冒険者達を訪ねて臭いを嗅いで回る簡単なお仕事
次の日昼過ぎ
ローガは約束通り冒険者ギルドへ向かっていた。
約束の時刻は昼であったがローガはまだギルドに辿り着いていなかった。その理由は単にローガが冒険者ギルドの場所を知らなかったからだ。
なんとかギルドの前まで辿り着くとそこには当然のようにロイドの姿があった。
「随分と遅かったな。約束をすっぽかされたのかと思ったぞ。」
「いやー、わるいわるい。俺よく考えたらギルドの場所知らなかったんだよ。道行く人たちに聞いて回りながら来たんで遅くなっちまった。」
「はぁ~、お前ギルドの場所を知らないって事はまだ護衛の件の完了手続きをして無いってことだな。普通の冒険者なら護衛依頼の後は真っ先に完了手続きがてらギルドの場所を確認しておくものなんだが……。まあいい、待っててやるからついでに完了報告して報酬を先に受け取って来い。」
「おぉ、そういえば護衛の報酬が入ってるんだった。完全に忘れてたぞ。」
「お前……その発言は本当に冒険者なのか疑わしいくなるレベルだな。とにかく報酬をはやく受け取って来い。」
ローガはロイドに促されるままカウンターに向かい手続きを行う。
報酬を渡されたローガは適当に渡された硬貨を一掴みしてそれをポケットに突っ込む。カウンターの上には掴みきれなかった硬貨がまだ数枚残されていた。
「残りはギルドバンクとやらに入れといてくれ。」
ギルドの受付嬢にそう言い残すとローガはスタスタとロイドの元に戻ってくる。
一連のローガの行動を見ていたロイドは完全に呆れた口調でローガに質問する。
「ローガ、お前は自分の所持金とかを把握しているのか?」
「いや、わかんねえけど?」
「そうか………お前がいいというなら別に俺は何も言わんが……。」
いい加減ローガの非常識ぷりにも慣れてきたと自負していたが、まだまだだったなと思い直すロイドであった。
「それで、あの後情報の整理とやらをしてなにかわかったのか?」
「ああ、とりあえずお前の情報から魔物と日常的に触れ合っている冒険者が取引の相手だったんじゃないかと思ってな。今日は今王都にいる従魔を連れている冒険者を調べていこうと思う。」
ローガの質問にロイドは昨日宿屋に帰ってから情報を整理し考えた今日の調査方針を伝える。
「ふーん。でもあの時の取引相手は顔とかは一切覚えてないけど冒険者特有の空気みたいのは感じなかったし、強者特有の気当たりみたいのも感じなかったからただの一般市民だと思うぞ。」
「いやローガ、そうとは限らないぞ。前にも言ったと思うが魔物を使役できる能力はそれだけで強力な武器になるんだ。事実、かつて存在していた『百鬼夜行』の二つ名を持つ冒険者シャルバは本人の実力は精々ランク4程度であったという話だが、その能力によりランク11にまで上り詰めたという伝説を残している。調べる価値は十分にあると思うぞ。」
「へー。まあ、何でもいいや。それで俺は何をすればいいんだ?」
「実はすでに分身を出して使役能力を持つ冒険者の居場所は調査している。今から一人ずつ会いに行くから、ローガはさりげなくそいつらの臭いをかいであの時の取引相手だったかどうかを調べてくれ。」
「なるほど、つまり俺達はこれから冒険者達を訪ねて臭いを嗅いで回るってことだな。」
「……なんか引っかかる言い方だが概ね間違っていないな……。」
「それで、俺は具体的に何人の臭いを嗅げばいいんだ?」
「俺の調べでは今王都に来ている魔物の使役能力を持つ冒険者は4人程みたいだ。」
「意外と少ないいんだな。」
「もともと、魔物の使役能力を持つ冒険者はそんなに多くはいないからな。むしろ王都が広いとはいえ一つの町に4人は多いぐらいだ。」
「ふーん、そんなもんなのか。」
「そんなものだ。まず一人目の調査対象者のところに向かおう。」
こうしてむさい男2人による臭い鑑定の旅が始まった。
ロイドがローガを連れて魔物の使役能力を持つ冒険者達の元を訪ねて回っている間に本物のロイドは王都の一角の宿屋で冒険者に扮した仲間の帝国諜報員と落合い情報交換をしていた。
実はローガと共にいるロイドは能力により作り出した分身であった。
そもそもロイドはローガとの調査で有力な情報を掴めるとはあまり期待していなかった。
それでも、ロイドがわざわざ分身を出してまでローガと茶番劇をしている事にはちゃんと理由がある。
ローガに限らず冒険者という連中は基本的に何物にも縛られない存在である。護衛の依頼中にさりげなくチェイスとの会話を聞いていたロイドはローガがファッションショーに何の興味も持っていないことも聞いていた。
普通ならこの時期に王都にいればにファッションショーを見るまで滞在しているものだが、ローガの場合そんな事は気にせずに王都に飽きたらどこかへ旅に出ることが予想された。
そのためロイドはローガを王都に引き付けておく方法として例の組織の調査を依頼しローガを監視下に置く事にしたのだ。
「直接顔を合わせるのは初めてだな。俺は王都で諜報活動をしている影の20番ことバステラルだ。」
そう名乗ったのは王都を拠点に活動する冒険者の中での古株といえるベテラン冒険者の大男だった。
体格の良さはローガに匹敵するほどであり、背負っている得物のバトルアックスの重さからもその筋力が窺えた。
諜報員同士何度か秘密裏に連絡を取り合ったことがある間柄であったがバステラルの言う通り、直接顔を合わせたのは今日が初めてであった。
「協力感謝する。俺はアナンダの町で諜報活動をしている影の23番ことロイドだ。さっそくだが今王都で暗躍している帝国から例の遺物を盗んだという組織についての情報を教えて欲しい。」
ロイドは内心で目立ちすぎてあまり諜報活動に向いていなさそうな体格だなと思いながらもそれには触れずに自らも自己紹介し応じる。
ちなみにバステラルが王都担当の諜報員として派遣されているのは、この国の国王がバステラルのような筋骨隆々の男を好む傾向にあるためである。
「ああ、まずヤツらの組織の名前だが『蛇神の四肢』というらしい。なんでも今は封じられ身動きが取れない蛇神とやらの復活のために文字通り本来蛇には存在しない四肢となって動く組織だそうだ。」
「随分と洒落れてる名前だな。その情報は何所から?」
「実はこちらで構成員を何人か捕らえることができてな。尋問によりなんとかここまでは聞き出せた。もっとも五日前にそいつらのお仲間さんからの奇襲を受けて捕らえた構成員達は殺されてしまったがな。」
「情報漏洩防止のためのトカゲの尻尾切りか。蛇に手足が生えてトカゲになったから尻尾切りは得意になったというわけか。」
「なかなかうまい事を言うな。」
そう応えながらバステラルは何かを取り出しテーブルの上に置く。
「これは?」
「捕らえた諜報員が持っていた物だ。『蛇神の鱗』というらしい。」
それは一見すると何かの干物のような物に見えた。
「これはおそらくお前さんの報告にも出てきた干物のような物と同じものだと思う。」
今度は何かの紙切れのような物を取り出しテーブルの上に並べる。
「お前さんの方にも来たと思うがこれは本国から回って来た奪われた遺物とやらのスケッチだ。」
並べて見てみると確かに似ていなくも無いような気がしないでもない感じであった。
「俺はこれらが同じものであると考えている。そしてこれが今王都内でばら撒かれている。」
「それについては俺の方でも掴んでいる情報があるから話しておこう。つい先日、今俺と行動を共にしている冒険者がいるんだがそいつがその取引現場を目撃してな。その冒険者の話だとどうやら連中はそれを金と一緒に魔物の臭いが染みついている男に渡していたらしい。」
「ほう、俺が掴んでいる情報とは少し違うな。俺が掴んでいる情報では裏の代物を扱う商人たちに従魔を強化できるアイテムとして高額で売りさばいているという話だったんだが。」
情報交換の結果『蛇神の四肢』は今まで高額で売り払っていた『蛇神の鱗』を今度は一転して金と一緒に誰かに渡していたことが分かった。
「そうなるとイマイチ目的が見えてこないな。『蛇神の四肢』という連中はわざわざ帝国にケンカ売ってまで手に入れた遺物を売りさばいておきながら今度は金と一緒にばら撒いているってことか?」
「確かに目的が見えないな。最近になって活動の内容が変わったということか?この時期に活動内容を変えてくるという事はファッションショーと無関係ではないだろうな。」
「確かに何かありそうだな。実はさっきの話にはまだ続きがあってな、その冒険者は取引を目撃した際にジェイドと名乗る物を丸呑みし自在に吐き出す能力を持った者に襲われている。またジェイドがその時に近々派手なお祭りをやると口走っていたそうだ。」
「ジェイド………ソイツはおそらく、五日前に襲撃を仕掛けてきてせっかく捕らえた構成員達を皆殺しにしてくれた奴と同一人物だろうな。ソイツもも同じように体内に武器を隠し持っていた。」
「同じ部族の別人という可能性は?」
「おそらく無いだろう。あの種族特性を持つ部族は蛇人族の中でも『大顎の蛇人神メルテスナ』の力を継ぐメルテスナ一族以外にいないはずだ。メルテスナ一族は希少部族で世界に数十人しかいないと言われている部族だからな。」
メルテスナ一族
大概の大きさの物なら呑み込めてしまい、腹の中に異空間があるため体の質量以上の多くの物を収納できるという便利な種族特性から他種族から狩られ奴隷として売買されていた経歴を持つ希少部族である。
「そうか…どこかで聞いたことがある能力だと思ったらメルテスナ一族だったか。俺としたことが有名な部族なのにすかり忘れていた。」
「ひとまずは情報交換で得られる情報はこんなとこれだろうな。ファッションショーに合わせてヤツらが何かを企んでいるとしたらもうあまりその派手なお祭りとやらまで時間が無さそうだな。なにせファションショー当日まであと三日しかないからな。今俺の仲間の影の21番と19番がヤツらのアジトを探している。新たに情報が入り次第また落合おう。」
「了解した。」
情報交換を終えロイドは部屋を出ていく。
ふと気になってロイドはローガと行動を共にしている分身に連絡を取ってみた。
(一応念のために聞いてみるがローガと一緒に調査した結果はどうだった?)
分身に向かって聞いてみると返事はすぐに帰ってきた。
(調査の結果今回の調査対象の冒険者はホモ、ウンコ漏らし、薬中、常識人であることがわかった。それとローガは5分30秒ぐらいまでは息を吐き出し続けられたが6分の壁は厚いらしい。)
(……は?)
いったいどんな調査をしたのか非常に気になるが、語る分身の口調が非常に疲れたものであったため詳しくは聞くまいと心に決めるロイドであった。
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