ガッデムの『闘衣』講座
「お帰り。」
狩りを終え戻って来たローガをロイドは不機嫌さを隠そうともしない口調で出迎える。
「おう、ただいま。あの魔物に動きは無かったみたいだな。やっぱ死んでたのかな?」
ローガはロイドの不機嫌さをスルーして全く動いた形跡のない魔物を見ながら問う。
「さあな、近づけないんじゃ確認しようがないだろう。そもそも、お前は1人で呑気に狩りに行っちまったがどうやってアレの生死について確認するつもりだったんだ?」
「周りの毒が弱まるまで待つつもりだけど?」
「やっぱりそんな程度の考えしかなかったか。どうりで悠長に狩りにいくなんてできた訳だ。」
「他に方法があるのか?」
「あるだろ。例えば一人がアレを見張ってもう一人が誰か魔法が使える者を呼んできて魔法で攻撃してみるとか。」
「おぉ!その手があったか!」
「お前、戦闘に関しては鋭い分析が出来るのにこの手の事に関しては頭悪いよな。」
「頭を使うのなんて戦う時だけで十分だからな。それよりアレの周りの毒がだいぶ薄れてきてるみたいだからそろそろ近づけるんじゃないか?」
「本当かよ……。一応分身を向かわせてみる。」
ロイドは分身を一体向かわせる。木々が死んでいるエリアに足を踏み入れ3歩進んだ所で分身は力尽きて消滅した。
「………ダメじゃねえか。」
「あれ?そろそろ行けるような気がしてたんだけどな。……ロイドの鍛え方が足りないからじゃないか?」
「そんな次元の話じゃないだろアレは!そこまで言うならお前が逝ってみろよ。」
「そうだな、そうしよう。」
あっさりそう言うとローガはスタスタと魔物に近づいていく。
ロイドは本気で言ったわけでもない言葉にあっさりと従ったローガに面食らい止めるのが遅れた。
「て、おい。本当に行く気か!倒れても助けられないんだぞ!」
「近づいてみて確信したがやっぱりたぶん大丈夫だ。」
「確信しといて多分とか言ってる時点でおかしいだろ。お前に倒れられたらどうしようもなくなるからやめろ。」
しかし、ローガはロイドの制止を聞かずにとうとう木々が死んでいるエリアまで足を踏み入れた。
5歩進んだ所でローガはバタリと倒れた。
「おいーーーっ!全然ダメじゃねぇか!っていうかマジでどうしよう助けには入れないし!」
ロイドが頭をフル回転させて救出方法を考えているとローガは何事もなかったかのようにムクリと立ち上がった。
「あぶねぇあぶねぇ。一瞬逝きかけたぜ。」
起き上がっての第一声がこれだった。
唖然とするロイドを軽く無視してローガはそのままズンズン魔物に近づいて行く。
魔物のそばまで来るととりあえずといった感じで半壊していた頭部に一撃加え完全に破壊する。
「よし!」
満足げにそう言うとローガはロイドの所まで戻って来て未だ唖然としたままのロイドに対してあっけらかんと提案する。
「確実に死んでたぞ。それじゃ帰ろうか。」
ロイドはうなずくだけで精一杯だった。
この時、ロイドはおろか当人のローガさえも通常灰色のローガの毛の根元の方が僅かに毒々しい紫色に変化していることに気づかなかった。
一夜明けて、ガッデム一行はローガが百足蛇と戦った場所に来ていた。
あの後、盗賊の捕虜を連れてローガ達がガッデムの元へ帰還したのは深夜といってもいい時間帯になってからだった。
そんな時間帯でありながらもガッデムは起きてローガ達の帰りを待っており、村へ帰りついてすぐにローガ達はガッデムに事の顛末を報告することとなった。
報告の結果、百足蛇についてガッデムが直接見て確認しておきたいと言い出しこうして王都への再出発を遅らせて一行は百足蛇を見に行くこととなった。
「これが報告にあった魔物か。確かにこのような異形の魔物は俺も見た事がないな。」
一晩経って周囲の毒がようやく散ったため間近で見る事が出来るようになった百足蛇の死体を見ながらガッデムが呟く。
「それに、あたり一面を地獄に変えたという毒の翼。やはりこの魔物も今回国王に呼ばれた理由と何かしらの関係があるのか……。どちらにしても調査隊の派遣は必須か。」
ガッデムは慌ただしく従者たちに指示を出していく。
「なにか良くない事が起ころうとしている。これはその予兆なのかもしれんな。」
シリアスにガッデムが今回の事件をまとめが、その横でこの場所への案内を終えたローガが爆睡していたためいまいちシリアスに成り切れていなかった。
事後処理の手配を済ませたガッデム一行は王都への旅路を急ぐ。
すでに予定よりも1日近く遅れているためその足取りは慌ただしい。
昨日よりも揺れが激しい馬車に揺られながらもローガは未だ爆睡している。
「うえっぷ。マジで気持ち悪い。ローガのヤツは良く平気でこんな揺れる馬車の中で寝れるもんだ。」
もともと乗り物に弱いチェイスは昨日よりも一層青い顔をしながら呑気に寝ていられるローガをうらやましそうに見ながら呟く。
少しでも気分を変えようと今日も馬車の外で馬を操っているロイドに話しかける。
「にしてもロイドの旦那。昨日は災難だったみたいでしたね。」
このメンバーの中で唯一馬車のをまともに走らせることが出来るロイドは今日もこの席に座ることとなっていた。
「全くだ。ローガのヤツと一緒に行動すると振り回されっぱなしになる。」
「ロイドの旦那もようやくコイツと組むことの大変さがわかったみたいですな。」
「無理やりにでもお前を連れて行かなかった事を後悔したよ。」
「まあ、前回の大蛇の時は俺が苦労したんでこれでおあいこって事で。」
「……その件に関しちゃ俺も遅れてきたから強く言えんな。しかし、次何かあってローガと行動を共にすることになった場合は頼むぞ。」
「そいつは意地でも御免こうむりますわ。」
2人の間に見えない火花が散った。
こうしてしばらくの間はのどか(?)な旅が続いた。
旅を続けて数日後の夜。
近くに村や町がないため野営することになり、ローガが持ち前の狩猟能力で一行全員分の獲物を捕らえて食事をした後、ローガは約束通りガッデムの技の伝授を受けていた。
「さて、ローガよ。お前がおの百足蛇を素手で倒したというからにはすでに『闘衣』は使えると思っていいんだよな。」
「『闘衣』?」
「なんだ。知らずにやっていたのか?『闘衣』は前衛の実力者なら誰もが使える技法だぞ。『気』を闘気へと錬成し衣のように纏うことで身体能力の強化を行う技法だ。」
「そんな技知らないし使った事もないぞ。」
「そんな筈は無いでしょう。『闘衣』無しであんなに戦えるはずがない。」
ローガの使った事ない宣言に異を唱えたのは興味があるので一緒に習得したいと言い出し着いてきたグレンであった。
「でも俺本当にそんな技術に心当たりは無いぞ?」
「ローガの場合は恐らく無意識に使っていたのであろう。やり方を教えるから意識して使ってみろ。」
ガッデムがその場をまとめてとりあえず実技を行うことになった。
「と言ってもやり方は先程説明した通り、『気』を闘気へと錬成し衣のように纏うだけなのだが……。」
「そもそも、マナってゆうのがなんなのかが分からない。」
「そこからか……。『気』はいわゆる精神力だな。精神から生まれる気で我々はこれを己の内で闘気や魔力に錬成し闘技や魔法を使う。」
「ガッデムさん。俺は頭悪いんだぞ!そんな難しいこと言われても分からないぞ。」
「む、そうか………。では、目をつぶって自分を意識した時にこう……ほわほわほわんっていた感じの何かがあるのは分かるか?」
ぞばで説明を聞いていたグレンはそんな象徴的な表現で理解は出来ないだろうと何とか助け船を出そうと口を開こうとしたがそれよりも先にローガが叫んだ。
「おお、分かるぞ!」
「よし!次にソレを己の内でこうグルクルッとさせて戦う力に変えるんだ。」
「ん~。グルグルッとは難しいな、ギュワンギュワンじゃダメか?」
「その辺は個人のセンスだ。やりやすいやり方で構わない。」
「わかった。そのあとは?」
「そうだな……戦う力に変えたソレを己の筋肉を隠す恥じらいの衣のように纏うのだ!」
「こうか!」
「うむ。その状態で体を動かしてみろ、いつもよりも筋肉のキレがいいはずだ。」
さっそくとばかりにローガが体を動かし始める。
「おお、なんか凄いぞ。いつもよりもバリバリだ。」
一時期、共に修業したグレンも見た事がないほどローガの体は軽快な動きを見せていた。
「これが天賦の才を持つ者と凡人の感性の差か………。」
先程のガッデムの説明では何一つ理解出来ないと思ってしまったグレンは密かに打ちひしがれていた。
単にあの二人が特殊なんだよとツッコミを入れてくれる人物は残念ながらこの場にはいなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、これまでローガは無意識の内に『闘衣』の劣化版のようなものを使っておりそれが本気を出した状態の事でした。
もともと、無意識に劣化版とはいえ『闘衣』を使っていたので本物の『闘衣』をこんなにアッサリと習得できたのです。
次回も読んでいただければ幸いです。




