできてくれ、彼女が退出するよう伝えると部屋に防音魔法を掛けた。


「彼と旅をして2年くらいが経った頃、子どもが出来たのです。私達は失踪した身ですから、結婚も身分も何も無く、定住出来るような所も無くて、この島に辿り着いたのです。でも誰にも頼れず知識もあまり無く、この島までの航海も身体への負担が大きかったのか体調を崩してしまい、流産してしまったのです」


「もしかして、先程の名が刻まれていない墓が?」


「そうです。埋葬してあげることしか出来ませんでした」


目を伏せ一呼吸してお茶を口に含むと、また話し出す。


「私達がこの島に着いた時、既に数名がここで暮らしていました。彼もこの様な王家が把握できていない島があることに驚いていましたが、身を寄せるにはちょうど良いかとここでの暮らしを決めたのです。魔法を使って小さな家をどうにか造り、漁をしたり、森の木の実を採ったり、たまに船で大陸に渡り食料を手に入れてきたりと、これまでの貴族としての暮らしとの違いに四苦八苦しながらも、島の住民と家族のように楽しく過ごしていました」


文明から切り離された先住民の様な暮らし振りに思えた。しかし、何処の領地にも住民として登録出来なければ、そうなってしまうのも仕方がないのかもしれない。


「ある日、彼が航海から戻ると沢山の本を持ち帰ってきたのです。その中に妊娠や出産に関する本があったのです。私も彼も流産してしまったことが悲しかったし辛かったし悔しかったんです。でもまた望んでも良いのかなって思えて……それから暫くしてまた妊娠して、島の方の協力もあって何とか無事に出産したのです。子育ても大変でしたが、やっぱり島の方に沢山助けてもらって、それにある日また航海から戻った彼が今度は人を2人連れ帰って来たんです。使用人として雇うと言って。その者達の子孫が今もここで使用人として働いてくれているのですよ」


先程の執事風の男性やお茶を運んできた女性使用人のことだろう。


「穏やかで幸せな日々を過ごしていましたが、あの事件から10年程が経ったある日から、この島にこれまでに感じたことの無い高い魔力の気配を感じるようになりました。そして彼は突如王宮へ行くとだけ言って、島を出てしまいました」



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