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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
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24.大好きな人

リアム隊長の優しさか後ろめたさか分からないが、邸に帰された。

両親や兄はもう先に帰って来ており自室で休んでいるので、邸内も静かなものだ。一番賑やかなカリナが居ないのも、寂しさを漂わせているのかもしれない。


明日、マトフェイの地に行く。40年前ブライアンが第二王子の所在を探し出し、マトフェイの地を調査している。しかし直ぐに第二王子に悟られてしまい、あの事件が起きた為に報告書は殆ど残っていない。

内偵だが、テオドールは俺の魔力を嗅ぎ取れるのでどこまで調べられるか……。


特殊部隊は任務を口外出来ない。先日ベルック公爵家とリーズ公爵家に過去の話はしたが、今回の任務までは話せない。何事もなくいつも通りに明日の朝邸を出ていくのだ。


フレイヤに会いたい。思いっきり抱き締めたい。

しかし会いに行ったら彼女に危険な任務であると勘づかれるだろう。


明日の準備を終え、寝支度も整え終え、寝台に寄るとナイトテーブルの写真が目に入る。入団式の時にフレイヤと一緒に撮った写真を一枚手に取る。コートから革財布を取り出して、写真を入れた。

女々しいだろうか。でも、写真だけでも共に居て欲しいと思うのだ。写真だけではない。彼女からは刺繍入りのハンカチも、髪紐も、剣帯も贈って貰っている。全てが大切なもの、全てを持って行く。


コートに革財布を戻す。

夜の闇に紛れて、会いに行きたい。そんな思いばかりが募る夜だ─────



その時、目の前が光った。眩しさにまさかと思う。

でもドサッと想像通りの重みを感じ尻餅をつく。反射的に両手で抱えていた。


俺の上にフレイヤが現れた。


「……な、んで……?」


目の前の彼女は幻覚か?俺の会いたいと思う気持ちが具現化したのか?

それとも知らず知らずに寝てしまい、夢でも見ているのだろうか。


でも彼女を抱えている手にはちゃんと感触がある。


「突然ごめんなさい!もう、お休みになられるところでしたか?」


「あ…ああ。どうかしたのか?何か、あったのか?」


何かから逃れるために俺のところに転移してきたという雰囲気ではなさそうだ。怖がっている様子は無い。彼女はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべているようだ。


「あの……」


俺の上に乗ったまま、なかなか次の言葉が出てこない。リーズ公爵領に旅行に行った際に館内でフレイヤが使用していたサフランイエロー色のショールを肩に掛け、その下は夜着ではないだろうか。薄着でこんなに密着したら、また目覚めた日の朝の様に襲ってしまいそうだ。

1度意識してしまうと、俺の中の雄が表に出てきそうになる。


「レオン様……私……」


何か迷っているのだろうか。

彼女の言葉を待ちながら、理性を総動員する。


「今夜は……あの、ずっと……一緒にいてもいいですか?」


…………


やっぱり、夢?


「ちょ、ちょ、ちょ……」


落ち着いて貰おう。違う!落ち着くのは俺の方だ。


「待って……待って!」


動揺している。色々駄目だ。


一旦彼女を俺の上から下ろし、手を引いて立ち上がらせる。距離を保たなければ冷静な判断が出来ない。


「今夜、ずっと?」


「ずっと……」


懇願する顔が可愛すぎて、頭が逆上せそうになる。ごくりと唾を飲み込み、落ち着けと自分に言い聞かせる。


「何かあったの?……今日のことで不安になった?」


カリナやルイーズが狙われ、1人になるのが怖くなったのだろうか。


「いえ……、ただ、側にいたくて」


違うのか?怖いわけではないのか?

こんな可愛いお願い事をされても、俺の理性を破壊するだけなんだけど。


「凄く……凄く嬉しいけれど、フレイヤが側にいたら俺は……我慢出来る自信がない──」


「我慢しないでくださいませ」


俺の胸に飛び込んで服をぎゅっと握り縋り付いてくる。こんな……こんなにも積極的な彼女は見たことがない。急に、何故?


「駄目だよ、フレイヤ。俺がこんなことを言えるような立場ではないかもしれないけれど……君のご両親に顔向け出来なくなるし、もし万が一子を成してしまったらアカデミーを卒業出来なくなる」


「……」


「妊娠したら魔法が使えなくなるのだろう?今魔法が使えなくなるのは、自衛も出来なくなり危険だ。俺は……明日からまた任務がある。いつ終えるか分からない。君の側にいて守ってやれない」


俺の胸で何度も首を振る。

どうしたというのだろう?

こんな我が儘を言うのは初めてで、戸惑う気持ちもあるが可愛くて仕方がない気持ちの方が強い。

でも、どうしてなんだ?


俺の明日からの任務を感じ取って、2度と会えなくなるとでも思っているのだろうか。


「フレイヤ?何かあったの──」


ゆっくり上げた顔の瞳は潤んでいて、吸い込まれそうな彼女の目に俺が囚われている隙に、唇に柔らかな感触を感じた。

冬のせいか少し冷え、微かに震えていた。


初めてだった。彼女からの唇へのキスは。

正確には2度目ではあるが、初めては俺が眠っている間だったので俺には感覚が無かったし実感も無く、記憶もない。

以前頬にキスされた時、『今度は唇にして欲しい』と言ったら『まだ、勇気が出ません』と返された。あれから約1年。


理性を総動員して耐えていたのに、頭が空っぽになり思考を放棄してしまった。


「……はしたないですか?」


唇を離して顔を覗かれる。

俺は今どんな間抜けな顔をしているのだろう。


「私は……ハ、ハジメテは貴方がいいのです」


何を言っている。

当たり前だ。ハジメテも、2度目も、何度目だって、彼女の全部は俺だけのものだ。誰にもやらない。譲る気はさらさらない。他の男になんて許せる訳がない。


もう、駄目だ。


フレイヤの唇を奪う。


彼女に恥をかかせる気か?

恥ずかしがり屋の彼女がこんなにも欲をさらけ出しているんだ。俺を誘って煽っている。


「本当に、いいの?後悔しない?」


卑怯だろうか。どこか心の内を試すような問い。


「しません」


はっきりとした答えに彼女の強い意思を感じる。


寝台に誘い腰掛けるとサフランイエロー色のショールを取り払う。細い肩を掴んでキスをする。何度も繰り返せば、気持ちが高ぶってしまい先に進みたくなり、体をシーツに埋めてしまう。


「ん……」


キスの合間に漏れる甘い声。


何度この声を想像したか分からない。

彼女の美しい体も何度思い描いたか分からない。

そして何度彼女を抱くことをイメージしたか分からない。


どれだけ頭で想像したって、愛する人をやっと抱ける高揚感と未知の世界への緊張感は計り知れなかった。


俺はこれからフレイヤを抱くのだ。



◇◇◇



「あ…ん……」


首にキスをされ、反射的に出てきた声に自分で驚いて手で口を覆う。


自分の声じゃないみたいだ。恥ずかしい。


けれど、直ぐにレオン様に手を退かされてしまう。


「隠さないで。君の感じている顔も声も、俺に見せて、聞かせて」


退かされてしまった手は指をからめられ、もう動かせない。そして沢山のキスをされる。

先週レオン様が目覚めた朝に肌を求められ付いた痕は薄くなってきている。そこをなぞるように肌を吸い付かれる。


繋いでいないもう一方の手で頬や耳や首を優しく触れられ顔が熱くなる。そして形を確認するかのように体の線をなぞられる。擽ったさもあって体がビクッと反応してしまう。


「怖い?」


「いえ……緊張、しています」


「俺もだ」


本当に?

こんなにも大切に扱われて、キスされる度に気持ちが昂って呼吸が荒くなる。沢山「好きだ」と囁かれ、体を触れられる度に快感を感じてお腹の奥が疼く。


これは、普通なの?

こんな感覚があるって、習ってない。

それともレオン様は恋愛の英才教育だけじゃなくて、男女の営みの英才教育も受けているのだろうか。

殿方は誰しもが学ぶようなことなのだろうか。


私から誘っておいて、よく知りもせず、完全に任せてしまっている。私は受け入れるだけ。


レオン様の長い髪が、唇と一緒に肌をなぞっていくのも擽ったい。その髪に触れると柔らかかった。黒髪を撫でて遊んでこの方の感触を確かめていると、その手を取られ掌にもキスをされる。見せつけるように視線を向けながら。その視線の熱さにドキドキして、どうしようもなくこの方のことが好きなんだと再認識する。


レオン様の手が腰から足へ撫で下がっていく。そして再び手が上に移動する時裾を上げながら素足をなぞる。触れられたことのない肌が露になっていき、空気に触れると心許なさに息の仕方を忘れそうになって────




コンコンコン。


「それ以上は、さすがに不味いんじゃないか?」


レオン様と2人、はっとして声のする方を見ると、部屋の扉を開けてエミリオ様が立っていた。


「兄さん……勝手に……!」


「嫌なら鍵くらい掛けろよ。それか防音魔法を掛けろ」


エミリオ様に知られ見られてしまった。声か物音が聞こえてしまったのだろうか。


エミリオ様は部屋を出ていく様子はない。見逃してくれる感じでもない。レオン様は仕方ないといった感じで溜め息を吐き、私の乱れた服を整えてくださる。


私の思惑は、もう、叶わないのかもしれない。


「俺は厳しく言うつもりはないが、今は不味いと思うぞ。それはレオンも分かっているだろう?」


「……中に、出すつもりはない」


「ふーん。以前、両家の信頼を裏切ることになると言っていたのは、フレイヤじゃなかったか?」


エミリオ様の言葉にカッと顔が熱くなる。

その通りだ。ベルック公爵領に行った時に私がエミリオ様に言ったんだ。なのに、自分からその裏切る行為を求めた。


「兄さん!フレイヤを責めるな」


レオン様が私を抱き締めてくださるけれど、悪いのは私だ。言葉が出てこなくて首を振る。


「これはどちらが悪いじゃないだろ。2人の責任なんだから、レオンだけが責めを負うのは違うんじゃないか」


ああ。

あの、少しの甘い時間があれば、十分じゃない。


レオン様が責められてしまうのは嫌だ。


「……すみません。私が……私がはしたなくお誘いしたのです。自分の言ったことに責任も持たずに、両家を裏切る行為を……望んだのです」


「フレイヤ……!」


強く強くぎゅっと抱き締められる。優しいこの方の腕の中が大好きだ。


レオン様の体をそっと押すと、抱き締める腕を緩めてくださる。


「勝手に来てごめんなさい。……行きます、私」


「……送ろうか」


「いいえ。転移で、帰ります」


優しい人。大好きな人。初めて好きになった人。


怒られた犬のようにしゅんとしてしまった顔も可愛く見えてしまって、もう一度精一杯の勇気を出してレオン様にキスをする。


「さようなら、レオン様」


「あ……ああ。さよ、なら……?」


私のキスに驚いたのか不自然さを感じたのか、呆けた表情をしているレオン様から離れて、転移魔法の呪文を唱える。



強い光の中目を瞑り、次に瞼を開けると私の部屋に戻ってきた。


ふらふらと寝台に向かい、崩れ落ちるように寝台に伏す。


涙がポロポロと出てきて止まりそうもない。必死に声を殺して泣き続けた。



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