事情聴取
王都郊外
人混みを嫌ったローガは結局いつも通り宿には泊まらず何時ものように野宿をしていた。
ちなみに日中に怪しげな取引現場を目撃した事はギルドや国の兵士達に報告したりはしていなかった。
そもそも、色々と常識が欠如しているローガとしては怪しげな取引現場は目撃してもそれが違法な事であるかどうかの判断がつかないのだ。
そのため日中に見た取引現場での事はローガの中では、栄養満点の干物の取引現場でなぜかニヤニヤ顔の変なヤツに突然ケンカを売られた程度の認識でしかなかった。
「ジェイド……だったか。気配も読めず後ろを取られたのは初めてだったな。ヤツが始めから殺気を放っていれば気づけただろうけど、いや……殺気が無かったから分からなかったなんて言い訳にもならないな。」
日中の出来事を思い出しながらローガは独り言を呟く。
「にしても祭りをやるとか言ってたけど何をする気だ?武道会でも開くのか?」
やはり根本的なところが分かっていなかった。
次の日
ローガは今日も王都の町並みを彷徨っていた。突然人混みに放り込まれる形となった昨日とは違い、今日はある程度の覚悟をしてきたので昨日より余裕を持って町の散策が出来ていた。
好奇心に導かれるままにあてどもなくフラフラと歩き回るローガの頭にはすでに当初の目的であった書店を探すということは完全に抜け落ちていた。
そんなローガに声をかける者がいた。ロイドだ。
「ローガ、ようやく見つけた。探したぞ。」
「ん?ロイドか、俺に何か用か?」
色々な所を不規則に転々としていたローガを捕まえるために走り回ったのであろう。ロイドはどこか疲れた表情をしていた。
「ああ、ちょっとお前を雇いたくてな。」
「俺を雇う?なんで?」
「ちょっと断れない筋からの依頼を受けてな。その調査でお前の索敵能力を借りたいんだ。」
「ふーん。王都に来ても冒険者の仕事するなんてロイドって思ったよりマジメなヤツだったんだな。でも俺は今はそんな気分じゃないからパスだな。」
ローガとしては王都の人混みにも慣れて、見た事ないような物で溢れかえる王都をようやく楽しめる心境になったところである。わざわざ働く気は起きなかった。
「そう言わずに頼む。手伝ってくれるならコレを報酬にやろう。」
ロイドはローガを釣るために用意したとっておきの品を取り出す。
「今では絶版となった稀覯本『オウガイ流拳舞術指南書』だ。」
「武術の指南書か!」
「そうだ。かつて拳聖とまで言われた武人オウガイが後世にその技を残すために書いたいわば伝説の指南書だ。」
「おお!なんか凄そうだな!それなら引き受けよう。」
この本を残したオウガイは確かに当時最強の武人と謳われ『拳聖』と呼ばれた程の人物であった。そんな彼がのそ武術の全てを書き残した書として当初は話題となったが内容がデタラメ過ぎてほとんど誰も習得きなかったことから絶版となったという経緯を持つ本であるが、田舎者のローガは当然その様な事は知らないのでまんまと釣られてしまった。
「言ったな。」
「ん?」
「今確かに引き受けると言ったな。もう訂正は聞かないぞ。」
「ああ、別にやる事も無かったんで別にいいけど……なんか引っかかる言い方だな……。」
「気のせいだ。それよりお前に頼みたい調査の内容の話だ。今回の件はこの前お前が言っていた魔物を変質させる干物のような物が深く関わっているようなんだが……。」
「ん?あの干物がらみなのか?」
「そうだ。アレを使って何か良くない事を考えている連中がいるらしい。ソイツらの尻尾を掴み、殲滅することが今回の依頼だ。」
「ふーん。そういえば昨日もあの干物を見かけたな。」
「なにっ、本当か!それは何所でだ!?どんな状況で見たんだ!?」
「いっぺんに聞くなよ。まず場所だが……何所って言われてもな……迷子になってたまたま辿り着いた場所だったから案内とかは出来ないぞ。」
「そうか……それならその場所について何か覚えてることとかはないか?」
「うーん。そうだな……、人の気配がするのに何故か誰も外を出歩いていない不思議な場所だったぞ。」
「なんだそれは?何かの謎かけか?」
「俺にも分かんねえよ。次に状況だが……なんか怪しげなローブを着た男が金と一緒にあの干物を渡してたぞ。受け取った方はどこにでもいそうな感じの普通の男だったな。」
「金と一緒に渡していた……?活動資金を得るために売っぱらっていたわけではないということか。それなら、どこかにアレを運び出すつもりで運び屋に渡したのか?……いや、結論を出すには情報が少なすぎるな。ローガ他に何か気づいたこととかは無かったか?」
「そんな事言われてもな……。ゆっくりと見る暇もなく変なヤツから奇襲されたからな。」
「変なヤツ?」
「ああ、口から槍を吐き出しながら突っ込んできたんだ。」
「……それが事実なら確かに変なヤツだが……。いや、待てよ。そういえば、あらゆる物を丸呑みしたり吐き出したりできる種族特性を持つ一族がいたな。確か蛇人族の………ダメだ。部族名までは思い出せない。」
「そいえばなんか蛇っぽかったなアイツ。」
「まあいい、部族名は後で調べておく。それよりその後はどうなったんだ?」
「その後?逃げられたよ。数日後に派手な祭りをやるからその時に決着を付けようって言ったな。」
「派手な祭り……だと!?」
「ああ、間違いなくそう言ってたぞ。武道大会でも開く気かな?」
「そんなわけないだろ!」
「じゃあ派手なお祭りってなんだ?」
「それは……俺にも分からんがロクな事じゃないのだけは確かだろうな。ローガもう一度聞くが何か他に気づいたこととかはないのか?今は少しでも情報が欲しいんだ。」
「ん~~~………。そういえば、あの干物を受け取ってる方の男に人以外の生物の臭いがこびりついていたな。あれはたぶん魔物の臭いだな。いろんな臭いが混ざっててどんな種類の魔物の臭いかまでは分からなかったけどな。」
「複数の種類の魔物の臭いがこびりついた男か………。ちなみにその臭いを追えたりとかは出来ないのか?」
「それは無理だな。ここはいろんなヤツの臭いが混ざりすぎてる。おまけにいろんな女から花の匂いみたいのがしてるからその匂いが強すぎて他の臭いが消されちまってる。」
「花の匂い……香水か。今はそういえば、ファッションショーを開催する時期だったな。厄介な時期に行動を起こしてくれたものだ。まあ、この人混みに紛れてなにかするつもりなんだろうが……。なんにしても思わぬところで情報が手に入ったな。ローガ、俺は今得た情報を整理したいから、何もしてないが今日の調査はここまでにしよう。」
「そうか。俺は別にいいけど……。」
「明日の昼に冒険者ギルドの前で落合おう。」
「わかった。」
ローガは了解すると手を差し出す。
「なんだ?この手は?」
「報酬の指南者くれ。」
「ちっ、忘れてなかったか。この件が片付いてからじゃダメか?」
「ダメだな。それが無かったら俺がこの後暇になるじゃないか。」
「王都の観光でもしてればいいだろ。」
「それよりその指南書の内容が気になるんだ。今くれ。」
「……わかった。渡すが指南書を渡す以上明日以降も必ず付き合ってもらうぞ!」
「ああ、俺は嘘はつかねぇよ。」
「絶対だからな。」
ロイドは念を押すと指南書を渡して人混みの中に消えた。
ローガはさっそく受け取った指南書を開き内容を確認する。
「なになに……『まず基礎としてワシの技を使う為の闘気の練り方から説明する。ゆっくりと7分ほどかけて息を吐きながら気を練り……』…………7分間息を吐き続けるって無理じゃね……。」
念のために他のページも確認してみたが心臓の鼓動スピードを通常の10倍にしながら技を放つなど、似たり寄ったりの無茶ぶりを前提とした技ばかり書かれたあった。
ローガは無言で指南書を閉じると王都の外へ向かって歩き出した。
「……とりあえず……試してみるか。」
指南書には鬼のような無茶ぶりが要求される事が書かれていたがそれでもローガはとりあえず試してみるつもりのようだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
とうとう毎日更新記録を途切れさせてしまいました。orz
しかし、今後も頑張っていきますのでよろしくお願いします。




