死の残り香
1つの封印石を取り出す。
「リッチ」
死者の王。死を越えた者。死を支配する者。
だが、聖魔法や邪を祓う者の称号がある。
対峙できるはずだ。
封印石を砕いて封印を解く。
濃密な死の匂い。死の気配。
動けない。あぁ、死ぬ。自分はここまでだ。
「呼んだのは汝か。」
首筋に刃物を突き付けられた感触。
後ろにいるのか。
「振り向くな。我の顔を見れば死んでしまうぞ。我の側にいるだけで死なぬは称賛に値する。」
振り向くなと言われても、振り向く力も気力もない。
「ほう。汝を主人とする術式か。複雑ではあるが解けなくはなかろう。」
その術式を解かれるとリッチは自由になる。
「まぁ、良かろう。我が誰かに使えるなど生きていた時以来か。それも面白かろう。」
まだ生きている。まだ生きている。
「さて、何があった?」
説明をするが、身体も呼吸もままならない。
「ふむ。王と呼ぶか。王よ、我が名はメラウノス。
王よ、何を悩む。我がいれば敵が10万であろうと20万であろうと関係はない。
さて、王よ、何を隠している?」
・・・・。
「ほぅ。他にも封印石を持つか。王よ、汝は何者ぞ?この問い、心して答えよ。」
どう答える?どう話す?何を話す?
「まぁ、良いか。それを考察するのも楽しかろう。
我が力を貸しても良いが、全てが死に染まるのはつまらぬ。だが、呼ばれた以上は手土産も必要か。」
背後で信じられないような魔力を感じる。
そして何かを呟く。
急に世界が拡がる感覚がした。
「解るか。それが魔法使いの世界。」
そして目線が切り替わる。かなりの上空から戦場や大地を見渡している。
「それが使い魔を通して見る世界。」
そしてブツブツとオルファンの口が言葉を紡ぎ出す。右手と左手もフワフワとおかしな動きをしている。
「王よ、これが古の魔法だ。神の奇跡を畏れと敬いと妬みで盗み、各種族の知恵で再現したもの。それを神術と言った。それを使いやすいようにしたのが魔術。それから時が流れ、使う魔力を抑え、威力を抑え、さらに使いやすいようにしたのが魔法よ。
その後も誰もが使えるように、という流れは止まらなかった。ふむ。王の魔力だけでは足りぬか。魔力を貸してやろう。」
何か黒い力が体の中に入り込む。血管を押し広げられるような感触に嘔吐感が込み上げる。
天は荒れ、黒雲が立ち込める。風が吹き荒れ、まるで嵐である。
「雷。あえて『いかずち』と呼んでおる。」
何本もの雷が落ちる。あそこは湿原だ。
無事な者はいないだろう。
「これは『かみなり』ではない。神鳴。神也。それには遠く及ばぬ。」
遠雷が響いている。遠く離れた軍勢にも落ちているのだろう。
「王よ、我はかつての宮殿に戻ろう。後は気が向けば連絡しよう。」
死の匂いが急速に晴れていく。
へたりこむ。
命が助かった。それでも後ろを見る気にはならない。今の魔法の感覚を忘れたくない。
魔力が尽きたせいか。眠気に襲われる。
オルファンはそのまま剣を支えに眠りについた。
コスタ連邦軍の本隊は落雷の損害を確認していた。
落雷に巻き込まれた者、落雷による炎に焼かれた者など、損害は少なくない。突如の落雷であり、近くの高木ではなくコスタ連邦軍に落ちた事で何者かの仕業を疑う声も出ている。
それを一笑に付していたが、「先行した軍が落雷で全滅した模様」の報告で事態が一変する。
各選王候が派遣した軍が撤退を主張し、実際に軍を引き上げたのだ。
そのため、遠征軍は4万にまで数を減らしている。
アラモ候子としては落雷で撤退しました、等言える訳がない。それにまだ4万もいるのだ。ヤマト王国を踏み潰すには多すぎる。
コスタ連邦軍は死者の埋葬と負傷者の治療を終えたら進軍を続ける事を決定した。




