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落雷の下剋上  作者: 風冥つむろ.
一章.【俺達の日常】

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day3 -帝王の棄権-

ある時、人生のどん底だった冥羽を霓虹に連れてきた人がいた。

明るくてわがままで自分勝手で、でも時折心配になるほどお人好しな人。

羽築と協力して、冥羽がICチップを見つけられるように画策するバカ。


ずっと可愛くも何ともない、偽りの自分と言う殻に閉じ籠もっていた冥羽を霓虹に連れ出す。

その人に動機なんて物は存在しない。

冥羽の存在自体が動機のような物なのだから―――……。














「さて、始まって参りました!エンズノヴァ VS 神威爽!実況はこの私、霓虹管理人の音乃瀬ねおんが務めさせて頂きます!

ではさっそく、二グループに登場してもらいましょう!」



実況するねおんの声は、いつも通り軽やかで、慈愛に満ちている。

だが、その声の端々に、まるですべてを掌握しているかのような冷たい愉悦が混ざっているように、姫憂には聞こえた。



「きゃぁぁぁぁ!」


「帝都様ぁ〜!」


「酒嫁〜!」


「歓声凄いね〜」



霓虹の冷たい水面。

そこに映る姫憂は、かつて蘭が連れ出してくれた時の彼と、どれほど変わっただろうか。

偽りの殻に閉じこもっていた少年に、命を吹き込んだのは彼だったのだから。



「フィールドはこの霓虹の第6区のみです!キャンスピュラシーのルールは簡単!

相手チームの本殿にある鈴を奪い、自分の本殿に結わえ付けるか、相手チーム全員のライフ、合計九ライフを奪えば勝ちです!」


「キャンスピュラシー……か」



帝都が唯一得意だったゲーム・キャンスピュラシーのルールが、ねおんのその場にそぐわない明るさに満ちた声で説明される。



「おっと!ここで一つお知らせです!皆様ももうお気づきかと思われますが、今回エンズノヴァのリーダー・慈雲帝都は諸事情により棄権となりました。

当日のお知らせになりましたことを、この場で深くお詫び申し上げます」


「え……?あの帝都様が棄権……!?」


「諸事情って、体調でも悪いのかな……」


「エンズノヴァのお二方から申告を受け、この様なご報告をさせて頂く事になりました。大変申し訳ありません」



ねおんの無機質な言葉に会場がざわつく。

昨日の夜、羽築のメールに来た通り、帝都はやはり来られなかったのだ。

今日の朝、羽築と冥羽の端末に蘭からメッセージが来ていた。


『ごめん。冥羽、羽築。急遽親戚の集まりに行くことになって。ねおんには帝都は棄権するって伝えてくれない?二人とも、この日の為に頑張ってたのにごめんな』


と優しく綴られており、冥羽と羽築も聞きたいことは山程あったが、蘭の心境を思うと、どうしてもその一歩が踏み出せなかったのだ。

蘭が元々仲間には嘘を吐けない奴だと二人は分かっているので、追及して蘭の信頼を失うよりは良いか、とため息を吐いて言葉を飲み込んだ。

その後すぐ二人は蘭の部屋に向かったが、いつものパーカーばかりの私服ではなく、大学の制服を着ていた。

本当に親戚の顔合わせに行くのだろう。




「……帝都不在、か。お母さんとお父さんと何かあったのかな。でも残念。帝都してる兄貴に会えると思ったのにな〜」


「透朱のお兄ちゃん当日になって棄権してんの?」


「世紀の帝都様がいないとか、やる気でないよぉ〜」


鈴庵(りおん)酒嫁(しゅか)、そんなに兄貴に会いたかったの?」


「いやいや、俺を何処かの帝都ガチ恋勢と一緒にされちゃ困るっつーの。ただ、当日になって棄権何てする帝都がダサいなって思っただけ〜」


「鈴庵、帝都様を!悪く言わないで!」


「おーおー、ガチ恋勢怖〜。酒嫁、もう帝都の所行きゃいいのに」


「麻耶ちゃん!」



酒嫁が帝都ガチ恋勢として、鈴庵の帝都に対する罵倒を止めていたその時、霓虹に大きな姫憂の声が激しく轟いた。

足元の水面が揺れ、水飛沫を立てる。

発光する角が人魂のように黄緑色に変色する。



「冥羽さん?」


「俺達、絶対に負けないから!エンズノヴァが帝都のワンマンチームじゃないって事も、帝都が逃げたんじゃないって事も、今日ここで三人に証明してあげる!」


「麻耶の事だから俺達が“帝都いなくても絶対に勝つ、とか思ってる”って思ってそうだけど、そんなつもりは最初からないぞ」




フリルの袖を捲り上げて、桃色の瞳で透朱を睨みつける。

しかし、もう片方のフリルの袖は垂れたままで、そこから伸びている小さな手が鳩羽の服の裾をきゅっ、と掴んでいた。

サイバー着物のリボンがピョコっと動き、おまけに角の後ろに生えているチェシャ猫の耳もピクピクと主張していた。


そんなどこか格好つかない弟を擁護するように、鳩羽も神威爽に向かって言葉を紡ぐ。

姫憂の強気な言葉とは裏腹に、猫耳は恐怖でぺたんと伏せられ、桃色のリボンだけが不安げに波打っていた。




「……!」


「っち。何だあいつら……。……まさかこいつら、棄権した帝都が本気で戻ってくるって信じてんのか……?」


「……良いね。冥羽さん、羽築!私も楽しくなってきた!」


「それでは両チームとも位置について〜……バトルスタート!」




ねおんの合図をきっかけに、闘いの火蓋は切られた。

もう誰も、この闘いから逃れる事は出来ない―――。

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