10.告白現場の落とし物
今日は魔法の訓練の為にアカデミーの魔法レッスン場に来ていた。
授業は午前で終わり、食堂で魚ランチを食べてしっかり腹ごしらえをしてから来た。
今日の魚ランチは鱈のポワレだった。レモンバターソースもしっかりパンで余さず掬いとって平らげてきた。美味しかった。
私は、魔法を失敗してばかりいることに、最近自信を無くしつつある。他人に迷惑を掛けてしまう失敗は良くないと思うのだ。
どうしたら上手くコントロール出来るようになるのだろう。
まずは基本からやり直そうと思い、レッスン場に来た。
「よし!まずは猪さんが教えてくれたように壁に魔力を流そう!」
レッスン場の白い壁に両手をついて、魔力を流してみる。掌から魔力が流れ出ていく感覚がする。
……どのくらい流したらいいのだろう?
(とりあえず、こんなもんでいいかな)
分からないので適当に切り上げる。
「次は基本ね!」
基礎科の頃に習った通りに、順番にやってみることにする。
「まずは火」
両手の掌の上に、小さな炎を作るイメージをする。するとボウッと炎が現れた。
「いい感じで出来たわ!」
炎を消して、次は水。掌に水を生み出し、丸い球体にする。これもいい感じ。
今度はその水球を氷にする。少しパキパキと氷柱が球体からはみ出てしまったが、「集中、集中」と自分に言い聞かせながら、球体に戻していった。
そして次は風だ。いきなり強い風が起きないように、揺らめく風を少しずつ強くしていき、さっき作った氷の球を浮かせる。氷の球の下には小さな竜巻の様な風の渦を作り、氷の球を一定の高さで留めるようにコントロールする。
「やった!上手くいったわ!」
そしたら次は同時魔法をやろう!
右手に炎、左手に氷の塊を生み出した。どちらも消えてしまわないよう形、大きさをキープするのはなかなかの集中力がいる。とりあえず1分程キープできた。
「これは……疲れるな」
深呼吸をして、今度は水と風を生み出す。雨風のような仕上がりになってしまったが、私がイメージするのは水の竜巻だ。もっと風を強くする。水量も増やす。細い水の渦が出来上がってきた。
(もっとだ…!)
そう思った瞬間、
ゴオオオオ──
「キャ────!!!」
凄い渦潮が出来上がってしまった……。
◇◇◇
「クシュン!」
自らが作り出した渦潮で全身びしょ濡れになってしまい、今度は乾かそうと思って風魔法を起こしたら、強すぎたのか寒いし髪はボサボサになるしで、諦めてレッスン場の裏手にある湖の湖畔で日光浴しながら乾かすことにした。
「春とは言え、さすがに全身濡れると寒いわ」
日の光を浴びながら、弱い風を魔法で起こして少しずつ乾かした。火魔法と風魔法を同時に起こして温風を作り出してみようかと思ったが、燃えてしまう気がして辞めた。
なにせこの私だ。
失敗しそうな気がして仕方がない。
「はぁ……」
情けないな。
私は始まりの魔女のソフィア様の家系だ。ソフィア様は始まりの魔女の中でも特に魔力が高く、勉強熱心で魔法に長けていたといわれている。
なのに私は……
「はぁ……」
溜め息ばかりが出る。
気付けばもう服も髪も殆ど乾いていた。
でもぼーっと溜め息を吐きながら湖を眺めていた。
すると、ガサガサと、布が草木に当たっているような音がした。
(誰か来たのかな?)
そう思った瞬間、
「こんなところまで呼び出してしまってすみませんっ!あのっ…!レオン様、好きです!」
(え───!急に?ここで?こっこっこっこっ…こくはく!?)
突然始まった告白劇に、動揺が隠せずニワトリみたいになってしまった。1人で慌ててキョロキョロ見渡す。
「ごめんなさい」
(えっえっえっ!?どこ?声は…後ろから?)
恐らくだが、私の背にあるツツジの木が大きく、その反対側にいるようだ。
「あっ……そうですよね。王子様みたいなレオン様に私なんかじゃ……」
(私がここにいることバレませんように……!)
バクバクと心臓が鳴るこの緊張感とは関係なく、淡々と進む告白劇。いや、告白してるご令嬢は私と同じくらい、もしくは私以上に緊張しているかもしれない。
「でもっ……振られても、私はレオン様のこと、好きですから!」
(ここからこっそり退散した方が良いかな……)
四つん這いになって、そろりそろりと音を立てずにゆっくりと進むことにした。
「聞いてくださってありがとうございましたっ……ぐすっ」
(ああ……泣いちゃったのかな?振られちゃったんだもんね、泣いちゃうよね)
ガサガサガサッと、立ち去っていくような音がした。ご令嬢がどこかにいったのだろう。
レオン様はまだいるのかな?
しかし、本当にレオン様はおモテになるのだろう。たった一言しか発していないが、とても冷静な声だった。慣れているのだろうな。
ゆっくりとその場を離れようと日陰に入ったのが悪く、ぶるりと寒気がして「クシュン!」とくしゃみをしてしまった。
「誰か…いる?」
(しまった───!!!)
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!聞いてしまってごめんなさい!わざとじゃないんです!すぐここから立ち去ります!ごめんなさいっ!!!」
私は、恥ずかしさと申し訳なさと情けなさで、がばりと立ち上がり一目散にそこから逃げた。
◇◇◇
早口で「ごめんなさい」を連呼して走り去っていった令嬢の、左右に揺れる栗色の長い髪を唖然と見送った。
(もしかして……あの声……馬の子?)
彼女がそこにいたことに気付かず、告白をされているところを聞かれてしまったようだ。
偶然聞いてしまった告白現場に動揺していたのだろう。
(今日も1人で賑やかだったな)
まあ、別に俺は恥ずかしいことなんてないので、良いけれど。
春の陽気に誘われて、湖畔で昼寝でもしようかと大きなツツジの木を回り込んだ。すると、足元で何かがキラリと光った。
(ネックレス?)
拾い上げて見てみると、青い石のネックレスだった。でもネックレスのチェーンが切れている。
(馬の子の落とし物だろうか……)
さて、どうしたものか。




