時戻りの逆転人生で、初恋のやり直しを -10-
「お母ちゃん!」
「どうなさいましたか? アケーシャお嬢様?」
アケーシャは、ハンナのことを相変わらずお母ちゃんと呼ぶ。一応アイリーンの前では呼ばないようにはしているけれど。
「ふふ、お嬢様はハンナ先生と母娘みたいですね」
ディーマのその言葉に、アケーシャとハンナは顔を見合わせて笑った。
ディーマは、四度目の人生が始まった時からアケーシャとミモザと深く関わってきた。明らかに二人に何かがあったことに気付いているはずなのに、何も聞かないでいてくれている。
「ディーマさん! お母ちゃんから刺繍を教わってるんですか? 羨ましいです!!」
「アケーシャお嬢様も、どうぞご一緒に」
ハンナとディーマは刺繍が好きという共通点があり、仲良くなっていた。
「ねえ、お母ちゃん、お見合いの話がいっぱい来てるって本当?」
「あらまあ、どこからそんな話が?」
貴族界では今やハンナの存在は話題の的だった。
さすがミモザの母親だけあって、見目も良い。それに加えて、ヴァンガード公爵家に重宝されていて、しかも、刺繍の教え子のアケーシャは王太子の婚約者。
ハンナ自身に興味がある者と、貴族としての繋がりの欲しいものが、ハンナに言い寄ってきている。
「あら、ハンナ先生素敵じゃないですか!」
「嫌だねえ、もうこんな年だし、それに私は死んだ夫しか愛する気はないよ」
「お母ちゃん……」
「一途な愛も素敵ですね」
「でもまあ、どうにかなんないものかねえ。いちいち断りを入れるのも大変だし」
ふうっとため息を漏らすハンナに、アケーシャはずっと疑問に思っていたことを思い切って尋ねる。
「お母ちゃんは、本当に結婚する気はないの?」
「ああ、ないね。もちろん遠慮をしているわけじゃないよ。まあ、一生刺繍をして自由に遊んで暮らしてもいいっていう旦那さんがいたら、少しくらいは考えてもいいけどね。もちろんその方を愛することはできないから、そんな都合の良い人は現れないよ」
「ハンナ先生、全く夢がないです……」
(そういえば、同じようなことを言っていた人がいる気が……って、わたしだ!!)
三度目の人生の自分を思い出した。さすが母娘、考えることが似ていた。だから、きっとうまくいく、とアケーシャは声を上げた。
「お母ちゃん! その条件にぴったりと当てはまる人がいるんだけど!!」
「え?」
「ディーマさん、協力してください!!」
「え? 私には一生遊んでいいって言えるほどのお金も甲斐性もないですよ? それに……」
「好きな人がいるんですよね! 辛い恋をしてるんですよね!!」
「!?」
「ふふ、わたしにいい考えがあるんです。ディーマさんは好きな人と一緒にいれて、お母ちゃんは見合いも断れて、刺繍も自由にできる。お飾りの伯爵夫人になる!」
アケーシャはハンナとディーマに計画を話した。
「そんなことが実現できたら確かに嬉しいですけど、ハンナ先生に申し訳ないです」
「そうねえ、三食昼寝付きにしてもらわないと割りに合わないわね」
「ハンナ先生!?」
「ふふ、お飾りの伯爵夫人として何不自由ない暮らしと、かわいい若いツバメと一緒に自由にのびのびと刺繍ができる。しかも三食昼寝付きだなんて最高としか言えないじゃないかい!」
そして着々と計画を遂行し、スティーブン伯爵と偽装結婚をすることに成功する。
もちろん貴族界では、ハンナのこの出来事はさらに話題の的となる。
「あのスティーブン伯爵と若いツバメを手玉にとるなんて、魔性の女だ」
という噂と共に、良縁に恵まれたハンナとアケーシャに続けとばかりに
「ハンナ先生に刺繍を習えば、良縁に恵まれる」
という噂が広まり、ハンナの刺繍教室は予約の取れない刺繍教室として、今以上に大盛況となるのは、未来のお話。
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「……ってことで、お母ちゃんも着々と結婚に向けて動き出すみたい。あの行動力はさすがとしか言いようがないですよ」
「私の知らない間に、お母ちゃんがそんなことになっていたなんて」
今日もミモザはアケーシャの元に訪れた。重大ニュースがあると呼び出されたからだ。
「それにしても、まさか三度目の人生のミモザ様が偽装結婚に偽装妊娠だったなんて」
「ふふ、ああでもしないと絶対にダニエル様から逃げられないと思ったんだもの」
確かに、とミモザは納得する。
「ディーマのことも、私は全然知らなかったわ」
一度目の人生で、辛い恋をしていると言っていたことを思い出し、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「みんなが愛する人と一緒にいられるって嬉しいですね」
「ええ」
「次はミモザの番、ですね!」
にやりとアケーシャが笑う。
「エイデン様、来週いらっしゃいますよ」
ミモザは迷っていた。顔合わせの日に起こる出来事はもちろん分かっている。だけど、エイデンのことを自分に縛り付けてしまう気がしたから。
「私ね、少し怖いの」
「え?」
「エイデンと私は血の繋がりがない。だから、エイデンが心を開いてくれるか不安なの」
ミモザになって、血の繋がりがなくなったから、想いを伝えることはできる。だけど、血の繋がりがなくなったからこそ、エイデンの家族ではない。
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「本当の家族を下さい。ずっと一緒にいてくれる、俺のことを一番に愛してくれる家族を下さい」
「私が家族になるわ。私の一番を、エイデンにあげる」
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血の繋がりがない自分が、彼の家族になると言っていいのか……
「ふふ、ミモザもうじうじと悩むんですね」
「ええ!? 何をいきなり?」
「だって、過去のアケーシャ様は、いつも凛としてどんな時でも美しくて近寄り難いっていうか、まさに氷の姫? という感じで。だけど、今のミモザもとても素敵です。人間らしいっていうか、ひとりの可愛い女の子だな、って」
「私だって、弱気になるわよ!」
「ふふ、大丈夫ですよ! 血の繋がりがなくたって家族になれるんです。私とお母ちゃんだって、今は血の繋がりはないし、ディーマさんと伯爵様だって、法的には認められなくてもこれから家族になるんですよ。そこにお母ちゃんまで加わるんですから。血の繋がりとか家族の形とか、そんなの自由だと思います!」
そこに愛があれば何とかなるんです! とアケーシャが笑った。




