VSジェイド
ローガの横やりによって首を180度回転させ倒れたジェイド。
普通なら死んでいる所であるが口から槍を吐き出すようなヤツがこのまま普通に死ぬハズもなくムクリと立ち上がる。
「全く酷いじゃぁないですかぁ。お陰で首が180度回ってしまいましたよぉ。」
「その割には全然平気そうじゃないか。」
「まあ、私は蛇の獣人なんで体の関節の柔らかさには定評があります。」
そう言いながら180度回った首を掴み回す。何事も無かったように元に位置に戻る首。
「さて、それでは仕切り直してローガさんから殺させて頂きましょうかぁ。」
「上等だ。最近は地味な調査ばかりやってて飯を狩る時以外は戦ってなかったからな。叩き潰してやるよ。」
両者は改めて共に臨界体勢で退治する。
ローガが先手を取るべく体をユラユラと揺らし『ゆらぎ』を繰り出す。
対するジェイドはローガの動きに警戒しながらも口から次々と武器やら道具やらを取り出し始める。
「ローガさん、あなたはぁどうやら戦い方が素直すぎる方のようですねぇ。もしかして、今までこんな事する様なぁ相手とは戦った事がないんじゃないですかぁ?」
そう言いながらジェイドは取り出した道具を投げつけてくる。
ローガはそれを反射的に手で叩き落す。しかし、それが失敗だった。
手が触れた瞬間投げつけられた何かが強い光を発し視覚を奪う。
次に今度はローガの周囲に何かがばら撒かれる音が聞こえローガの耳にジェイドの声が響く。
「今のは発光石と呼ばれるもので衝撃を与えると強い光を放つ希少鉱石です。」
声が響いた方に向かって反射的に拳を繰り出す。しかし手応えはなく空を切る。
「次にばら撒いたのは拡声石と呼ばれ声などの音を反響させる希少鉱石です。」
声がした方と反対側から矢が放たれローガを襲う。
「おやぁ、獣毛と筋肉にお守られて矢が深く刺さりませんかぁ。頑丈なかたですねぇろーがさんは。」
完全に決まった奇襲攻撃であったが戦闘開始時から纏っていた『闘衣』と獣毛、筋肉の鎧で致命傷には至らなかった。
「でもぉ、さっきの矢には毒をたっぷりと塗ってありますから時間の問題ですねぇ。」
ローガは手探りで矢を引き抜きながら傷の具合を確かめる。
確かに傷自体はそんなに深くないが傷口から痛みとは別のピリピリした感んじがしていた。
「確実に仕留めさせてもらおうと思いますのでぇ、次はこれです。」
ジェイドが新たに何かを取り出したようだ。
それが何なのかをローガは残された嗅覚で察知し警戒を強める。
「流石に鼻はいいみたいですねぇ。察しの通りよく燃える油です。」
次に何かが空を切る音を聞きローガは勘だけを頼りにその場を離れる。
間一髪で油を被る事は避けれたようで一瞬後に何かが割れる音が響いた。
「今のを音がしたタイミングと勘だけを頼りに避けますか。その油は高かったんですけどねぇ。」
「毛並みがいいのは密かな自慢なんでな。油なんて被ったら落とすのが大変そうだ。」
ローガはジェイドの皮肉に軽口を返す。もちろん何の意味もなく声を発したわけではなく、自ら声を発して拡声石の音の反響の仕方を見極めようとしのだ。
「この状況で軽口を返せるとはたいしたものですねぇ。そんなローガさんには奮発して油をたっぷりと使ってあげましょう。」
ジェイドは新たに油を取り出すと矢継ぎ早に投げつけてくる。
ローガはそれに合わせて大ジャンプし上へと逃れる。
「そう来ると思っていましたよぉ。でもそれは悪手ですねぇ。」
ローガは跳んだ事で空中でほとんど身動きが出来ない。何か仕掛けてくるかと身構え急所を守る姿勢をとるが何かしらの攻撃をしてくる様子はない。
ローガは着地した時ジェイドが何をしたのかを悟った。着地した足元がべとべとしていたのだ。
「それは粘着性が非常に強い薬品です。大サービスでたっぷりと着地地点に撒いておきましたよぉ。」
ローガは何とか足を動かそうとするが粘つく薬品が絡まりまったく動けない。
「では止めです。油はお嫌のようですからぁ粉にしておきましょう。」
動けないローガに向かって粉のようなものが振りかけられる。
「火薬の粉です。では、さようなら。」
その言葉の後に火矢が撃ち込まれローガは紅蓮の爆発に呑まれた。
爆発に呑まれる瞬間にローガは例のブワァっとなってビュビュッとなる感じが体中を駆け巡るのを感じた。
ロイドは走りながら分身を作り出し宿屋への道を急いでいた。
(魔物も泊まれる様な宿屋か。そういう宿屋なら王都位の規模の町になると4~5件はあるはずだ。『蛇神四肢』の連中も1件しか買収してないとかお粗末な事は無いだろうから王都にあるそういう宿屋全部に回ったほうがいいな。もし、今王都内にいる魔物達が全てあの時の大蛇クラスになると最悪王都が陥落しかねない。本来帝国の人間である俺でも流石にそれを黙って見過ごす訳にはいかないな。しかし、俺も全部の王都の宿屋の位置を把握しているわけじゃない。おそらく何かしらの妨害があるだろうから、耐久力が無い分身よりも本体の俺が知ってる宿屋を回って分身の方をバステラル達に合流させて協力を仰ぐ、これが今取れる最善の方法だだろう。)
そう結論付けロイドは自ら宿屋に向かいながら分身を数人バステラル達の元へ送り込む。
最寄りの魔物も宿泊できる宿屋の近くまでつくと予想通り『蛇神の四肢』の妨害にあった。
宿への道を通せんぼするかのように暗がりから複数の人影が出てくる。
「お前ら『蛇神の四肢』の連中か?」
「その名を知っているという事はお前は敵であると思っていいんだな。」
リーダー格の男がロイドの問いにそう答え、ロイドは無言で分身を5体作り出す。
両陣営がにらみ合う中、ロイドは相手集団の戦力を分析する。
(敵は全部で6人か……。全員武器で武装してこそいるが、そうのうちの2人は素人臭さが抜けない様な構えをしているようだから本職は戦闘要員ではないんだろうな。残りの4人に関しては妙に落ち着いているところからして生粋の戦闘要員か。俺の目的はコイツらを全員倒すことじゃなく宿屋にいる買収された店員を取り押さえること、分身を使って乱戦に持ち込みドサクサに紛れて目的を果たし速攻で離脱する。)
ロイドがそう思考している間にロイドが素人と見抜いて2人の内の1人が先程ジェイドが使った様な信号弾を取り出す。
妨害しようとするが残りの残った5人に牽制されてあえなく信号弾を打ち上げられてしまった。
「我々のリーダーにお前が生きていた場合居場所を知らせるようにといわれていたのだ。もうすぐここに増援が来る。お前に勝ち目はないぞ。」
信号弾を打ち上げた男が得意げにそう語るが、それをこの集団のリーダー格の男に諫められる。
「敵に情報を与えてどうする!黙っていろ!」
「ひっ、す、すみません!」
慌てて口を閉じたようだがもう遅い。
「増援が来るとわかった以上ゆっくりとはしていられないな。一気に抜けさせてもらうぞ!」
ロイドは分身を追加で分身を3体作り出すと攻撃よりもむしろその場を通り抜けることを優先して分身と同時に一斉に駆け出す。
「行かせるな!」
リーダー格の男の檄により突っ込んできたロイド達に切りかかるがロイドは追加で出した分身を合わせて現在10人に増えている。その内の5人が通り抜けると見せかけてその場に留まり手練れ4人と素人2人の武器を封じにかかる。
「乱戦に持ち込むつもりだ。惑わされず本体さえ叩けば分身は消える。本体に集中攻撃だ!」
リーダー格の男はロイドの狙いをすぐに看破して冷静に指示を飛ばす。
その指示を受け分身達の攻撃を凌ぎながら手練れ4人が一斉に本体のロイドに攻撃を仕掛ける。どうやら初めから本体のロイドをマークしていたらしい。
(チッ、結構攪乱するように動いたんだが本体から目を離さなかった様だな。)
ロイドは仕方なしに突破をあきらめ4人の攻撃を捌く。
ロイド本体に攻撃が集中したことで残りの4体の分身は無事に戦域を突破できたようだ。
それを確認しロイドは自分の持つ第二の種族特性を発動させる。
「とったぁぁぁぁ。」
ロイドが第二の種族特性を発動させた隙を突きリーダー格の男が渾身の一撃を放つ。
その一撃は完璧に決まり先程まで本体だったロイドの分身を消滅させる。
「なん……だと……?」
リーダー格の男が思わず声を漏らすが、すでにその場を駆け抜けたロイドがその声を聞くことは無かった。
『蛇神の四肢』の妨害を切り抜け無事に宿屋にたどり着いたロイドはすぐさま宿屋のカウンターに向かう。
「すまない。緊急事態なんだ。今すぐ魔物たちに与える餌を調べさせてくれ!」
しかし、ロイドは失念していた。突然見ず知らずの男が不審な事を言ってきたときの正常な反応というものを。
「なっ、なんだい、お前さんは!?」
カウンターで待機していた女将さんは突然のロイドの訪問に混乱し戸惑うばかりである。
「いいから調べさせてくれ!魔物が食べると危険な物が混ぜられている可能性があるんだ!」
「なんだい?うちが出す物に難癖付けようってのかい?」
混乱から立ち直った女将さんはロイドをクレーマーと思ったらしい。
「調べさせろってアンタ見たところこの国の兵士でも無いようだけどどんな権限があってそんなこと言うんだい?」
女将は完全にロイドを不審者と判断したようだ。ロイドは己の失策を悟り頭をフル回転させる。
(どうする?時間をかければ言葉巧みに説き伏せて調べさせてもらうようにも出来るだろうが、今はとにかく時間が惜しい。この他の宿も数件回らなければならない事を考えるとこの一軒に時間をかけすぎれば他が間に合わなくなる。かと言って強行しようものなら衛兵を呼ばれそれはそれで面倒な事になる。)
ロイドが考えている間に自体は最悪に方向へ向かう。
「どうしたんですか?女将さん。」
ロイドが振り返るとそこには先程妨害してきた『蛇神の四肢』の者たちが善人の仮面を貼り付け立っていた。
「あなたたちは?」
「ファッションショーを間近に控え不審者や良くない連中も集まってくると考えて結成した自警団ですよ。丁度この辺りを見回っている所に女将さんの声が聞こえてまして、何かもめ事ではとこうして駆けつけた次第です。」
女将のお問いに事前に準備してあってのであろう回答をスラスラと並べる。
(これは非常にマズイ事になった。こっちは女将さんへの第一印象が悪い上に連中の言い分に違和感は無い。強行突破も連中が来た以上難しいだろうし、コイツらの横やりが入ると言葉巧みに説き伏せるのも難しくなってくる。)
ロイドは内心で冷や汗を掻きながらさらに頭をフル回転させるが打開策が浮かぶことは無かった。
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