優しい願いは呪いとなって -04-
男の突然の申し出に、三人は顔を見合わせた。
「いや、そんな上手い話があるわけないだろう」
「本気だよ? 俺は願いを叶えないと、このまま永遠に彷徨い続けなきゃいけないんだから」
「彷徨うって、どういうことですか?」
「それ以上はまだ言えない。どうする? 協力するか?」
「ええ、もちろん」
挑発するように微笑む男の瞳を真っ直ぐに見つめ、アーシャが即答した
「アーシャお嬢様!!」
「あら? お願い事を聞いてもらえるのよ? 私たちにはメリットしかないじゃない?」
「そう、ですけど……」
騙されているのではないか、と不安に思うミサナは、ダレルをちらりと見る。
「俺も協力するよ」
「じゃあ、私も協力します」
きっと大丈夫だ、と頷いたダレルを見てミサナも慌てて了承した。
「それなら、さっそく願いを言え。ただ、全ての願いを叶えられるわけじゃない。人を傷つけるような願いは、それ相応の対価が必要だ。人を生き返らせることはできない。但し、過去に戻ることはできる。ただ、過去に戻っても、記憶も戻されるから、結局は同じことを繰り返すだけだ。だから、俺はそんな願いは叶えない」
「なんだ、全ての願いを叶えてくれるわけじゃないのか」
「ああ、俺が叶えたいと思わないと叶えない。俺にだって、選ぶ権利はある」
「もしも、あなたのその力が欲しいって言ったら?」
アーシャが、ふと疑問に思ったことを口にする。
「こんな力いらないだろ? 誰かの願いを叶えるだけの力だ。まあ、良くて治癒の魔法が使えるくらいか? でも一応は可能だ。だけど、どうなるかは分からない」
「死ぬってこと?」
「さあな。大きな力を得るには、それなりの代償は必要だろう? だから、俺はきっと叶えないよ」
本当は分かっている。誰にも気付いてもらうことさえできずに、ずっと孤独に彷徨い続けることになる、ということを。
大きな力を手にした者が、不必要にこの世に干渉させないために。
だから、そんな願いは叶えたくない。
「それで、願いはどうする?」
早く言え、と急かす男に、ふふっと笑いながら、アーシャは答えた。
「残念だけど、“今は”願い事なんてないわ」
「はあ?」
アーシャの答えに、男は意味が分からない、と音を上げた。
「だって、私は他人の力を借りないで、できることは自分の力で成し遂げたいもの」
「いや、自分でできないことも、何か一つくらいあるだろ?」
そんなことを言われると思わなかった男は、さすがに焦る。その様子に、思わずダレルが吹き出して笑い出した。
「ふっ、ははは、さすがアーシャ、男前だな。そうなると、俺も易々と願いなんて口にできなくなってしまったなあ」
「は!? お前まで」
「私もです!!」
「何なんだよ、お前ら。……ま、いいや。当分このお嬢さんところで世話になるから。よろしくな、アーシャ」
男の言葉に、ダレルが呆れたように告げる。
「だめに決まってるだろ? アーシャはまだ嫁入り前の女性だ。変な噂でも立ったらどうするんだ?」
「噂なんて立つわけないだろ? 俺の姿はお前らにしか見えないんだから」
「それが本当かさえ、まだ分からない」
「なら、向こうにいるあんたの護衛にでも聞いてみろよ」
男に促され、ダレルは少し離れたところで警戒していた護衛を呼んだ。
「お呼びでしょうか」
「確認だ。今この場に何人いる?」
「……殿下を合わせて三人です」
どうしてそんなことを聞くのだろうか、と戸惑いつつも、ダレルに呼ばれた護衛は見たままを答えた。
「間違い無いか? 本当に他に誰もいないか?」
「はい! 殿下がお休みになられている間も、誰も近寄らせたりはしていません」
「ああ、ありがとう。戻っていい。間もなく帰る」
「はっ」
一旦、護衛を元の位置に下がらせたダレルは、驚きを隠せない。ほら見ろ、と勝ち誇ったように男は告げる。
「じゃあ、決まり。アーシャもいいだろ?」
「ええ、問題ないわ。でも、一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「どうして、私のところなの? 殿下のところでもいいでしょ?」
男の反応を窺うように、じっと見つめるアーシャの髪を、男は優しく掬い取る。そして、指に絡めたその髪を、ゆっくりと口元に寄せて男は答えた。
「だめだね。言っただろう? 久しぶりに寝れたって。たぶん、アーシャじゃないとだめなんだ」
真っ直ぐに見つめられたアーシャは、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「アーシャのあんな可愛い顔、俺、初めてみた」
「アーシャお嬢様は、いつでも可愛いんです!」
二人のやりとりを見ていたダレルが、目を丸くして驚くと、空かさずミサナが誇らしげに自慢した。
「アーシャも俺じゃないとだめなんだろ? でもまあ、きっと無理な話だけど」
自分とアーシャでは住む世界が違いすぎるから。
男の言葉にアーシャはふわりと微笑んだ。
「あなたの名前を、聞いてもいい?」
「ルツィフェ」
「……ルツィフェ」
ふふっと嬉しそうに自分の名を呼ぶアーシャに、ルツィフェは満足そうにアーシャの頭を撫でた。




