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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
105/159

15.夢か現か

なんだろう。

久しぶりにとても温かく柔らかな感触。


どうしてだろう。

体がどこも痛くない。

最近は椅子に座ったままレオン様の寝台に伏して寝ていたから、体が凝ってしまい痛くなっていたのに。


心地よい寝心地。


頭を撫でられている。

優しい手つきで時々髪の中に指が入り込んだり、髪の束を持ち毛先まで撫でてくれる。


大きな手の指が……


ああ、よく知っている手だ。

手にタコがあって、固くなっていて。


でも大好きな手。


夢を見ているんだ。


寂しくて、恋しくて、夢にまで見てしまうなんて。


夢なら、もっとおねだりして良いかな?

欲張って良いかな?

起きている姿を見ても良いかな?


眠たいけれど閉じている目を頑張って開けてみる────



「起きた?」


「…………」


「おはよう、フレイヤ」


目の前に琥珀色の瞳が見える。ずっと閉じられていて見ることが叶わなかった瞳。


そして久しぶりに聞く声。優しく甘い声で名前を呼んでくれる。


頑張って瞳を開けて良かった。夢でも起きている姿を見ることが出来た。


いや、起きているというか、目を開けているだけで、一緒に寝台に横になっている。

温かくて柔らかい感触は、レオン様の布団に私がお邪魔していたからなんだ。


一緒に寝ているなんて、さすが夢だ。

結婚した後の未来の夢でも見ているのだろうか。

なんて都合の良い夢だ。

あ、夢だから都合が良いのか。


「フレイヤ?」


ああ、また名前を呼んでくれた。さっきよりも甘くて、ベルック公爵領で食べたベリーとチーズクリームのクッキーサンドや乾燥ベリーのチョコレートよりも甘い。

名前を呼ばれただけなのに、愛の言葉を囁かれたような気分になる。


夢なら……これが夢ならば……


震える手を伸ばして、レオン様の服の胸辺りを握る。夢とは思えないはっきりとしたシャツの感触。


「もう……やです」


「……フレイヤ?」


「もう、こんなのは……嫌です。会えないのは幾らでも我慢するので、こんな……レオン様を失ってしまうかもしれない恐怖を味わうのは……もう、嫌です」


お願いです。

夢から覚めても、レオン様が目覚めていて欲しい。

ただ眠っているレオン様を見つめ続けるのは、もう嫌だ。


私の頭を撫でてくれている手を止め、頬に掌を添えて親指で目元を拭う。

私、涙を流してた?


「ごめんね」


自身の涙に気づくけど、どうにも流れ始めた涙は止まりそうもない。拭いきれない涙が布団を濡らしてしまう。


頬から手を離し、レオン様の服を握っている私の手を取り、指を絡め握られ、真上を向かされ寝台に縫い止められる。そして私に覆い被さって、私の涙をキスで拭っていく。

なんてロマンチックな夢なのだろう。


ただただ、身動きもせずぼーっとレオン様を下から見上げる。


「泣かないで」


次第にキスが頬へと下がっていき、唇にも落とされる。


「俺は、君の涙には弱いんだ」


ずっとして欲しかったキス。1回で終わるなんて嫌だ。夢だと思えば恥ずかしげもなく口が開く。


「キス……して」


私がおねだりをすれば、何度も何度も鳥のように啄むキスを繰り返す。少しずつ甘いキスに変化していく。舌を絡め、どちらのものか分からない唾液が溢れ、唾液と共に唇や舌を吸われ、気持ちが昂っていく。気持ちが良い。


止めないで。


唇から離れ顎にも首にも沢山キスをしてくれる。ゾクゾクとして、思考が儘ならない。


でも、夢だ。何も考えずに、快楽に任せても良いんだ。


出ている肌全てにキスが落とされたんじゃないかってくらいされて、肌が熱を持ち、お腹の奥が疼くのを感じた。そして唇が身に纏っている服の襟ぐりを探り始め、そのまま服の上から胸に触れ─────





「フレイヤ様ー!おはようございます!今日もアカデミーはお休みで……」


あ。今朝もカリナ様がいつもの確認の台詞を言う。

まだ心地の良い夢の中に居たいけれど、もう、夢から覚めて返事をしないと……



覚めて……



「目覚めて早々何してるんですか───!!!」


ど────ん!と、私に覆い被さっていたレオン様が突き飛ばされ寝台から落とされた。


あれ?あれ?あれ?


覚めない……?


もしかして、夢じゃなかった?


現実?


「いた……い………」


あれ?やっぱりレオン様の声?

頭が混乱している。


さっきまで、目覚めたレオン様と会話してたの?


少し体を起こして寝台から落ちてしまったレオン様を見る。やっぱり目覚めてる。逆さまに落ちて天に向いてしまった足がピクピクしてる。


「カ……カリナ様!病人です……!」


「はっ!うっかりしてた……!」


うっかり、なんだ……。






「あら。不思議ね!空っぽになってた魔力が一晩で半分まで回復してるわ」


マデリン様にレオン様の容態を確認してもらった。すっかり空っぽになってしまっていた魔力の回復状態はずっと悪く、いつ元に戻るのか見当もつけられない程毎日微量の回復しか確認出来ていなかった。

それが今朝何故だか半分まで回復したという。


「体調でおかしなところは?」


「何もない」


「治癒魔法もこれなら効くわね」


「大した怪我はないみたいだから、自然治癒させます」


「そう」


目の前に、起きて喋っているレオン様がいる。


まだどこか信じられないような気分で、じーっとレオン様の顔を見つめてしまう。


私の視線に気づいて美しい顔で微笑んでくださる。

ずっと見たかった優しい微笑み。


「それにしても不思議ねぇ。何で急に魔力が回復したのかしら?」


「フレイヤが側で看病してくれたから」


レオン様は手を伸ばして、すぐ側で椅子に座っている私の頬に触れてキラキラの甘い顔を向けてくださる。


そんなレオン様の頭を容赦なくマデリン様は叩く。


「だからって目覚めて早々に布団に連れ込むな!」


「ってぇ……!だって、寝台に伏せって眠ってたから、風邪引いてしまうと思って」


普通に起こしてくれて良かったのに。そうすれば皆様にも目覚めたことをお知らせ出来たのに。


「全くこのエロ息子!」


「言い方!俺はフレイヤにだけだ!」


「開き直るな!獣息子!」


私はこの会話をどんな気分でとんな顔をして聞けば良いのかしら……。


「フレイヤちゃん、夜の間は特に変わり無かったのよね?」


「はっ、はい!特には……」


「フレイヤちゃんも何もしてないのよね?」


私は治癒魔法をそこまで使えない。王宮の医局の方にもどうにも出来なかったのに、私がどうこう出来る筈もなく。だから毎日何も出来ないからただ側に居ただけ。


昨夜も何も出来ずに、ただ入団式の時の写真を眺めて、早く起きて欲しいと願って、寂しくて眠っているレオン様にキスを………


キスを……?


キスをしたのは……昨夜だけ……


急に顔がぼっと火を吹いたように熱くなる。


「あら?何この反応」


「フレイヤ?顔、真っ赤だよ?」


いやいや、まさか、そんな、キスをしたのが原因とか……あるの?


「フレイヤちゃん、何かしたのね?」


マデリン様に聞かれるけれど、恥ずかしくて言えない!言わなきゃ駄目ですか……!?


ああ……マデリン様の美しい顔が言えって言ってる……。


私はこの方には何故だか逆らえないのだ……。


観念するしかない……。

恥を忍んで白状するしかない……。


「……スを……」


「ん?」


「……眠っているレオン様に……キスを、しました……」


…………沈黙?



「フレイヤちゃん、可愛いわ!」


ぎゅううっとマデリン様に抱き締められる。昨日と同じように、座っている私の頭を抱えて、今朝も良い香りがする。


「意外とやるもんだな」


「何かの物語みたい!愛のキスで目覚めるのですね!」


「物語では男女逆じゃなかったか?」


レオン様が目覚めたということで勢揃いしたベルック公爵家のご家族皆様にも知られて恥ずかしくて仕方がない。

両手で顔を覆って感じる熱に、もう顔を上げられる状態ではない程に真っ赤になっているだろうと悟る。


「愛のキス……」


レオン様!復唱しないで……!

恥ずかしいから!!


「昔、魔女は今よりも魔力が高くて、魔力膨張を起こさない為に定期的に魔力を放出する必要があって、一番効率的なパートナーとの性行為で魔力を受け取って貰っていたって聞いたことがあるわ。放出された魔力を吸い取ることは出来ても、一方的に魔力を相手に流すことは性行為以外では出来ないと思っていたけれど、キスでも出来たのね」


朝から凄い内容の話を普通に話されるマデリン様。さすがです……。


「でも、私魔力を流したつもりは無いのですが……流し方もよく分かりませんし」


「そうねぇ。無意識なのかしらね。フレイヤちゃんはこの1週間、アカデミーにも行かずに魔法を全然使わなかったから、魔力が有り余って勝手に放出しちゃったとかかしら?」


勝手に放出……なんともはた迷惑な……。

いや、まあ、今回は結果オーライ的なことになったけれど。


「あ、私はもうアカデミーに行く時間になってしまうから、朝食を頂いてくるわ!」


カリナ様は慌てて部屋を出ていく。

そう言えばもうそんな時間……。


「フレイヤちゃんは今日もお休みかな?でも明日からはちゃんと行かないと駄目よ?」


「……はい」


マデリン様が大目に見てくれた。今日は目覚めたレオン様の側に居ても良いと言うことだろうか。


「フレイヤ。レオンはまだ魔力が完全に回復した訳ではないから、生命力も回復してないだろう。男は生殖本能として生命の危機を体が感じると性欲が増す。今の状態のレオンは母さんが言った通り獣でしかないから、気をつけろよ~」


「えっ……!」


相変わらずエミリオ様は恥ずかしげもなく言う。ああ、マデリン様と一緒か……。


「兄さん!余計なこというなっ!」


レオン様の声を背中越しに聞いてエミリオ様は部屋を出ていった。


「エミリオの言う通りね。2人っきりは禁止にするわ」


「おい!」


「レオンは一先ず置いといて、フレイヤちゃんは私達と一緒に朝食にしましょう!」


「おいっ!」


「その前に着替えかな。フレイヤちゃんはまだ夜着だし。レオンの痕が見えちゃってるし」


「えっ……」


マデリン様に指摘されるままに視線を落としてみれば、夜着の上から羽織っている借り物の大判のショールの隙間から見える肌に、赤い痕が……これは、キスマーク!


「きゃっ……!」


全然気づかなかった!これは……さっき、付いたのだろうか。夢だと思って何一つ抵抗もせず、全てのキスを受け入れてしまった。それどころか、私からねだった……。思い出すだけで恥ずかしい。

しかも一つじゃない。ショールを少し開いて覗けば、数えるのも恥ずかしい程沢山ある。


「とんでもなく大きな虫に吸われたわね」


「人を虫扱いするな!」


近くにいたマデリン様もショールの中を除いたのか、呆れ顔でレオン様に咎める視線を送っている。


この1週間、必要最低限の用事以外レオン様の側から離れずにいたけれど、着替える為に初めて積極的に部屋から出たのだった。



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