表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/59

優しい願いは呪いとなって -05-

「それで、アーシャはどうして、自分に暴力を振るう父親から逃げないんだ?」


 ダレルと別れ、アーシャとミサナはアーシャの部屋に戻った。ルツィフェも一緒に。


 ルツィフェの言葉に、言葉を詰まらせてしまったアーシャは、少しだけ逡巡し口を開いた。


「……神様だから、分かるの?」

「まあね」


 きっと全てを知っているのね、とアーシャは観念する。


「そう簡単に、家を出ることなんてできないのよ。それに、暴力と言っても躾の一環だから」

「だけどっ、」


 ミサナが口を挟もうとするも、アーシャがそれを制止する。


 躾と言えば、なんでも許されるなんておかしいです、とミサナはいつも泣きながら、アーシャの手当てをしてくれていた。


 その暴力も、最近はまだ少なくなった方だった。それまでは、癇癪を起こしてはアーシャに暴力を振るうことが当たり前だったから。

 幼い頃に母が亡くなってから、それはずっと続いていた。


 ミサナに会うまでは、一人でアカシアの木の下で泣いていた。ミサナと出会ってから、ミサナだけが「仕方がない」で済まさずに、あのアカシアの木の下で一緒に泣いて寄り添ってくれた。


「俺なら叶えてやれるぞ。男性アレルギーも治せるし、その痣も綺麗に消せる。なんなら一緒に逃げることだってできるぞ?」

「魅力的な誘いね。だけど、それはできないわ」

「どうして?」

「私は、ミサナと殿下の恋を見届けなきゃ」


 突然自分の名前が出てきたことに、ミサナは驚いた。


「そこで私ですか!?」

「ふふ、もちろんでしょ。私はあなたたちを見ていると、もしかしたら恋もいいものかもしれないって、思えてきたんだから」

「じゃあ、魔法でミサナたちの恋を叶えてやるか?」

「魔法で叶っても嬉しくありません!!」


 ルツィフェの提案に、ミサナは全身全霊で拒否した。


「だって、ふふ」

「本当に、お前らおかしいな。まあ、俺も恋ってやつを知りたいから、ちょうどいいや」

「あら? あなたも恋を知らないの?」

「さあな」


 ルツィフェはごろんとアーシャのベッドに寝転がった。


「ああっ! アーシャお嬢様のベッドに寝るなんて、だめですよ!!」

「なんだよ。別にいいだろ? 俺はアーシャと一緒に寝るんだから」


 ルツィフェはすでにベッドの上で目を閉じていた。


「あんなこと言ってますよ! アーシャお嬢様も怒ってください!!」

「……別にいいわよ」

「えっ!?」


 アーシャは顔を背けながら、ミサナに言った。その顔は耳まで赤い。

 

「だって。ミサナもさっさとダレルに一緒に寝てくれって頼めば? なんなら魔法で叶えてやろうか?」

「じ、自分で言います!」


 真っ赤な顔をしてミサナが叫ぶ。


「まあ、ミサナったら大胆ね」


 アーシャの言葉に、今さっき自分が言ってしまった言葉を思い出したミサナは、一気に焦りを見せた。


「じゃなくて!! 遠慮します!!」

「ふふ、照れちゃって」

「もう、アーシャお嬢様ったら!!」


 本当にルツィフェはアーシャの部屋に居座った。最後までミサナが部屋を出て行くように、と嗜めたが、聞く耳を持ってくれなかった。


「本当に一緒に寝るの?」


 すでにベッドの上に横たわっているルツィフェの隣に座ったアーシャは、答えの分かりきっている質問をした。


「ああ、そのつもりだ。アーシャだって、睡眠薬なんて飲まなくても眠れるはずだぞ? なんなら子守唄だって歌ってやる」

「本当になんでもお見通しね。でもどうして私なの?」

「分からない。だけど、お前といると落ち着く」


 本当は気付いている。だけど、分からないふりをした。


 アーシャはベッドに寝転んだ。瞳を閉じて温もりに触れた瞬間、深い眠りについた。




 ****** 




 ルツィフェの姿は本当に、アーシャとミサナとダレルにしか見えないらしい。


 どこに行くにもルツィフェはアーシャに付いてくる。もちろんお風呂と着替えとトイレの時は、どこかに行ってもらってはいるけれど。


「本当に見えないのね」


 しみじみとアーシャは言う。初めのうちは隣に、しかも、とても近い距離に男性がいることに一種の背徳感があった。が、今はもう慣れた。

 隣にいるのが当たり前になっていた。


「俺が嘘を言ってるとでも思ったのかよ?」


 アーシャはルツィフェをじーっと見つめた。


 アーシャの目の前には確実に存在している。だけど、三人以外には見えていないという現実がアーシャの心に重くのしかかる。


「本当に、神様、なのね……」


 その言葉は、少しだけ悲哀を滲ませていた。


「追放された、な」


 “追放”とわざと強調するルツィフェの言葉に、アーシャは期待してしまう。目の前からいなくならないかもしれない、と。


「それなら、追放してくれた方に感謝しなくちゃ」

「何だよ、それ?」

「ふふ」


 嬉しそうに笑うアーシャの髪を、ルツィフェはその指で梳く。


「綺麗な髪だ」

「髪だけ?」

「さあな」


 優しく触れられる度に、アーシャの中の全てが癒されていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ