時戻りの逆転人生で、初恋のやり直しを -12-
「ミモザ、何の本を読んでるの?」
「エイデン様! 古の魔法使いの絵本です。私、この絵本がとても大好きでなんです」
(ルツィフェ様のお話を聞いてから、余計にこの絵本が好きになったわ。ルツィフェ様のことを思ってアーシャ様が書いたのだろうから)
作者不明のこの本を書いたのは、アーシャだとミモザは思った。そう思いながら読むと、ルツィフェへの愛がより一層強く感じた。
ミモザはエイデンに会うために、足繁くヴァンガード公爵邸に遊びに来ている。もちろん、本当の目的はそれだけではないけれど。
「エイデン様なら、魔法使いの方にどのようなお願い事をしますか?」
「ミモザを幸せに……と言いたいところだけど、それは俺がするつもりだし」
エイデンの言葉にミモザは嬉しくなる。エイデンは、アケーシャではなくなった今でも、過去のエイデンと同じように自分のことを思ってくれていると分かったから。
「はいはい、お二人さん、わたしのことも忘れないでね。はあ、もう勉強する気がなくなったわ」
アケーシャは机に突っ伏して音をあげる。
王妃教育が始まったアケーシャは、すでに全くついていけないからと、ミモザからも教えてもらうことにした。
だから、ミモザはエイデンに会うためにヴァンガード公爵邸に通うだけでなく、三人で一緒に勉強することが主たる目的だった。
「姉様はただ勉強がしたくないだけでしょ! 俺とミモザのデートの邪魔をして」
そうは言いつつも、エイデンも三人で勉強するこの時間が嫌いではない。
「ふふ、エイデン様は先ほどから熱心に何の本を読まれているんですか?」
「俺? 俺は、薬草図鑑だよ。ミモザが料理が好きだと言っていたから、薬草も役に立つかな、と思って。それに、毒について調べておくことも将来きっと役に立つだろうから」
「毒!?」
その言葉に真っ先に反応したのはアケーシャだ。
「エイデン! まさか“また”わたしに毒を盛るつもり!?」
二度目の人生で毒入りのお菓子を食べた記憶が蘇る。
「姉様、何を馬鹿なことを言ってるんですか? 今までの話をきちんと聞いていましたか?」
エイデンが心底呆れた顔をする。
「ミモザの作った料理に、毒を入れてわたしに食べさせるって計画でしょ? 将来役に立つとか、本当にやめて!!」
「アケーシャ、落ち着いて。私の料理とエイデン様が毒の勉強をしているのは全く別の話よ」
ミモザはエイデンが毒の勉強をする理由を知っている。
「だって、エイデンが毒を学ぶなんて、他に理由なんてないでしょ?」
「もう、姉様が王太子妃になるからですよ! ミモザの大切な姉様が王太子妃になったら、きっと危険なこともたくさんあると思います。だから、姉様が何か拾い食いして体調を壊したり、毒に当たった時に助けられるように勉強してるんです。姉様がいなくなったらミモザが悲しむから、ですからね!!」
姉様のため、ではないですよ! とエイデンは顔を赤くしながら念を押す。
はじめこそは、エイデンとどう接したらいいのか迷ったアケーシャだったけど、それも本当にはじめだけ。
市井で育ち、何も知らないエイデンを見てるうちに、スコット男爵家に養子に入ったばかりの自分を重ね、あれやこれやと世話を焼くうちに、自分の本当の性格もエイデンには曝け出していた。
エイデンも、アケーシャの裏表のない明るさに、すでに心を許していた。
「エイデン……って、途中、拾い食いとか失礼なこと言ってるわね? さすがにわたしだって落ちているものは食べないわよ!!」
「この前、その辺になってる木の実を食べてたじゃないですか!! “また毒を”とか言って、あの時お腹を壊したのは自分のせいでしょ?」
「あれは食べられる木の実よ!! 甘酸っぱくて美味しいんだから! ただちょっと食べすぎちゃっただけよ」
「ないです。本当にあり得ないです!! 本当に公爵令嬢なんですか?」
さすがに何も言い返せない。助けを求めるようにミモザをちらりと見ると、ミモザの顔は引き攣っていた。
「ないわ……」
「えっ、ミモザまで!? 本当にあの木の実は美味しいんだから。今度持ってきてあげるわ」
「姉様! ミモザに変なものを食べさせないでください!!」
「あの木の実をクッキーに入れると美味しいのよ! そうだわ! エイデンにも食べさせましょう!!」
その言葉を聞き、エイデンはさらに懸命に薬草図鑑を読み始めた。
「それよりも、アケーシャ、そろそろルツィフェ様のところへ行かない?」
絵本を読んでいたミモザは、早く二人に幸せになってほしいと強く思った。
「そうね。エイデンとミモザも婚約したし、もう心配いらないものね。ダニエル様の方でも、この前ようやく許可が下りたと言っていたから、ちょうどいいかもしれないわね」




