day2 -Re:皐月杯{都杯}-
電子機器や、社が並ぶ仮想空間『霓虹』の中央ステージ。
まばゆいネオンの光と歓声の渦巻く中、ひときわ鮮やかなストリート和服を纏った伊織都が、軽やかなステップを踏みながら歌い終わりの挨拶を告げた。
その歌声の余韻が、まるで夜空に溶ける星屑のように消えていく。
その様子を、ENDS NOVAの社の屋根の上の特等席で、帝都、鳩羽、そして姫憂の三人は静かに見上げていた。
『Take time to relax and recover from your journey!さぁ、今日も僕と一緒に旅の疲れを癒していってね!』
アイドル顔負けの鮮やかなウィンクと共に投げかけられた管理人・都の甘い言葉に、バーチャル空間のあちこちから黄色い歓声が沸き起こる。
その圧倒的なアイドル性に気圧されながらも、冥羽はどこか気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「あれは……」
「あぁ、定期的に開催されてる都のライブだな。俺達が初めて霓虹に来た時は、神威爽とのコラボライブをしてたはずだぞ」
「へぇ……」
「意外と人気コンテンツらしいな」
ステージの上で華麗にステップを踏み続ける都の姿を見下ろしながら、ENDS NOVAの面々はそれぞれの感想を零す。
やがて、会場の熱気が最高潮に達したその瞬間、都はふっと柔らかい笑みを浮かべて新たな楽曲のタイトルを告げた。
『じゃあまずは、最近僕がリリースした楽曲を歌うね!「Re:union」』
『―――……。伊織都で「Re:union」でした〜!霓虹で聞いてくれたみんなも、配信で聞いてくれたみんなも、ありがと〜〜っ!これには僕も輪廻の果てまで大歓喜、だよ〜!』
「アンコール!」
「アンコール!」
その伸びやかな歌声が消え去った瞬間、静寂を突き破るように、会場のあちこちから熱狂的な歓声が爆ぜた。
あまりの盛り上がりに、ENDS NOVAの社の上で見物していた冥羽たちも思わず圧倒される。
観客席の波が一段と激しくなる中、興奮冷めやらぬリスナーたちが一斉に声を張り上げた。
『およよ、みんなも元気いっぱいだね〜!でも今日は少し急ぎ足〜、忍び足〜で行くよ!ここでお知らせです!』
そのマイペースでどこか芝居がかった管理人・都の声に、それまで熱狂していた会場の空気がわずかに切り替わる。
広場のあちこちから「おや?」「なんだろ」とざわめきが広がり、観客たちの視線がステージ上のホログラムへと一斉に集まった。
「お知らせ?」
『この仮想空間・霓虹内で僕が主催する皐月杯ならぬ都杯を開催するよ!開催されている今日からの1ヶ月の間に、最も多くファンを獲得した者が優勝!
参加資格は自身がライバーである事だけだよ!優勝特典も色々考えてるからお楽しみに!』
突如として切り替わった管理人・都の軽妙なアナウンスに、広場を埋め尽くしていた観客たちがどよめき、一斉にざわめき始める。
都の手のひらからホログラムの空中に浮かび上がった巨大な告知ボードには、煌びやかな文字で「都杯」の文字が踊っていた。
「都杯か……」
「何、姫憂興味あんの?」
「え、いや、まぁ……」
呟きながら、冥羽はホログラムに映し出された巨大な告知ボードをじっと見つめた。
そんな姫憂を横目に、帝都は面白そうに片眉を上げて問いかけた。
「なら、いっちょ挑戦してみるか?」
「……でも、俺たちみたいな平凡な人間には無理でしょ。こう言うのは―――」
どこかで諦めたような、自分を卑下するような言葉が零れ落ちる。
その絶妙なタイミングで、華やかな広場の空気を切り裂くように、聞き覚えのある勝ち気な声が響き渡った。
「やっほ〜、みんな!都のライブの邪魔しちゃってごめんね〜……。神威爽の酒嫁だよ!今日も私に酔いしれてる〜?」
「……面倒事は嫌いです」
「都!その特典、私達が頂きに参上したよ!」
突如として広場に響き渡った威勢の良い宣言に、観客たちのどよめきが一層大きくなる。
その視線の先――ネオンに彩られたステージの端、ひときわ華やかな和装を纏った少女のアバターが、軽快な足取りで飛び込んできた。
周囲の熱気を一瞬で自分のペースに巻き込んでしまうような、底抜けに明るい彼女の登場に、リスナーたちのコメント欄が一気に加速していく。
『神威爽……』
「ほら。あぁ言う主人公チームが勝つって決まってるんだよ」
「そんな事ねぇと思うけど……」
観客席のあちこちから「本物の神威爽だ!」「え、宣戦布告!?」とどよめきが沸き起こり、コメント欄の流速が爆発的に跳ね上がる。
突然の乱入劇に、ENDS NOVAの社の上で見ていた冥羽たちは我が目を疑うようにぽかんと口を開けた。
すまし顔の鈴庵と、慌ててフォローを入れる酒嫁、そして不敵に笑うリーダーの透朱――。
『……抗ったって運命は変わらないもんね』
「?」
『オロロ、ごめんね、透朱ちゃん!僕はみんなの行く末を見守ることしかできんないんだよ〜!でも、頑張って』
都は誤魔化すようにわらってから、ホログラフィック証明を自分から神威爽へと移動させた。
もう、このライブの主役は都ではなく、神威爽なのだと誰にでも分かるように。
「ふふん。次は……そこにいるんでしょ、ENDS NOVA!」
透朱のその言葉に、ネオンの光が一瞬にして彼女の足元の湖に集約され、視線がそのままビルの屋上にそびえ立つENDS NOVAの社へとピンポイントで貫かれた。
酒嫁が「ちょ、透朱ちゃん……。そんな隠した狩りみたいなこと……!」と慌てて手を振って制止しようとするものの、当の透朱は不敵な笑みを崩さない。
圧倒的な聴衆の視線と、何十万人ものリスナーが凝視する配信カメラのレンズが、一斉に冥羽たちのいる特等席へと向けられた―――。




