21.魔力の活かし方
「ははっ!生涯をかけてときたか!」
アディール殿下の側に控えている焦げ茶色の髪のダンディーな騎士の方、確かアディール殿下がリアム隊長と名を仰っていた。
「ええ。当然では?」
さらりと言うレオン様にこちらが恥ずかしくなってしまう。
「ようやくお目にかかれて光栄です、フレイヤ嬢。レオンから煩い程に噂を聞いています。しかし……本当にカミーユの若い頃にそっくりだな。顔だけじゃなく2人の雰囲気も」
リアム隊長に繁々と顔を見られている。レオン様からの噂ってどんなのだろう。やっぱり、おっちょこちょいとかそういうことでしょうかね……、はぁ。
2人の雰囲気もって、おばあ様とブライアンおじい様のことだろうか。そんなに似ているのかしら。確かに私はお母様よりおばあ様の方が良く似ていると言われるけれど。
「リアム殿、あまり2人をからかわないでください。次いでに私にまで火の粉が飛んで来ているように感じますよ」
「ああ、すまない。護衛の身でつい口出ししてしまったな」
そしてその後アディール殿下が退出され、そこでの話は終了となった。
レオン様は馬車のところまで付き添い見送ってくださり、そして王宮舞踏会の日、迎えに来てくれると約束してくださった。
別れ際に、「ちゃんと休んでね」と言われた。先程『顔が疲れているようだ』と言われていたことを思い出し、追及されずに済んで良かったと思いながら、私よりレオン様の方が休めているのだろうかと心配になる。でもそれは私のせいでもある。
「レオン様の方こそ、ご自愛くださいませ」と言うので精一杯だった。
帰りの馬車の中、お母様に聞いてみた。
「私がお腹の中にいた頃、魔法が使えなかったのですか?」
「ええ、そうね。使えないどころか、貴女が勝手に使っていたわね。今日は暑い日だなと思うと私の回りに風が起こって竜巻みたいになったり、お腹が大きくなってきて体が重たくて階段を上るのが辛いなぁなんて思ったら体が浮遊したり、びっくりすることばかりだったわ」
「ああ、そうだったな!特に妊娠後期は私では太刀打ち出来ない程魔力が強くて、カミーユ様が付きっきりで魔法解除に奔走してくれたんだったな」
お父様でもどうにも出来なかった程魔力が強かったなんて……。驚きだ。
「付きっきりだったのですか!?そんなに大変なんですね……」
お母様がにこりと優しい笑顔を向けてくださる。
「大丈夫よ。貴女に子どもが出来たら、私もお母様もおばあ様達も側に付いているから安心しなさいね。うちの魔女はそうやって家族皆で助け合って子どもを産み育てていくのよ」
「レオンもきっと助けてくれる。もしかしたら心配し過ぎて可能な限りフレイヤにピッタリくっついて側から全く離れないかもな」
お父様の言葉にお母様まで同調しながら笑っていて、何かちょっと恥ずかしくなってしまったけれど、改めて温かい家族だなと思って嬉しくなった。
私も、お母様も、おばあ様達も、そうやって大切に育んで貰ったんだ。
夜になり、王宮での話が頭から離れず眠たくならない。レオン様から頂いたガラスのイヤリングを月の光に透かして眺めていた。
バイカラーなのに月の光が入ると屈折するからか青色と琥珀色が混じり合う。
そしてテーブルに映った2色の光が揺れ動くのを目で追う。猫にでもなった気分だ。
第一王子は何故亡くなったのだろう。
第二王子は何故捜査を止め姿を消したのだろう。
テオドールは何故私を狙っているのだろう。
何故……何故……
沢山の疑問ばかりが浮かぶ。
それに、本当に私は始まりの魔女並みの魔力なのだろうか。
魔力が高いだけでそれをコントロールする技術はない。どう活かせるというのだろう。完全に宝の持ち腐れではないだろうか。
おばあ様達が私の高魔力を隠して平穏を守ってくださった。そしてレオン様と出会い、婚約をした。
私はもう守られているだけではいけない。きちんと自分の魔力と向き合って、その魔力をどう用いていくか考えるべきなのではないだろうか。
レオン様は自身の能力を騎士団とエドワード殿下の側で活かしている。
エドワード殿下も王子として、そして騎士団でも活かしている。
カリナ様はこれから王子妃となり役立てていくことだろう。
お母様は王宮魔導士として能力を存分に活用して王家に、そしてこの星の為に尽くしている。
じゃあ、私は?
私も王宮魔導士になりたいと思ってきた。もうあと数ヶ月で試験が行われる。
私は─────
ふいっと、テーブルに映っていた筈のイヤリングのガラスの透かされた光を、黒い影が覆ってしまい消える。
ガタッと音をたてて椅子から立ち上がって後退ると、その姿が目に入る。
「やあ。物思いに耽ってるの?」
テオドールだ。
体が震えそうになる。
でも、怯えてばかりいては駄目だ。
何も出来ない自分に対して悔しく情けないと思い、後悔をしたくないのだ。
「……どうして、ここに?」
テオドールは嫌な程綺麗な笑顔を浮かべている。
「今日、話を聞いたんでしょ?」
「……貴方の目的は、何なのですか?」
「目的?そんなの、君に決まってるじゃない」
「……私の、命ですか?」
「あー……ドルバックが言ってた?あの時はその方が面白いかなって思ってドルバックにはそう言ったんだけど、今は違うかな」
「今……は?」
「君自身が欲しい」
「どういうこと……?」
「君の魔力と言うか、血?遺伝子?」
「魔力?遺伝子?……どう渡せと?」
「私の子どもを産んで」
「!?、そっ、それは……嫌です!」
信じられない気持ちで思わず声が大きくなってしまう。
何を言っているのだろう。理解出来ない。
「結婚はしなくていいよ?遺伝子が欲しいだけだから」
「嫌です!何を言っているんですか!」
「そうなの?」
テオドールは私が高魔力だから、子孫に高い魔力を残したくて、私に子どもを産めと言っているのか。
昼間、お父様とお母様との会話で『家族で助け合って子どもを産み育てていくのよ』と言っていたのに、テオドールはそんな温かな支え合いや気遣い等感じられず、子どもを産む道具のような扱いに感じる。
「君に拒まれるとなぁ、脅迫しないとかな」
「脅迫……?まさか……エレナとレベッカに……」
ビクッとなる。私の友人を再び利用しようとでもいうのか。
「まあ、君の友人でも良いんだけどねぇ。君が憂いなく私のところに来てくれるには、君の婚約者がいなくなった方が良いのかなって思うんだけど」
それは、レオン様を……
「止めて!」
「殺されたくないのなら、君自ら私のところに来るしかないかなぁ」
「そんな……」
そんなこと、出来る筈がない。
「ああ、ちょっと喋り過ぎたかな。私の魔力を察知されたら困るからもう行くよ。どちらが良いか考えておいてね~」
そしてまたスッと上に飛んで姿が見えなくなった。
只でさえ昼間の話で頭がいっぱいいっぱいな状態なのに、さらにテオドールからの脅迫で処理しきれない。
『どちらが良いか考えておいて』
それは、何の抵抗もせずにテオドールの元へ行き子を産むか、抵抗をしてレオン様を再び危険な目に遇わせるかと言うことなのだろう。
そんなの、どちらも嫌だ……。




