day6 -杯兄弟の想い-
「で、お兄どうする?あの様子だと帝都がいないからって舐めプされそうだよ〜。初期位置が本殿の前なのは守れていいけど〜」
「……いや、麻耶なら鈴を奪って自分の本殿に結わえ付ける何て事はしないだろう。
二つ目のルールを適用して、俺たちの心とライフを確実に折りに来ると思うが、そうなると二対三になるからこちらが不利だ」
「でも、負けられない。そうでしょ?」
「……あぁ。取り敢えず姫憂は本殿の隅に隠れて構えていろ。お前の武器は銃、麻耶の武器は刀……童子切安綱だ。近接戦には向いていない」
「いや……俺の銃、刀にも変形するけど……」
ヴォン。
電子音と赤白い光と共に姫憂の手元に現れたのは、重厚なガトリングではなく、フリルがあしらわれた、まるでステッキのような優雅なデザインの「銃」だった。
刀身からほとばしる光の熱量に身体が持って行かれそうになる。
弾丸はネオンの光そのもので、着弾すると花火のように炸裂する。
しかし、銃身が真っ二つに分かれ、ピンクと黒のライトセーバー状の刀身を持つ「二刀流」に変形。
「俺のフリスビー式刀の方が近接戦には向いている。が、麻耶たちの事だ。きっと何か考えているはず……」
対して鳩羽の武器は、持ち手を合体させると巨大な楕円形の刃になり、防御と攻撃を同時にこなす優れもの。
鳩羽の呟きに姫憂の一本角は一度青白く光、次に鮮血の赤へと色を変えた。
麻耶に宣言したからには、自分ももう裏方には回ってられないと言う意志が角の色を変化させたのだ。
姫憂に必要なのは、その一歩を踏み出す覚悟だけ。
水面に映る自分の姿を見て深呼吸をし、姫憂は顔を上げたのだった。
「……!来る」
「え、?」
鳩羽の硬い声に、姫憂が眉をひそめて振り返る。
その瞬間、静まり返っていた水面が、まるで爆薬を仕込まれたかのように激しく砕けた。
「姫憂、後ろだ……!」
「酒嫁、鳩羽の事よろしく〜」
軽やかな音と共に、背後から音もなく姿を現した麻耶。
彼女の持つ『攻の太刀』が、霓虹の冷たい空気を切り裂き、冥羽の頬を熱い風がかすめていく。
「えぇぇぇえ!?私ぃ〜!?」
「鈴庵はエンノバの本殿向かって」
「はいよ」
狼狽える酒嫁をよそに、麻耶は迷いなき足取りで羽築と距離を詰めていく。
その動きには無駄がなく、まるで最初から戦場の全てを支配しているかのような―――神威爽のリーダーとしての風格が漂っていた。
「……!麻耶ちゃん……」
「おー、凄いね冥羽さん。反射神経良す、ぎ!」
「っ……!ガハッ……!はぁ……っ、はぁ……っ、何で二刀……!?」
麻耶の太刀筋は、まるで美しい舞踏のようだった。
戦場に響く金属音は、切迫したリズムを刻みながら冥羽の心臓を締め上げる。
息を吸うことすら忘れるほどの殺気。
姫憂が必死に銃口を向けて引き金を引こうとするたびに、麻耶の影が視界から消え、冷たい切っ先がすぐ目の前で止まる。
(速い……! 視界も思考もついていけない……!)
焦燥で角が激しく明滅する。
二刀流という優位性すら、麻耶の「守の太刀」によるカウンターの前では、防戦一方の飾りに過ぎなかった。
追い詰められた姫憂の脳裏に、帝都の傲慢な笑みがよぎる。
負けたくない、この程度の壁で、自分たちの場所を奪われたくない。
その強烈な執着が、冥羽の指先にさらなる力を込めた。
『おっと!ここで攻めに転じていた酒嫁が鳩羽の刀の動きが読めず撃破されてしまったぁぁぁぁ!優勢だと思われていた神威爽側、残り二人!』
爆発するネオンの粉塵が晴れると同時に、戦場には鈴庵の悔しげな叫び声が木霊した。
だが、麻耶の表情には焦りどころか、かえって愉悦にも似た笑みが浮かんでいる。
姫憂はその笑みに背筋が凍った。
「知ってる?厳密にはこの童子切安綱は二刀あるの。一刀は攻の太刀。その名の通り、攻めに使われる太刀よ。そしてもう一本は……」
「……!はぁっ……!」
「ふっ!守の太刀!守りだけじゃなく、カウンターとしても最高峰を誇る太刀!」
その言葉と同時に、麻耶が背に隠していたもう一振りの切っ先が、霓虹の毒々しいネオンを反射して煌めいた。
それは攻の太刀とは対照的に、水面を這うような静寂を纏っている―――。




