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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
115/159

25.馬鹿な男

朝、まだ薄暗い時間に目を覚ます。1年の内で1番夜が長い時期だ。朝はゆっくりとやってくる。


考え込んだせいで寝つきが悪く十分な睡眠とは言えないが、ここ半年の中では魔力が空になり目覚めなかった時を除けば比較的寝た方ではないだろうか。寝台から起き上がり、邸の使用人達の気配を感じながら身支度をする。


昨夜のフレイヤは何だったのだろう。何故あんなにも積極的で我が儘を言って甘えてきたのだろう。


目を閉じれば彼女との甘い時間を思い出す。

細いのに柔らかな肌。扇情的な声音。恥ずかしがる仕草とは反対に、俺を求め縋るような目。


夢だったのだろうかとも思うが、彼女が忘れていったサフランイエロー色のショールが夢ではないと言ってくる。


そしてこれをどうしようか悩む。

両親に知られては、彼女も責を負うことになる。使用人に返しておくようこっそりお願いするのは、この家では難しい。


騎士団に向かう前にリーズ公爵邸に寄るか。でもそうすればリーズ公爵夫妻に知られてしまうだろうし。


かといってずっと持っている訳にもいかない。次はいつ、会えるかも分からない。


贈り物のふりをしてラッピングして返すか……。


いい大人が、悪戯がバレないように小細工するのも可笑しいか。


素直に謝って怒られ罰を受けよう。どうせ母は俺にしか怒らないだろう。



ショールを持って階下へと下りる。丁度誰か訪ねる者があり、執事が玄関へと急ぎ向かっている。


食堂に向かえば兄が新聞を読んでいた。


「何だ?昨夜のフレイヤの忘れ物か」


俺に気がついて早速指摘される。


「ええ──」


「フレイヤちゃんがどこにどうやってそれを忘れたの?」


ビクッと体が浮いたかと思うくらい驚く。


「……っ、びっくりした……!」


1番知られたくなかった相手が急に後ろに立って声を掛けてきたら、驚くし怖いし焦る。


「昨日は舞踏会だったのに、ドレスに合わせるようなショールじゃないわよね?」


もう追求が始まっている。もう顔が怖い。

カリナのこともあったし、ピリついているのかもしれない。


「……昨夜、俺の部屋にフレイヤが転移して来ました」


「なっ……レオン!貴方、何かしたんじゃ───」


「レオン!!」


一瞬にして纏う空気を変えて俺に食って掛かってきた母の言葉を遮ったのは、焦ったような声の父だった。


早足で食堂に入ってくる。手には手紙のような物を握り締めている。先程の訪問者から届けられたものだろうか。


「レオン!今、リーズ公爵家から急ぎの使者が来た。フレイヤが居なくなったそうだ!」


「居なくなった……?」


何故?どういうことだ?拐われたとでも言うのか?


「朝、侍女が居室に入ると姿が見えず、机に手紙が置いてあったそうだ」


手紙……?


「両親に宛てた手紙で、『ありがとう』という感謝の言葉と、お前との婚約を解消して欲しいと書いてあったと」


婚約……解消……?


父の言葉が理解できない。


「どういうことなの?レオン!昨夜何があったの!?」


居なくなった?自ら?

婚約解消?


じゃあ、昨夜のあれは……?

フレイヤからキスをしてきて、側にいたいって……


「『さようなら』って……そういうことか?」


「何!?エミリオ!レオン!ちゃんと説明して!」


そうだ。帰るとき、『おやすみ』じゃなかった。兄の言う通り『さようなら』だった。


彼女からのキスに呆けてしまって、全然冷静に受け止められなかった。あの挨拶は、今生の別れの挨拶のつもりだったとでも言うのか。


何故?

俺のことが嫌いになった?

だったら昨夜俺のところになんか来ない筈だ。

恥ずかしがり屋の彼女が自分からキスなんてしない筈だ。しかも2度だ。


それに彼女は、俺に……『我慢しないで』と言った。


「『ハジメテは貴方がいい』って……言って……」


「それは、今後誰かに奪われると分かっていたからじゃないのか?」


誰か?

誰に?

考えるまでもない。


「貴方達……したの?」


「……していない」


「本当に?」


「本当だよ。俺が止めたからな」


彼女がどんな思いで昨夜俺のところに来たのか。必死に縋って煽って。


「フレイヤちゃんから求めてくるなんて、おかしいと思わなかったの!?何で気づいてあげられなかったの!」


何故だと何度も思ったし、どうしてだとも何度も思った。


でも、彼女に煽られ欲望のままに求め返して、会話をしなかった。追求しなかった。やっと彼女を抱ける喜びに溺れていた。


やはり男は馬鹿な生き物だ。

いや、俺が馬鹿なんだ。


「どうして手を離したりなんてしたの!?」


母の言う通りだ。どうして抱き締めていた手を離してしまったのだろう。

あの時、彼女からのキスに呆けてなければ、腕の力を弛めなければ、『さようなら』に気づけていれば……

人前でキスすることを恥ずかしがり嫌がっていたのに、昨夜は兄が見ている前で彼女からキスをしてきた。


可能ならずっと彼女を腕の中に閉じ込めておきたかった。任務も体裁も何もかも投げ捨てて、兄のことなんて無視して部屋から追い出して、朝まで彼女を離さなければ何か結果が違ったのだろうか。


俺が今腕に抱えているのは、彼女のサフランイエロー色のショールだけ。



◇◇◇



王宮─────



「……これは?」


「レオンですわ」


「この……麻袋が?」


「フレイヤちゃんからの婚約解消話に暫く使い物にならない状態になったかと思ったら、急に家を飛び出して行きそうになったから魔法で眠らせました。かなり抵抗されてなかなか睡眠魔法が掛からなかったのですが、何とか魔女の意地で掛けました」


「そう……か……」


レオンの母親であるベルック公爵夫人が、夫のベルック公爵と息子のエミリオを従えて来た。そのエミリオが大きな麻袋を肩に担いでいるのだから、不審に思うのも当然なこと。


「エドワード殿下。カリナの様子は聞いておりますか?」


「ああ。もう症状は治まり落ち着いており、顔色も良くなったと聞いている」


「そうですか。ありがとうございます」



今朝早くから昨夜の舞踏会後に集まった部屋に再び召集された。


リーズ公爵家からの知らせによって、急遽行動を変更しなければならなくなったからだ。


フレイヤが居なくなった。

直筆の置き手紙が残されていたことから、拐われた様子ではなく、自ら居なくなったと。


父上である国王陛下、姉上、特殊部隊、それにリーズ公爵夫妻とベルック公爵家が集められ、各所からの情報が上がってくる。


さすがに陛下の御前ということもあり、エミリオが麻袋を肩から下ろし、マデリンが袋の口を開けてレオンの顔だけ出す。容赦なく往復ビンタをお見舞いし目を覚まさせる。魔法解除じゃないのか。


「ん…んっ、んー!」


目を覚ましたレオンは一瞬にして麻袋に入れられその上からロープでぐるぐる巻きにされて体の自由を奪われていることを認識し、抗議の声を上げるが魔法を使われない為にか口にテープを貼られている。

これでは罪人か捕らわれた人ではないか。



「潜らせている隊員からの報告で、昨夜の内に確認出来ている間諜全員が一斉に姿を消したようです」


「一斉にか……フレイヤが居なくなったことと関連しているのだろうな」


リアム隊長の報告に父上が返す。


「昨夜、レオンのところにフレイヤが転移魔法で訪れてきたそうです。おそらくですが、最後の逢瀬に来たのではないかと。愚息が異変に気づけず引き留めることも出来ず申し訳ありません」


「いえ。そんなことを言ったら私達家族もです。気づくことが出来なかった。邸からも簡単に脱け出されてしまった。それに……何も相談もなく、頼られることも無かった」


「ヒューゴ様、それは違いますわ。頼ることが出来なかったのでしょう。彼女はとても優しい子です。昨夜の舞踏会で魔女が狙われ脅されたのではないでしょうか。毒が致死量で無かったのも、次は加減をしないと彼女を脅す為では?」


「そうだろうな。テオドールの目的はフレイヤだけだったようだな」


「……フレイヤというか……あの娘の、高魔力の遺伝子じゃないでしょうか?手紙でレオン様との婚約解消を願い出ています。この星では未成年の婚約は親の署名だけで成立も解消も出来ます。そしてどちらかが死亡した場合は死亡届けが出されると婚約も消滅します。フレイヤは自分の命が絶たれることは無いと分かっていたから、レオン様を縛りつけない為に婚約解消を私達に願い出たのだと思います」


「命が絶たれないということは、その身を必要とされているから、と?」


「こんな言い方は無礼な物言いになりますが、始まりの魔女が欲しいのなら昨夜狙われた魔女でも十分な筈です。それがフレイヤだったのは、あの娘が高魔力保持者だからとしか思えません」


「私もエミリー様の言う通りだと思いますわ。身を捧げなければならないと分かっていたから、昨夜レオンのところに来たのだと思います。……なのに、何にも察してあげることも出来ず手を離すなんて!ほんっとうに馬鹿息子!!」


バシッと思いっきりレオンを叩く。

レオンはと言えば、何も抵抗せず叩かれても反応すらしない。返す言葉も無いのだろう。レオンも同じように思って自分を責めているのだろう。


「それでレオンはフレイヤを追い掛けようとしてマデリンに捕らえられた訳か」


「その通りです、陛下。感情に任せて1人で行っても良い結果になるとは思えませんので。今は状況確認と今後の行動を検討すべきかと思い連れてきた次第です」


「分かった。リアム」


「はっ!」


「間諜が全員居なくなったので、潜る必要もなくなった。動ける特殊部隊の隊員でマトフェイの地へ向かい、調査をしてこい」


「承知しました!」


「レオン。悔しかったらきちんと連れ戻してこい」


父上の言葉にレオンが頭を下げる。


「陛下。私達も王宮魔導士としてお力添えをさせて頂きたいと思います」


リーズ公爵夫妻も娘を連れ去られ、ただ悲しんでじっとしていられないのだろう。



……レオンのこの蓑虫のような格好はいつまでさせる気なのだ?


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