VSジェイド②
時は少しさかのぼる。
ロイド本体と別行動をしていた分身達は無事にバステラル達がアジトとしている宿屋にたどり着いていた。
「バステラルいるか?」
ロイドが戸を叩くと部屋の中からが出てくる。
「どうしたロイド?えらく慌てているようだが。」
「『蛇神の四肢』の連中の目的が分かった。詳しく話している時間が惜しいから移動しながら説明する。バステラルは王都の中で魔物も一緒に泊まれる宿の場所はわかるよな?」
「ああ、わかるが、それがいったい『蛇神の四肢』とどんな関係が……いや、説明は移動しながらだったな。わかった、付いて来い。」
ロイドの様子から事態は緊急を要する状態である事を察したバステラルは打てば響くようにロイドの要求に応じる。
道中、先程発覚した『蛇神の四肢』の狙いを簡潔にまとめ説明する。
ちなみに、他国であるデュマス王国での騒動になぜガハルード帝国の人間であるロイド達がここまで肩入れするのかというと政治的な問題が絡んでいるからである。
ガハルード帝国には敵国が隙を見せればすぐにでも進行すべきだという急進派と、可能な限り自国の戦力を整えタイミングを見計らって進行すべきだという慎重派の二つの勢力がありロイド達は慎重派から送り込まれた諜報員であり、諜報活動の他に今回のような大きな事件が起きて他国が自分達が意図しないタイミングで混乱し急進派が勢いづくのを防ぐ役割も担っているからである。
「そういいう事かよ!アイツら俺のなわばりで寄りにも寄って無差別テロとはいい度胸だ。しかし、マズイな。王都には従魔OKの宿は全部で7件ある。おまけに確か従魔に餌を与える時間は全て夜8時で同時だったはずだ。」
「夜8時だと!?今はもう夜の7時だぞ!何だって寄りのも寄って全部同時なんだ!?」
「昔、とある従魔使いの一族が団体で王都に来た事があったんだが、この時一つの宿屋に全員が泊まれなかったんで複数の宿屋にばらけて泊まったんだ。このとき従魔の餌の時間がバラバラだったせいで大好物の臭いがするのに食えないって理由で餌の時間が遅かった宿に泊まっていた従魔たちが騒ぎだした事があってな。住民からクレームが殺到したんで宿屋達で話し合って従魔の餌の時間を統一したらしい。」
「なるほどな!納得はできたが対策はないのか?」
「俺たちだけじゃ全てを防ぐのは無理だ。こうなったら他の冒険者たちに応援を頼むしかない。」
「応援を頼むのはいいがどうやって説明する気だ?」
「そんなもん素直にありのままを話すしかないだろ。」
「情報源の話はどうするつもりだ?ありのままはなすにしても限度があるだろう。」
「ロイド、心配するな。実は俺が帝国の諜報員であることは大体のヤツにばれてる。」
「はぁ!?ばれてる!?」
「そもそも俺が諜報員に向いてる様なヤツだと思ったか?ばれるまで勘が鋭いヤツには3ヶ月持たなかったぞ。」
「なんというか………。よく諜報員だとばれて始末されなかったな。」
「今の時代、優秀な冒険者ならどこに行っても重宝されるし、俺達が慎重派の諜報員だから今回のように、でかい事件が起こった時に解決に力を貸すこともわかってるから見逃されてるんだろうな。冒険者の連中は俺がどこの国の諜報員だろうと気にしないヤツらばっかりで何の問題のなかったしな。」
「まあ、考えてみたら本来この国の人間じゃない俺達が当人たちより真剣にこの国の危機に立ち向かうってのもおかしな話だしな。協力してもらえるんだったらせいぜい頑張ってもらうか。」
話しているうちにギルドに一番近い場所にある酒場へ到着する。
「この時間ならまだ血の気の余ってる冒険者達がここで呑んだくれてるはずだ。ロイド、お前まで諜報員とばれたらマズイだろうからここで待ってろ。」
バステラルはそう言い残し1人酒場へ足を踏み入れる。
しばらく外で待機していると酒場から怒声とやら何かが割れる、それに混じったヤジなどが聞こえ始める。
(おいおい、本当に大丈夫なのかよ?)
ロイドが心配になってきていると今度は男たちの喝采とやる気に満ちた声が聞こえ始め、勢いよく酒場のドアを開けて冒険者達が出てくる。
「俺は〈渡り鳥の止まり木〉に行く。あそこの店員とは顔見知りだからな。」
「それじゃおれは〈安楽亭〉だな。常連だから邪険にはされないはずだ。」
「俺は〈ウサギの雨宿〉だな。調査ついでに看板娘に告って嫁に貰って来る。」
「勇者だな。骨は拾ってやる。」
冒険者たちは口々に互いの行き先を確認しながら勢い良く町の中に散って行った。
1人勢いが付きすぎな者も混じっていたが。
呆然と消えていく冒険者たちの背中を眺めていたロイドに酒場から出てきたバステラルが得意げに声をかける。
「ま、俺も諜報員のはしくれだからな。単純な冒険者を話術で誘導するぐらいは出来きて当然だ。」
「なんというか……正直意外だった。」
「この調子で俺は冒険者たちに声をかけて回る。ロイドはどうする?」
「そうだな……本体の方は何か立て込んでるのか連絡取れないし……ひとまず、バステラルに付いて行くことにしよう。本体から新しい情報が入ったらすぐに伝えられた方がいいだろうし。」
「わかった、次は向こうの酒場だ。行くぞ。…………ところでロイド、俺冒険者達をのせるために事件が解決したら一杯奢るって言っちまったんだけど、コレって経費で落ちるかな?」
「………実は俺も今日予定外の出費があってな、元ダメで一緒に請求してみるか。」
ジェイドはその能力上、暗殺などを得意としているためターゲットが確実に死んだかを確認する習慣が身に付いていた。
どう見てもオーバーキルな攻撃をした後でもターゲットの死体を確認するまで油断していなかった。
故にその一撃を躱すことが出来た。
未だ燃え続ける豪炎を突き破るようにして不可視の衝撃が放たれたのを炎の揺らぎから認識し身を投げ出すようにしてギリギリで回避する。
躱した後で衝撃波の発生源である炎の中心を観察する。
炎の中に爆発の直撃を受けてなお、原形を留めているローガの姿が見えた。
「つくづく貴方はバケモンですねぇ。アレが直撃してなんで生きてるんですかぁ?」
無意識に洩れたその言葉にローガが律儀に返答する。
「死んでないからだ!」
以前チェイスに同じようなことを問われ「心臓が動いてるから」と答えても納得してもらえなかった経験から学習し新たに導き出した答えだった。
「いや………そういう事を聞きたかったんじゃ無いんですけどねぇ。」
死んでないから生きている。ある意味真理である。しかし、自信満々にドヤ顔までして答えたのに納得してもらえなかったようだ。
「この答えでもダメか……。間違ってはいないハズだが……解せぬ。」
会話からはローガにはまだ余力がありそうに見えるが実際はそうでは無かった。
先程の爆発は効かなかったわけではなくローガを確実に打ちのめしていた。全身に爆発の衝撃をくらっており満身創痍でいつものように体を動かせない状態だった。
先程の『飛翔拳』も不意を突いた起死回生の一発であったが躱されてしまった。
ローガがすでに満身創痍であることを見抜いたジェイドは次の策を考える。
(軽口を返すことでまだ余力があると思わせたいのでしょうがどう見てもすでに満身創痍。とはいえ驚きですね、今まであの爆発をくらって生きてたのは生命力が強い大型魔物ぐらいのもの……。ホントにどんな頑丈な体をしているのか………。そういえば打ち込んだ矢に塗ってあった毒も効いてるように見えませんし、下手な小細工では殺しきれない可能性がありますか……。ならばここは、単純に火力を上げて跡形もなく消し飛ばすとしましょう。まだ足元の粘着液は完全には効果を失っていないようですし、それ以前にあの様子では一歩として動けないでしょう。今のうちに私の持つ最大火力を叩きこむとしましょうか。)
素早くそう結論を出しジェイドは次々と爆薬を取り出していく。
「ローガさん。アレで死なない貴方の生命力には本当に感動しましたよぉ。ですのでこちらも手加減や出し惜しみは一切しません。私が現在所有している爆薬全てを使い徹底的に殺してあげます。」
全ての爆薬を取り出した後、最後にまた鉱石のような物を数個取り出す。
「これは熱結界石と言いまして炎に対してのみ絶対的な結界を生み出す事が出来る魔導具です。使い捨てですが出し惜しみはしないと先程お約束しましたのでコレも全て使いましょう。」
そう言いながら未だ動けないローガの周りに配置する。
爆薬をローガの周囲に配置していき熱結界石を発動させ結界を張り最後に爆弾の導火線に火を付ける。
「逃げ場のない高温と爆発が荒れ狂う結界の中で跡形もなく蒸発して下さい。では今度こそさようなら。」
(くそっ、本当にマズイ。この爆発をくらったらヤバイって本能で解る。…でも体が……動かない。〉
ローガの生存本能が全力で警鐘を鳴らしまくる。
爆発がローガを飲み込む瞬間、ローガの体を何かが駆け抜けて全身の毛先へビビッと抜けた。
そしてローガは再び紅蓮の爆発に飲み込まれた。
ロイドは追いつめられていた。
前門の宿屋の女将さん後門の『蛇神の四肢』。退路はすでに断たれ時間もなく打開策も無い。
その状況を救ったのは昨日知り合いになったフレディであった。
「あれ?貴方は昨日のお客さんじゃないですか?なんでこんな所に?」
宿屋の部屋から騒ぎを聞きつけたフレディが何事かと顔を出したのだ。
「っ!お前はっ!確かフレディだったな。ちょうどい所に、頼むから俺の話を聞いてくれ!」
『蛇神の四肢』の1人が慌ててロイドの口を塞ぐがロイドはすぐに分身を作り出し分身に喋らせる。
「お前の従魔達におかしな物を食わせようと企んでいるヤツらがいる。宿屋の飯を調べるんだ!」
早口でまくしたてた言葉を否定するように『蛇神の四肢』の1人が口を開く。
「いい加減に黙れ。すみませんね、どうもこの男は頭がおかしいようでして。」
必死にごまかそうと言葉を並べるが、ロイドの必死な言葉はフレディの心に届いていた。
「女将さん。この宿屋を利用している客としてお願いします。僕の従魔に食べさせる餌を一度見せてもらっていいですか。」
流石に女将も客からの要請を断るわけにはいかない。厨房に従魔の餌が入った籠を取りに行く。
「チッ。」
ロイドを囲んでいた『蛇神の四肢』のメンバーは舌打ちすると女将が帰ってくる前に宿を出ていく。
しばらくして女将さんが従魔用の餌が入った籠を持って戻ってくる。籠の中を調べると案の定、餌に混じって粉々に砕かれた『蛇神の鱗』が発見された。
「はぁ~~~。ようやく一軒か……この後も妨害はあるだろうし先が思いやられるな。」
ロイドは次の宿に向かいながらため息を突いた。
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