day4 -失くした物-
〝蘭、何であんたはこんな事すら出来ないん……!?全部全部中途半端で、好きな物とか趣味とか……ないみたいやん……っ〟
〝母さん、だから俺仮想空間に……!〟
〝この仮想空間?ってヤツも、結局の所ゲームやろ?いつまでもそんな子供っぽい事してへんで、大学生らしい趣味見つけ〟
〝……っ、そんなん言われても……ほんまにないんやもん……っ〟
〝麻耶は一人で家出てったよ?行く当てもないやろに、今もどこかで頑張ってる。蘭も、少しは自立し〟
〝……出来ることなら、とっくにやってるわ……〟
制服を着た今の蘭の瞳にはネオンも何も映っていない。
ただただ、無機質で冷たいコンクリートの材質を感じているだけ。
親戚の視線にさらされながら、蘭は開いた口を結んだ。
皐月家は年に1回、こうして年末年始以外にも親戚と集まっているのだ。
蘭は決して親戚の集まりが嫌いな訳では無い。
ただ麻耶の代わりとして、皐月家の長男として見られるこの時間が、精神的に耐え難いのだ。
「……」
「?蘭、どうしたん?今はみんな休憩してるから、休んで来てええで?」
「……いや、だい―――せやな。じゃあちょっと外出てくる。何かあったら連絡頂戴や、母さん」
「ん、また後でな」
母の言葉は、蘭にとって霓虹のネオンよりも遥かに冷たく、重たい現実。
蘭が母の隣にいると、嫌でもその現実を直視しなければならない、でも諦めたくないという焦燥感に襲われる。
ガチャ、バタン!
なんて言う冷徹な音が蘭の耳に響く。
常に敵の足音を、そしてその足音から武器の重量や誰かを瞬時に見抜かなければならない。
そのプロとしてのプレッシャーが、蘭の中に眠っていたとある特技を伸ばしてくれた。
「……一応、パッドロウは持ってきたんやけどなぁ……。さすがに長時間おらんかったら怪しまれるよな。……俺も帝都として闘いたかったわ……」
プルルル、プルルル。
蘭が一人で壁に身体を預けていると、自身のポケットから明るく温かい音が聞こえてきた。
蘭は慌ててポケットから取り出して、恐る恐る着信画面を視界に入れる。
そこには聞き慣れた名前が表示されていた。
蘭は3コール目が鳴る前に画面を人差し指でタップした。
すると、そこからはいつも通りの仲間の明るい声が響いてきた。
『お。冥羽、蘭出たぞ〜』
『え、本当!?』
『ちょ、冥羽。乗り出すなよ……』
『あ。ごめん、ごめん〜♪そう言えば、麻耶ちゃんにあったよ〜。麻耶ちゃん以外の人たちはさ、帝都が棄権したって聞いて腰抜けとか言っててさ〜。
本人が聞いてないからってひどくない?』
ビデオ通話ではない。
声しか聞こえてないはずなのに、冥羽の猫耳の跳ね具合が手に取るように分かってしまう蘭は思わず浅い笑いを吐き出した。
自分の為に笑って、怒って、悲しんでくれる二人に思わず蘭は好きだなぁ、と言う言葉を飲み込んだ。
「まぁ、当日になって棄権したのは俺の方だし、何も言えないだろ。神威爽の人達が正しいって」
『蘭は謙虚過ぎ〜!帝都みたいにもっともっと傲慢でも良いのに!』
「帝都はそう言うキャラだから……。まぁ、蘭で我慢してる分帝都で発散できて良いけど」
現実の「皐月蘭」は、母親の冷たい眼差しにさらされ、正解を求められる「借り物の人生」を生きているからこそ、帝都でいる時だけが、彼は「自分という存在を、自分自身で定義できる」瞬間なのだ。
どれだけ霓虹で帝都という帝王になっていても、本当の自分は幼少期の頃から一歩も動けていない。
蘭にとっての帝都は、単なるゲームのアバターではなく、「本来こうありたかったはずの自分」の投影。
現実では親の視線や親戚の集まりに押しつぶされそうな彼が、電話越しに冥羽たちと話すときだけ、ほんの少し「帝王」の仮面を被って呼吸をする。
その「背伸び」さえも、彼が壊れないための必死の防衛反応だったのだ。




