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時戻りの逆転人生で、初恋のやり直しを -11-

(今日、エイデンが来るのね)


 ドキドキと胸の高鳴りが抑えられない。


 今日は、エイデンをヴァンガード公爵家に迎える日。散々迷った挙句、ミモザは顔合わせの日にヴァンガード公爵邸に姿を現した。


 家族ではない自分が、この大切な日にヴァンガード公爵邸に来るなど、常識がないと思われるのではないか、との不安もあった。しかし、その不安は杞憂に終わる。


「まあ、ミモザちゃんも来てくれたの? 嬉しいわ。そうだわ! このままミモザちゃんとエイデンも婚約を結んでしまいましょうよ!」


 アイリーンは、過去のアケーシャに対する態度とは全く違い、ミモザをとても可愛がってくれている。


「嬉しいお言葉をありがとうございます。だけど、まだお会いしたことがないのに。それに、エイデン様のお気持ちも……」

「大丈夫よ、初めて会う人と婚約するなんてよくある話しだから。それにミモザちゃんはとても可愛いから、エイデンもきっと喜ぶはずよ」


 グイグイと強行しようとするアイリーンに、ミモザがたじろいでいたところ、見かねたヴァンガード公爵が助け舟を出してくれた。


「こら、アイリーン、ミモザちゃんが困っているじゃないか。そりゃ、私もミモザちゃんが本当の娘になってくれたら嬉しいよ。でもまだエイデンにも会ったことがないのに婚約の話は早いよ。それに……」

「あら? あなたと血の繋がった男の子なら絶対に男前に決まってるじゃない。アケーシャが王太子殿下に嫁いでしまったら、寂しくなっちゃうもの」


(お母様、アケーシャがいなくなることをきちんと寂しいって思ってくれるのね)


 ほんの些細なことなのに、ミモザはとても嬉しかった。


「もうお母様ったら、気が早過ぎます! わたしはまだまだ嫁ぎませんから!」

「だって、ミモザちゃんはこんなにも良くできた子だから、今すぐにでも婚約しておかないとすぐに誰かに掻っ攫われちゃうわ。アケーシャよりも王太子妃としての素質があるわよ」

「確かに、わたしもそう思います」


(ふふ、またお母様の口癖が出たわ。きっとお母様は本気でそう思っていてくれていたのね)


 本当に期待されていたのだな、と知り、ミモザは過去の自分にも伝えたくなった。きっとそのことを知っていたら、もっと頑張れた気がしたから。



 アイリーンがアケーシャにだけ厳しかった理由。それは、アイリーンは、実はアケーシャを産んだ際に、子供が産めない身体になってしまっていたから。


 跡取りの男児を産むことを求められていたアイリーンは、それを為せなくなったことに責任を感じ、アケーシャを王太子妃にすることで、その責任を果たそうとしていた。


 そのことは、ミモザは知らない。アケーシャに責任を感じさせないためにも、絶対に口にはしなかったから。



 エイデンがヴァンガード公爵邸に到着した。


 漆黒の髪に碧く輝く瞳、少し憂いを帯びた表情。エイデンを取り巻く全てが、ミモザにとっては懐かしい。


(これから、エイデンは辛い思いをしてしまう……)


 事前に止めることができれば一番良かったのだけれど、それは到底無理な話。だから、サロンの外でミモザはその時を待った。


 サロンで、はじめての顔合わせが始まった。

 アイリーンからは、ミモザも一緒に、との誘いを受けたが、流石に最初から同席するのは如何なものか、と遠慮した。


 すると、程なくしてエイデンがサロンから飛び出して外へ駆けて行った。


 この行動さえも、ミモザにとっては懐かしく思う。すぐに追いかけようとした時に、アケーシャが泣きながらサロンから出てきた。


「ミモザ、どうしよう。エイデンが、エイデンが……お父様が、ひっく……エイデンに、ひっく……うぅ……代わりだ、出てってもらうって……うぅ」


(アケーシャったら、本当に心の優しい子ね。自分のことを殺した相手のために泣いてくれるなんて。エイデンに殺されたトラウマが心配だったけど、ルツィフェ様が本当に癒してくれたのね)

 

 それと同時に、ミモザはサロンの中で起きた出来事について確信する。


「やっぱり、今回もお父様はエイデンに言ったのね」



《お前はアケーシャがヴァンガード公爵家を継ぐことができなくなったから、アケーシャの代わりに迎えただけだ。万が一にでも、アケーシャが公爵家に残ることになった時は、速やかに出ていってもらう》



 それは、ヴァンガード公爵が、顔合わせの席でエイデンに冷酷に告げた言葉。


 アケーシャも、過去の人生ではミモザとして養子に出された身だ。

 ハンナと引き離され、その後会うことさえも叶わなかった。それでも、養子先のスコット男爵夫妻が大層可愛がってくれたから救われた。


 だけどエイデンには、ヴァンガード公爵家に居場所がなくなったらもう帰る場所はない。

 過去の人生において、エイデンの生みの母は、エイデンと引き換えにお金を受け取ったらすぐに、男とどこかへ消えてしまっていたのだから。


「大丈夫よ、アケーシャ。行き先は知っているから。お願い、私に行かせて」


 エイデンの行き先は分かる。

 過去の人生で、いつも自分が見つけてきたのだから。


「今度こそきちんと伝えるわ。ずっと伝えられなかった想いを全て、エイデンに」


 ミモザは決心した。

 初めこそはエイデンを自分に縛り付けたくないと、今日この場にくることさえも躊躇っていた。


 だけど、アケーシャがダニエルと結ばれ、幸せそうな姿を目の当たりにし、ルツィフェがいつ目覚めるかわからないアーシャの元へ帰る決意をした。


 ミモザも、怖がってばかりいないで、幸せを掴むために一歩踏み出そうと思ったから。


 エイデンの居場所を用意してあげたいのではなく、自分がエイデンの居場所になりたい、自分がエイデンの隣にいたい、と思ったから。


 ミモザは走って追いかけた。まっすぐにあの場所へと向かって。


「いた……」


 エイデンは、祠の前に佇んでいた。


(同じね、きっとそろそろ聞こえてくるわ)


「本当の家族を下さい。ずっと一緒にいてくれる、俺のことを一番に愛してくれる家族をください」

「いいよ。私が家族になる」


 ミモザは自然とそう答えていた。


 今度こそは違う言葉をかけよう、そう思っていたのに、いざ口から出た言葉は過去三度の人生と同じ言葉だった。


 ミモザの想いは止まらなかった。


「私の一番はあなたにあげる」


 ミモザはそう言うと、ぎゅっとエイデンを抱きしめた。

 それに気付いたエイデンは、真っ赤な顔をしながら慌てて尋ねてきた。


「だ、だれ?」


 それもそのはず、この四度目の人生、この時初めて二人は出逢ったのだから。

 ミモザもそのことに気付き、思わず頰を赤く染める。


「失礼いたしました。私はミモザ・スコットと申します。エイデン様、先ほどの私の言葉に偽りはありません。私はエイデン様のことが好きです。ずっと前からエイデン様のことが好きなんです」

「ずっと前からって? 今、会ったばかりじゃないか?」


 エイデンは困惑していた。

 言っていることはあり得ないことなのに、ミモザが嘘を言っているようには思えなかったからだ。


「はい、でも本当にずっと前からエイデン様のことを思っていました。私は男爵令嬢なのでエイデン様とは身分が全く違います。不釣り合いなのは十分承知しています。でも、その身分差を跳ね返すくらいの女性になってみせます。エイデン様のお隣が相応しいように。エイデン様の一番になれるように」


 ミモザは自分の想いをエイデンにぶつけた。

 過去の人生で伝えることのできなかった言葉も。



―――エイデン様のことが好き



 それは、アケーシャでは決して言えなかった言葉。半分でも血の繋がった姉弟だからこそ、決して口に出してはいけなかった言葉。


「ミモザさんはおかしな人だね。それなら俺もミモザさんの一番に相応しい男になる。身分の差で文句を言う人がいるのなら、文句も言わせないような男になるよ」


 エイデンは突然のことに困惑しつつも、ミモザの言葉が心底嬉しかった。


 家族に捨てられた自分を受け入れてくれる人がいるということ。まっすぐに自分を見つめ言ってくれたその言葉を、現実のものにしたくなったから。


 もちろん、頬を赤く染めながら一生懸命に言葉を紡ぐミモザが、とても可愛かったこともあるだろうけど。


 ミモザはエイデンと交わした約束を今度こそは絶対に守る、そう誓いながら祠にお祈りを捧げた。


「エイデン様に出逢わせていただきありがとうございます」と。


 もちろんルツィフェはもうここにはいないことは分かっているけれど、神に祈らずにはいられなかった。


「ミモザさん、ありがとう。俺はこの家のみんなにも認めてもらえるように頑張るから。一緒にみんなのところへ戻ろう」


 そしてミモザとエイデンは二人で公爵邸に戻った。


 帰り道、二人が手を繋ぐことはなかった。


 少し離れた場所を歩くエイデンの姿が、今までのエイデンとは少し違うような気がして、少しだけ寂しく感じた。


 それでいて「今までと違う」ということが嬉しくもあった。





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