都会は怖い所だ。
「まずは、ここまでの護衛ご苦労だったと言っておこう。王都はもう目と鼻の先ではあるが最後まで気を抜かずにいて欲しい。」
王都への旅も終盤となり最後の休憩を終えた一行をガッデムがねぎらう。
「この旅もようやく終わりか。結局初日の盗賊と戦ったのとこの前の羽トカゲの奇襲以外はなんもなかったな。」
ローガはこれまでの旅を振り返りながら呟く。
「あのなー、ローガ。盗賊に襲われるとかならたまにあるけどワイバーン襲われるとか普通に無いからな。あと、ついでに言うと盗賊との闘いはお前らから仕掛けたんだからな。」
ローガの呟きにすかさずチェイスがツッコミを入れる。
「そうだったっけ?まあ、どつちにしろ退屈な旅もこれで終わりか。」
「おいおい、さっきガッデム様から気を抜くなって言われたばかりだばかりだろ。」
「別に気を抜いてる訳じゃない。この先に人の気配がたくさんする場所があるからたぶんそこが王都だろ。そこまでの道中には近くに魔物の気配は無いのは確認済みだ。」
「相変わらず反則みたいな索敵能力だな。ところでローガは王都に着いたらどうするんだ?」
「………全く考えてなかった。どうしよう……。」
「まあ、王都は色々な物があるから深く考えずに観光でもしてくるような気持ちでいればいいんじゃね。」
チェイスは完全にノープランだったローガにアドバイスするがローガは上の空だった。
「まあ、ローガは人の話を聞かないヤツだと俺もいい加減学習したし精々着くまでになにかやりたいことでも探しておくんだな。」
こうしてローガが王都に着いた後にどうしようか考えているうちに王都への旅は終わった。
王都のバカでかい門をくぐり開けた広場まで行くとそこで依頼は完了となった。
「皆の者、ご苦労であった。冒険者達はギルドに完了報告をしておくので後で報酬を受け取りに行ってくれ。それでは解散!」
ガッデムがその場を締めくくり正式に解散となった。各々が王都の町中に消えていく中でローガは田舎者丸出しで周りをキョロキョロしながらしみじみと呟く。
「それにしても人が多いな~。近くに祭りでもやるのか?それともここではこれ位の人の数が普通なのか?」
ローガの言う通り辺りは見渡す限り人、人、人で溢れかえっていた。
「当たらずも遠からずってトコかな。祭りがあるって訳じゃないがそれに近いイベントがあるから今は普段よりも人が多いのは正解だぜ。」
ローガの疑問に答えたのは未だにその場に残っていたチェイスだった。
「なんだチェイス、まだいたのか。」
「おいおい、お前があまりにも田舎者オーラを出しまくってたから心配してちょっと王都について説明してやろうと残ってた心優しい先輩冒険者の俺に向かってずいぶんな言い草だな。」
チェイスは相変わらず絡み方がウザかった。
「おお、そうだったのか。ありがとう。それで王都で何があるんだ?」
「ファッションショーが開かれるんだよ。」
「ふぁっしょんしょー?」
ローガは聞きなれない言葉を思わずオウム返しに聞き返す。
「そうさ、可憐なる乙女たちが美しき衣で着飾りその美を競う華やかなステージ。もともと俺はこれを見るためにこの王都まで来たのさ。」
チェイスの言い方ではファッションショーというよりミスコンに近いが実際のところ間違っていなかった。
この王都は、多くにデザイナー達が日々しのぎを削り合う激戦区でありファッション界の聖地と呼ばれる場所であるという側面もあった。
デザイナー達は毎年モデルの娘をスカウトするところから始めその娘に一番似合う服を作りその美を競う。そのためモデルに美しい娘をスカウトすること込みでのファッションショーになるためある意味ミスコンともいえる大会であった。
「ふーん。」
チェイスはテンション高く説明するがローガの反応は極めて薄かった。
「ま、こうやって説明したところでお前は全く興味ないよな。そんな格好でこの王都に平気で足を踏み入れてる時点でそうだろうけどさ。」
未だにローガの格好は薄汚れたズボンを穿いている以外は全裸のままだった。獣毛のおかげで肌が見えないので半裸といえるこの格好でも通報されることは無い。毛が無かったら間違いなく今頃衛兵に囲まれたいたことだろう。
「うん、全く、これっぽっちも、興味ないな。」
世界で一番華やかな大会といわれる王都でのファッションショーをバッサリと一刀両断しローガは断言した。
「まあ、美を理解する感性が無いヤツには縁遠い話だな。ところでお前はこれからどうするのか決まったのか?」
「んー、とりあえず書店を回って武術の指南書を探したいとは思ってるんだけど、その他は全く決まって無い。」
「ふーん書店か。場所を知らないことも無いが残念ながらタイムアップだ。俺はお前にいつまでも付き合ってやれるほど暇ではない。これからモデルの娘達と花束を届けに行ってお近づきにならなければいけないので書店は自力で探してくれ。ではさらばだ。」
ローガに書店への案内を頼まれると思ったのかチェイスは速攻で離脱し町の中に消える。
「そんなに逃げなくてもいいだろうに……。俺もいつまでもここにいるわけにもいかないし移動するか。」
ローガはチェイスが消えた方向を暫し見つめながら呟いた後町の中を歩き出した。
「うん。迷った。」
しばらく王都の中を歩き回ったローガは完全に迷子になっていた。
人混みに疲れたローガはなるべく人が少ない方へと移動しておりいつしかスラムと呼ばれる区域に足を踏み入れていたのだが土地勘が無いローガがそのことを知る由も無い。
普通ならローガのような田舎者がスラムで迷子になると、したたかなスラムの住人たちの恐喝や強盗の餌食になるものだがローガの場合は少し事情が違った。
まずローガは服装からしてズボン一丁であり見るからに金を持ってるようには見えない。加えて2メートルを超える巨漢でありガタイが良く、止めに狼顔が怖い。
これだけ揃っていればいかにスラムの住人といえど手を出すことは無かった。
(周りに人がいる気配はするんだけど全然出てこないな。これじゃ道も聞けないしどうしよう?とりあえず次に目に着いた人に道を聞くことにして人を探すか。)
今後の方針を決めたローガは田舎者オーラを全開にしてキョロキョロしながらあてどもなく歩き出した。
この時、物陰からローガの事を窺っていたスラムの住人達は「鴨だ!鴨がいる!でも狼だっ!」という葛藤に駆られていたがそれは別の話であった。
ローガが人影を求めて当てもなくスラムを彷徨うこと数分、ようやく人影を発見したローガはそちらに近づき道を聞こうとした。
しかし、その人影は何やら怪しげな取引の真っ最中であり金の何かの干物のような物を交換しているところだった。
(ん?あの干物は………間違いない。この前の盗賊の親玉が使った栄養満点の干物と同じものだ。なぜだかは分からないがなんとなく分かる。)
ローガがそんな事を思っていると不意に背後から声をかけられた。
「おやおやおゃ……スラムのネズミが迷い込んで来たかと思えばなんとなんとオオカミだったじゃぁありませんかぁ。まぁ誰が迷い込んで来たところで殺すことには変わりはありませんがねぇ。」
ローガはその声を聴き戦慄と共に振り返った。
(気配を感じなかった……。コイツ結構ヤバイ相手かもしれない。)
振り返ったローガの目に映ったのはローブで顔を隠しニヤニヤとした気持ち悪い笑みを浮かべた黒ずくめの男だった。
「オオカミの兄さんが見てしまったのは知ったら命を置いてってもらわないといけにようなとってもマズイ取引現場だったのでぇす。な・の・で・お命ちょうだい!」
そう言った瞬間男が動いた。口から槍を吐き出しながら頭ごと突っ込んで来たのだ。
「っ!」
完全に予想外の奇抜な攻撃だったが、ローガは男の声を聞いた時点ですでに反射的に闘気を練り上げており、先日ガッデムから教わっていた『飛翔拳』の応用で闘気を掌に集める技を発動させ素手で槍を掴みその攻撃を防ぐ。
男もまさか素手で掴んで止めるとは予想していなかったようで一瞬動きが止まる。
ローガが槍を引っぱり男を引き寄せようとしたが槍が口の中からズルリと出てきたのみで引き寄せるには至らなかった。
「今の奇襲を素手で止めますか。オオカミの兄さんは見た目通りバケモノだったんですねぇ。」
軽口をたたきながら男は一旦距離を取る。
「都会にはこんな大道芸じみた事が出来るヤツがいるんだな。危うく串刺しにされるところだったぜ。」
ローガも軽口を返し油断なく構えをとる。
そこに先程取引をしていた男が合流する。
「目撃者か!貴様この男がここに来るまで放置していたな。」
なにやらローガをそっちのけにして口論を始めてたようだ。
「人聞きのわりぃこと言わないで下さいよぉ。確かに暇してはいましたが見張りを怠ったつもりはありませんよぉ。」
「ではなぜこのような事態になったのだ!」
「暇つぶしに面白そうなヤツがいたんで殺す口実が欲しかっただけぇ………だったりしてぇ。」
「貴様!神聖な職務を何だと……。」
2人が口論をしている間にローガは密かに闘気を練り上げまくって特大の『飛翔拳』を放とうとしていた。
(なんか分からんが攻撃してきた以上は敵で間違いないいんだろう。なら遠慮なくデカいの一発かましてやる!)
未だに口論を続ける2人にローガは問答無用で空気を読まず『飛翔拳』を放つ。
不可視の衝撃波が2人を襲うがニヤニヤ笑いの男の方がいち早く『飛翔拳』に気づきもう一人の仲間を盾にした。
「ゴハアァァァァ。」
盾にされた男に『飛翔拳』が直撃し戦闘不能になる。
「ありゃりゃ!もしかしておれってば藪をつついて蛇を出しちまったか?でも蛇ってどっちかというと俺達の方だからこの場合はオオカミが出たって言った方がいいのかなぁ?」
仲間が1人戦闘不能になっても特に焦った様子もなくそんな事をのたまう。
「ここでオオカミの兄さんとやり合うのも一興だがもうすぐこの王都で、派手なお祭りをやる予定なんでお楽しみはその時まで取っておくってぇことにしますかぁ!」
そいうと戦闘不能になった仲間を回収し大きく距離を取る。
「逃げる気か?」
ローガが問うとニヤニヤ笑いのまま答える。
「はい。逃げます。追って来るのは構いませんがぁ町中の方へ逃げさせてもらうのでぇ無関係な人たちを巻き込みたくなかったらぁ攻撃してこないほうが無難ですよぉ。」
「………ローガだ。」
「ローガさんですかぁ。その名前覚えておきますよぉ。あ、ちなみち私はジェイドです。お見知りおきをぉ。」
道化のように一礼するとジェイドは町の中へと消えていった。
ローガはその背中を見つめながらボソリト呟く。
「王都の中心はあっちの方角か………。迷子になってんで助かったぞぜ。」
ローガは異常事態に巻き込まれてもマイペースだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




