アルフィーネの日記
起きた。いつの間に寝ていたんだろう。とりあえず、婚約破棄書類の作成はまだいいだろう。まずは王子殿下の謝罪回りが先である。それまで意外とすることがないので、久しぶりに日記を書くことにした。日記は王子フォートの浮気を知ったページで止まっていた。あの時の衝撃は忘れていない。日記を読む。声に出すのは恥ずかしいから黙読で。
「殿下が浮気しとった。嘘やろ。しかも相手男爵令嬢やん。なんで男爵令嬢なん?うちの方があんたに尽くしたし、相談に乗るのもウチなのに。なんで?しかも公衆の面前でなんでキスしよん?ウチには手を繋ぐぐらいしかしてくれんかったのに。しかも、5歳の時に危ないからって手を繋いでくれた時のアノ1回やで。なんなん?しかもフローリア伯爵令嬢から聞いたけど一線超えてるらしい。しかも、なんか、ヤバいこと言よった。なんなん?一線超える前に全裸で、トカゲを彼女が脱いだドレスに隠して遊ぶって。男爵令嬢とフォートは何考えとん?怖い。いやや。愛されとんは、うちだけやと思いよったのに。うちだけの特別やと思いよったのに。フォート、あんたにとってウチってなんなん?『相談窓口なら、あちらやで』って放り出したい」
日記を読んで思った。うち、アイツのこと好きやったんやなぁ。あんなにひどいことしてきたのに、まだ5歳のころの温もりが忘れられない。もう13年も前なのに。あんた、なんやねん。裏切るだけ裏切って、失敗してヤバくなったらウチに相談して、婚約者としてはお払い箱。遊山箱でも抱えて、国外にでも出たらええんか?ウチがおらんかったら、自分でちゃぁんと全部できるようになるんか?
うちは不安で仕方ない。この国の権力が、この国の未来が、この国の国民が。みんなぁ笑って暮らせるんやったら、それでええ。ほなけど、あの王子が王様になると思うと、出て行きたくなる。
おとん、あんたやったら、この国変えれるんか?王子は殺さなあかんのか?うち一人でかばえる範囲超えとんじょ。あのアホンダラは、なぁんもわかってないんか?「わかってとらんならウチに言い」と昔なら言よった。
でもこれは許したらいかん。なんで身分とか階級があると思うとん?為政者が為政者らしく、国家を背負えるように公爵侯爵伯爵子爵男爵があるんじょ?公爵は王の親戚として、国家を背負って外交できるように教育される。だから、ウチは王妃のおばちゃんと王様しよるおっちゃんにめっちゃ厳しく教えられた。
ウチのおとんも優しいけど、政治とか経済の時は鬼よりも怖かった。長兄も次兄も三男の兄ちゃんもみんな優秀やった。ほなけど、うちの方が賢かった。トカゲ拾ってウチのドレスの中に入れて、笑いよったこと、まだ許してないじょ。
でも、兄貴どもは今では立派な為政者になっている。うちも名代として出ることがあるけんわかる。公爵はお金持ちだ。その代わり、教育資金は莫大にかかるし、それなりにいいものを食べなければならない。
だが、私はいつも商店街に出かけたり、八百屋のおばちゃんに愚痴聞いてもらったりしよる。フォート、あんたのこと、これからはファートって呼んでやる。お前はおならじゃ。そしてさよおならじゃ。
いつか去世ならせないかん。
そういえば、オトンが来るまで、おかんもずっと話聞いてくれた。おかんは私の話を聞くたびに何度も「ほうよなぁ。フィーネちゃんいつもがんばっとうけんなぁ。王子殿下は幸せだったはずじょ」とうなずいてくれた。溜飲は下がった気もするけど、今日も日記書いといてやろう。あのアホ!!のことについて。
「フォートのクソボケが婚約破棄したいらしい。うちは、わかっちょったけど、やっぱり悔しいし、遠くに行ったようで寂しいし、王子のほうが先のステップに行っていることが腹立ってしゃあない。あんたがしたことの代償はアンタが払いや。もう相談なんか乗ってやらん。でも、きっと相談に乗ってしまう。だって、まだ、あのクソボケ野郎のお単小茄子のなす野郎のこと.......好きやもん」
書いて思った。言い過ぎや。あと、ウチ.......悔しいんやな。ほな、どうしたらええんやろう。あんな肝っ玉の小さい短小肝っ玉野郎のこと、忘れてやる。うちはウチの幸せを掴まないかん。
こんど、八百屋に行ってこよか。短小肝っ玉野郎が浮気しとったって。いや、王妃のおばちゃんにしよう。おとんに頼んでお茶会開いてもらおう。しばらく、男の子との縁はご縁慮したい。縁だけに。
アイツのことは、縁に追いやろう。さようなら、大好きだった人。
アンタが先に裏切ったんやけんな。覚悟しときや。




