王都で蠢く者たち
ロイドは王都に着いてすぐ宿にこもり本国との通信を行っていた。
「こ…こちら影の二十三番。ターゲットをデュマス王国の王都まで誘導した。追っての指示を乞う。」
ちなみにデュマス王国というのはガッデムが治めるアナンダの町が所属する国であり現在のこの物語の舞台となっている国の名である。
例の通信用の魔導具を使っての報告であり、これは事前にレイザールよりこの魔導具を使って連絡して来いと指示があったため値段を気にせずおおぴらに使えていた。
この通信用魔導具を使いロイドの方から通信を繋げた事は今まで一度も無かったのでロイドは緊張していた。
「やあ、二十三番君。ご苦労だったね。」
通信に応答した者の声を聴きロイドの緊張のボルテージは一気にマックスを振り切った。
「レッ……レ…レイザール閣下であらせますか!?」
「ああ、私だよ。久しぶりだね。早速で悪いが新しく指令を頼もうか。今そちらの王都にはこの前うちが確保した遺物を強奪した組織が入り込んでいるみたいなんだ。君にはその連中の尻尾を掴んでほしいんだ。」
「つまり、盗まれた遺物の回収という事ですか?」
「いいや、回収はしなくていい。尻尾を掴んだ後、その情報を例の人狼族男、ローガ君に流し彼がその連中と戦う事になるように仕向けて欲しい。君もローガ君と共に戦うのは構わないがくれぐれも死なないように気を付けてくれよ。」
「それは、ローガがその連中にやられそうになった時は助けに入れという事ですか?」
「いや、ローガ君を助ける必要性は無いよ。あくまでも戦いを仕向ける過程でそのほうがやり易すいだろうからそのことを許可したまでさ。」
「では、最悪ローガが死んでもいいという事ですか?」
「ああ、それで構わないよ。そもそも、その程度で死んだのならそれは私が求めた者じゃなかったってことになるからね。」
「ご勅命承りました。それと、これは王都への旅の途中で起こったことなのですが……。」
ロイドは手短に道中で起こった百足蛇のことについて報告する。
「へぇ。もう翼を出せる個体が現れるほど活性化しているんだね。そして、ローガ君は翼によって死の世界へと変貌したエリアに足を踏み入れても平気だったと………。中々朗報じゃないか。これはもうローガ君はあの種族特性を継いでいると思って間違いないのかな。だとすれば後気になるのは能力の劣化か……。」
レイザールはロイドの報告を聞きまたもや自分の思考に没頭し始めた。
ロイドに時期皇帝であるレイザールの思考の邪魔をすることなど出来るはずもなくただレイザールの思考がひと段落するまで待つのみであった。
結局今回もその状態のまま通信用魔導具の制限時間となりそれ以上会話する事なく通信は終了した。
王都の商業区と呼ばれるバザーなどが開かれもっとも活気が盛んな地区。その外れにある潰れかけたボロ宿の一室でジェイドは他の組織のメンバーに尋問を受けていた。
「なぜ貴様は大事な取引の現場の監視を任されておきながらあのような軽率な行動に出た!貴様のせいで我々の崇高な計画に綻びが生じてしまったらどう責任を取るつもりだ!」
「だーかーらソレについてはさっきから散々謝ってるじゃぁないですかぁ。ごめんなさーい。私が悪ぅーございましたーって。」
「いい加減にしろ!謝って済む問題ではないということさえもわからないのか!」
ジェイドの誠意よりも悪意を籠めたような謝罪の言葉に尋問している男の怒りのボルテージはグングン上がっていく。
「もうよい。ジェイドに何を言っても無駄なのは始めから分かっていた事だ。冒険者共と王国兵達の動きに一層の注意を払っておけばそれで済む話だ。」
そんなやり取りを一刀両断しやめさせたのは今までジェイドと尋問している男の2人のやり取りを傍観していたリーダー格の男だった。
「しかし、ガジン様。組織には規律というものが必要です。ここは毅然とした態度でこの愚か者を処罰しなければ示しが付きません。」
なおも食い下がる男にガジンと呼ばれたリーダー格の男は言葉を重ねる。
「確かにお前の言い分の方が理が通っている。しかし、その様な愚か者でも我々の中では貴重な戦力であることには変わりない。計画の遂行のためにはこの愚か者の力が必要だ。よって、この場での処罰は行わない。これは現場責任者としての私が下した決定事項である。」
「ガジン様がそうおっしゃられるのであれば致し方ありません。ジェイド、計画が無事に済んだあかつきには貴様にふさわしい処罰が下る事を覚悟しておけ。」
「はいはい。そいつは楽しみですねぇ。」
ジェイドは最後の捨て台詞をも軽く受け流しその場を去ろうとする。
「待てジェイド。貴様には計画に当日まで謹慎を言い渡す。」
「これ以上余計な事はするなってことですかい?はいはい、分かりましたよぉ。」
ジェイドは気だるげに了解の意を示すと今度こそその場から立ち去った。
部屋を出たジェイドはいつものニヤニヤ笑いを浮かべたまま呟く。
「ホント、楽しみですよぉ。」
その瞳には狂気的な光が映し出されていた。
ガッデムはデュマス王国の国王デュケストラートに1ヶ月に突如発見された正体不明の大蛇の魔物についてそして王都へに旅路でローガが倒した百足蛇についての報告を行っていた。
ガッデムのいつ連の説明を黙って聞いた後、デュケストラートは口を開く。
「実はな、今から半月ほど前にガハルード帝国側からある情報提示かあった。」
「ガハルード帝国からですか?どの様な?」
「詳しい説明は省くが要約すると『神話の時代に倒された邪神が復活しつつありその邪神の眷族が活性化し始めたので貴国も注意されたし』というお伽噺のような話であった。」
「ガハルード帝国は世界各国に堂々と宣戦布告をしているような国ですからな。こちらの混乱を狙った偽情報の類では?」
「偽情報にしては突拍子がなさすぎる話とは思わんか?それに調べてみたらその情報の出どころがレイザール=ネスティア=ガハルード16世である事がわかってな。」
「レイザール=ネスティア=ガハルード16世といえば皇帝の初代皇帝にして神祖『帝国神ガハルード』先祖返りであると噂される人物だったと記憶していますが。」
「そのレイザール=ネスティア=ガハルード16世で間違いない。先祖返りは神祖の力と魂を継ぐ者であるという話だ。もし本当ならこのお伽噺も急に現実味を帯びてくるとは思わんか?」
「そういえば件の大蛇を討伐した冒険者のローガも人狼族の先祖返りありますが討伐後の報告であの大蛇に奇妙な因縁のような物を感じるとも言っておりましたな。」
「どうにもイヤな予感がぬぐえない。帝国が情報攪乱のために流したただのお伽噺と考えるのは早計であろうな。先程の報告にも出てきたジャイアントセンチピートを変異させた干物のようなものというのも気になる。魔物に食べさせるだけで簡単に古代種に近い強さを持った魔物を作り出せるのならそれはとても危険な代物だ。一介の盗賊風情が独自のコネクションで手に入れたとは考えにくいことから、おそらくその様な裏の代物を扱う商人をたまたま襲って手に入れたと考えるべきであろうが………。」
「帝国の先祖返りが語るお伽噺、突如として現れた謎の古代種と思わしき大蛇、そして、普通の魔物をその古代種と同種と思わしき魔物に変異させる干物のような物。まだ情報が少なすぎるため断言はできませんがこれらが全て繋がっているとしたら……何か大きな災厄が起こりそうな気がしますな。」
「なんにしても今できる事はその干物のような物を取り締まることぐらいであるな。ところでガッデムよ。貴殿はもちろん私に報告を終えたからと言ってとんぼ返りで領地に戻るなどとは言わんよな。」
「もちろんですとも。我が愛する妻がファッションショーで審査委員を務めるのですからそれを見届けてから帰ります。」
「もちろんその後は、裏で開かれる『筋肉の祭典』に参加するのであろう。」
デュケストラートはゆったりとした服の下で鍛え上げられた筋肉をヒクヒクさせながら問う。
「前大会のチャンピオンが不参加とは参りませんからな。」
応えるようにガッデムもまた筋肉をヒクヒクさせながら参加を表明する。
筋肉の祭典
それは華やかな王都で開かれるファッションショーの後で密かに行われる秘密の大会。
苛烈なる漢たちが鍛え上げた筋肉で身を飾りその美を競う艶やかなステージ
ガッデムとデュケストラートは共に身分を隠しこの大会で覇を競い合う長年のライバル同士でもあった。
「ふっ、楽しみだ。今年こそは勝たせてもらうぞ!」
「なんの、最近素晴らしい筋肉に出会い触発されて以降、私はここ1ヶ月でさらに磨きをかけてまいりました。今の私の大胸筋には僅かな隙もありませんぞ!」
「面白い!それでは大会で会おう。」
ファッションショーで盛り上がる華やかな王都。
その裏では陰謀と筋肉が蠢いていた。
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