優しい願いは呪いとなって -03-
再び沈黙が走る。そして、真っ先に口を開いたのはミサナだった。
「アーシャお嬢様っ、大丈夫ですか!?」
「えっ、あっ!!」
我に返ったアーシャは、一気にその男から離れる。空かさず、ミサナはアーシャの上着を脱がし始めた。
「ミ、ミサナ、何をしてるんだっ!?
突然、アーシャの服をミサナが脱がし始めたことに驚いたダレルは、咄嗟に身体を背けて視線を外す。
そんなことにも一切構わず、ミサナはアーシャの身体を確かめ始めた。
「大丈夫、みたいですね。アーシャお嬢様、苦しくはないですか?」
「ええ、大丈夫みたい。でも、どうして?」
二人は戸惑いを隠せない様子で顔を見合わせた。
「話が見えないんだけど、とりあえず、俺もそちらを見ても平気か?」
「は!? 申し訳ございません」
ミサナはダレルの存在を思い出し、そして、急いでアーシャに服を着させた。
「ふふ、大丈夫よ。減るもんじゃないし。もう気付いたでしょ?」
「……その身体の痣のことか?」
アーシャの身体には、無数の痣が残されていた。腕や足など身体中の至るところに。
「何よ、ばっちり見てるんじゃない」
「減るもんじゃないんだろ?」
「ダレル様!!」
「ミサナ、大丈夫よ。ちょっと昔にね。だけど不思議ね」
そう言いながら、アーシャは寝ている男の頭を撫で始める。
「アーシャお嬢様!!」
ミサナが止めに入ろうとするも、アーシャはそれを目で制し、男を撫で続けた。
恐る恐る撫でていた手は、次第に優しく。その表情は、不思議そうな眼差しで、それでいて、愛おしそうに。
「やっぱり、何ともないんですか?」
「そうみたいね」
「じゃあ、治ったんですか!」
ミサナの顔がパアッと笑顔になる。
「……試しに殿下、私に触れてみてください」
少しだけ緊張した面持ちで、アーシャはダレルに願い出た。
「大丈夫、なのか?」
「さあ?」
こてりと首を傾げたアーシャは、他人ごとのように飄々と答えた。
「さあ? って……死んだりしたら、さすがに俺は笑えないぞ」
「まあ、その時はその時で」
ジトリとアーシャを見るも、はあっとため息をついて、ダレルはアーシャに軽く触れた。
瞬間、一気にアーシャの全身に発疹が現れてしまった。
「アーシャ!!」
「アーシャお嬢様!!」
ダレルとミサナは、サーッと血の気が引いたように青褪め、ふらりとよろけたアーシャをミサナが支える。
「何よ。やっぱり、治って、ないじゃない」
胸を押さえながら肩で息をし始めたアーシャは、呼吸が荒い。予想以上に、アーシャの持病の発作が出始めてしまったから。
「うるさいっ! 人が久しぶりに気持ちよく寝れてたっていうのに」
「「「!?」」」
ガバッと、起き上がった男が叫ぶ声に、三人は男の存在を思い出し、一斉に目を向けた。
そんな三人に気付いてないのか、男は伸びをして辺りを見回し、そしてアーシャと目が合った。
「って、何? お前のその顔?」
眉根を寄せて男は言う。
「ふふ、そんなこと、言われたの初めてだわ」
「綺麗な顔なのに、もったいない」
ふわりと男がアーシャの顔に触れた、その瞬間、
「「「!?」」」
「やっぱり、こっちの方がいいじゃん」
三人の驚きをよそに、男は満足そうに笑んだ。
驚くのも無理もない。アーシャの発疹が、一瞬にして消えてなくなったのだから。
「アーシャお嬢様、発疹が治ってます」
全く息苦しくなくなったアーシャは、目をぱちくりとさせる。今までどんな薬を飲んだって、こんなに早く治ることはなかった。
「今、何をなさったの?」
「何って、治癒の魔法をかけただけだ。あれじゃあ、その綺麗な顔が台無しだろ?」
男はもう一度アーシャの頬に触れ、優しくアーシャの涙を拭う。アーシャは泣いていた。
どうしてかは自分でも分からない。だけど、発作が苦しかったからではないことだけは分かっていた。
「ありがとうございます」
「ああ」
満足そうな顔で笑うその瞳には、頬を赤く染めるアーシャが映っていた。
「魔法使い?」
アーシャは気付いたらそう呟いていた。
「そうも呼ばれたことはあるな」
「神様……」
「ふっ、追放された、が抜けてるぞ」
自嘲気味に笑った男は、追放された神様、と名乗った。
「追放されたって、一体何をされたのですか?」
近くで聞いていたミサナが、思わず疑問を口にする。
「別に。だけど、俺のことが見えるなら、お前ら協力しろ」
「協力?」
偉そうな男の態度に、少しだけ怪訝な表情を浮かべたダレルが問う。
だけど、そんなことにも目もくれず、やっぱり男は偉そうに言い放った。
「ああ、お前たちの願いをそれぞれひとつだけ叶えてやる」




