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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
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14.離れない

レオン様の意識が戻らないまま、1週間が経った。

来週には王立アカデミーも休暇に入り、王宮舞踏会も行われる。


私はこの1週間、ずっとレオン様の側から離れずにいた。1度も帰らずずっとベルック公爵邸に居座っている。ご迷惑を掛けているだろうと自覚はあるものの、どうしても離れたくなかった。


アカデミーにも行っていない。3年生になってから王宮魔導士の講義もあり、ちゃんと行っていたけれど、私の中ではそれどころではないのだ。

アカデミーの卒業よりも、王宮魔導士になることよりも、どんなことよりもレオン様を失うことの方が怖い。


私がここにいることでレオン様が目覚める訳ではないことくらい、分かっている。実際側に居たって1週間も目覚めていないのだから。

でも、それでも、離れてしまうのが怖くて仕方がないのだ。


あの日、あの時、離れなければ……

レオン様の側にいて、私も何か出来ていれば……


あんな風に戸惑い、凍った手を火魔法で溶かすことすら手が震え手間取ってしまった。


私はやっぱりソフィア様の直系だなんて言えない。何も出来なかった。何の役にも立たなかった。

情けない。


私は何の為にこれまで魔法の勉強をしてきたのだろう?

アカデミーの授業で魔法を使う為?

違う。そんな訳無い。

必要な時に魔法を扱えるようにじゃないの?

その為にアカデミーでも魔法を学んできた筈。


あの時が必要な時だった。

いざというときに何も出来ずただ守られているだけなんて……。


情けない。


もうレオン様と離れてしまうのが怖い。

離れた瞬間に何か起きてしまうんじゃないかと思うと、怖くて怖くて足が動かない。この寝台から離れられない。


守られるだけなんて、嫌だ。

でも、私が弱いのがいけないんだ。いつまでも魔法技術が上達しない。


結局は、私が弱いからこうなってしまったんだ。





「フレイヤちゃん。今日も帰らなくていいの?」


マデリン様に夕方になるといつも聞かれる台詞。


「……帰りません」


私もいつも同じ台詞で返している。


「じゃあ、リーズ公爵邸に連絡しておくわね」


「……すみません。ありがとうございます」


マデリン様は優しい笑顔で返してくださる。


「可愛い子。早く本当の娘にならないかしら~」


レオン様が眠っている寝台の隣の椅子に座っている私の頭を、ぎゅっと包み込むように抱き締めてくださる。温かくて優しい腕の中。そしてフローラルのとても良い香りがする。今は初冬なのに春を思わせる暖かみがあり、気持ちを落ち着かせてくれるような優しい花の香り。


「ここにいることは全然構わないけれど、食事はちゃんと取ってね。レオンが目覚めた時にフレイヤちゃんが痩せちゃっていたら、私達が怒られちゃうわ」


「……はい」


「まったく、この馬鹿息子は!大切な婚約者にこんなに心配掛けて駄目ねぇ!」


マデリン様が眠っているレオン様をバシバシ叩いている。気のせいか美しい寝顔のレオン様の顔が歪んでいるような気がする。

寝ながらも怒っている姿を想像出来てしまう。


「あっ、あのっ、病人ですから……」


「そお?仕方ない。まだ叩き足りないけれど、フレイヤちゃんに免じてこのくらいにしておくわ」


叩き足りないのですか……!


「じゃあ夕食の準備が出来たらまたここに運ぶわね」


「ありがとうございます」


そうしてマデリン様は去っていった。


ベルック公爵邸の皆様の優しさに甘えて、ただ側に居たいという我が儘を通している。

お父様もお母様も無理に帰宅を促すようなことはせず、好きにさせてくれている。





夜になった。


今日も、レオン様が目覚めることなく夜が来てしまった。


眠っているレオン様の隣で1人食事を取った。いつも毎食そうだった。

入浴もさせて貰うが、カラスの行水だ。これも毎日そうだった。入浴を手伝ってくださる使用人の方も驚く程早くに済ませていた。

本音を言うなら入浴で離れるのも嫌で、入りたくないくらいだ。でもマデリン様に「レオンが目覚めた時に少しでも綺麗な方が良いでしょ?」と言われてしまい、促されるままに入るようになった。


レオン様が目覚めた時に……

と言われてしまうと私も弱い。マデリン様はよく分かっていてそう言うのだろう。


そして夜寝る時の為に、カウチもレオン様の部屋に入れてくださった。

でも、折角私の為に準備してくださったのだが、殆ど使ったことがない。いつもレオン様を見つめているから、知らず寝てしまい、レオン様の寝台に伏せった状態で目が覚める。

起きてはレオン様の顔を覗き見て、昨日と変わらない寝顔に気持ちが沈んでしまう。


毎日こんな日々の繰り返し。



レオン様の寝台の隣にはナイトテーブルがあり、入団式の時に撮った写真が飾られている。そしてその横には、あの日に購入した髪紐が入った袋を置いていた。


写真が現像出来てもなかなかレオン様に会えず、渡すことが出来なかったので、カリナ様にお渡しした。そうしたらお洒落なボードに貼ってくださったらしく、それ以降このナイトテーブルに飾られていると教えてくださった。


エドワード殿下との写真と、ベルック公爵家の皆様との写真と、私との写真。

私との写真は、私の部屋にも飾ってある。毎日、会えなくて寂しい時に眺めていた。


今は、すぐそこにいるのに、あの時よりも寂しく感じる。


もう、笑い掛けてくださらないかもしれない。

もう、優しく話し掛けてくださらないかもしれない。

もう、抱き締めてくださらないかもしれない。

もう、キスしてくださらないかもしれない。


あの時は、会えたら……と希望があった。お花を贈ってくださって、メッセージカードも頂いて……お仕事が休みの日が待ち遠しかった。


でも今は、このまま眠ったままだったら?

そう思うと不安で仕方がない。


もう、買った髪紐を渡せないかもしれない。

そもそも買いに出掛けなければこんなことにならなかったかもしれない。

まただ。また、思い立ったまま即行動して取り返しのつかないことになった。自分がもっと慎重になっていたら?

レオン様の眠っている顔を見ると後悔ばかりだ。


すぐ側にいても、ただ瞳が閉じられた美しい顔を眺めるだけ。


私の名前を呼んで、笑い掛けて欲しい。

優しくて美しい笑顔で、『好きだよ』って言って欲しい。

そして抱き締めてキスをして欲しい。



今夜は、窓の外に綺麗な月が出ている。

いつか、一緒に見たいと思っていたけれど、こんな形でじゃない。

ちゃんと、「月が綺麗だね」って言い合いたい。



「起きて、ください。レオン様……」


ポツリと言葉にしてしまった。でも何も返答はない。


ただ寂しくて。

眠っているレオン様にキスをした。


久しぶりの唇の感触。

でも、キスをし返してはくださらない。


今日も美しい寝顔を眺めながら、いつの間にか眠ってしまった。



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