羽トカゲ来襲
ガッデム一行が王都に向けての旅を始めて10日目。
初日にこそ色々あったがその後は嘘のように穏やかな旅が出来ており、ローガは暇を持て余していた。
「あ~~~、ひ~ま~だ~。なんか事件とか盗賊の奇襲とか起こらないかな~。」
馬車の中でローガはゴロゴロしながら物騒な事をのたまう。
「物騒なこと言うなよ。あとゴロゴロするな。鬱陶しい。」
チェイスは相変わらず青い顔でローガの戯言を切って捨てる。
「でも暇なんだよ~。このままじゃ退屈過ぎて後で暴れ回った時、反動で凄いことになるぞ。」
ローガの不吉な宣言にチェイスとロイドの間に戦慄が走る。
「おいおい、シャレにならない事を平然と言ってくれるなよ。つーか、そんなに暇ならその辺走り回って来いよ。最近『闘衣』を正式に覚えたんだろ?だったらその練習を兼ねて体動かして退屈しのぎでもしてきたらいいじゃねぇか。」
「そうだな。いざって時の為に自分の感覚と身体能力に誤差があってはマズイ。迷子にならない程度に行ってこい。」
元気過ぎるローガに手を焼かされた経験がある2人が反動で凄いことになっては堪らないとローガのガス抜きをしようとする。
「そうだな。このまま暇を持て余すのもアレだしちょっと狩りにでも行ってこうか。」
ローガはピョンと馬車の外に飛び出した。
「お前の索敵能力をけっこう当てにしてるんだからあんまり遠くまでは行ってくれるなよ。それと馬車に何か不審なものが近づいて来てると感じたらすぐに戻って来いよ。」
「分かってるよ。そんじゃ、ちょっくら行ってくる!」
ローガは元気よくそう言うと猛スピードで走り出しすぐに見えなくなった。
「………考えてみれば俺たちってまともに『闘衣』すら使えていなかったローガにスピードで負けてたんだよな。」
ローガが消えた方向をボンヤリと眺めながらチェイスが呟く。
「………そのことに関しては考えないようにたほうがいいぞ。俺はアイツを我々とは色々な意味で別次元の存在だと思うことにした。」
「そうだな……。」
こうしてもう暫くの間は穏やかな旅が続いた。
元気過ぎるほどにいつも通り狩りに勤しむローガ。
ちなみに百足蛇との戦闘で負傷した左腕は当時の予想通り骨が折れていたがすでに完治していた。
もともとローガの体は骨折程度なら三日もあれば余裕で完治してしまうバケモノじみた回復力を持っていたが、今回の骨折は自己の最速記録を叩き出すほど早く完治し百足蛇と戦った次の日の朝には完治していた。
あまりに早く完治したためローガの周りにいた者たちは誰もローガが骨折していた事に気づかず、ローガもまた途中から痛みを感じなくなっていたので自分が骨折していた事を忘れている程であった。
異常と言える回復能力、常人では3歩進んだだけで死亡するような毒がたちこめる危険エリアに足を踏み入れ一度は倒れたものの、その後すぐに起き上がり何事もなかったかのように活動し始めた事。
そして、いつの間にか元の灰色に戻っているローガの毛の根元。
この短期間にこれだけの異常な事がローガの身に起こっていたのだが当のローガがあまりの自分のその異常性について無頓着であったため、この時はまだローガの秘められた種族特性について誰も知ることはなかった。
狩りで十分に獲物を確保したローガはロイドたちの馬車に戻る途中で馬車の方に何かが高速で近づいて来るのを感じた。
(速いな。しかも地形に影響されずに一直線に場やの方へ向かってる。これはたぶん地上を走る生物じゃないな。)
気配から得られる情報を整理しつつローガは馬車との合流を急ぐ。
馬車に合流したローガはロイド達に向かって叫ぶ。
「何かがこっちに来ている。たぶん飛行能力を持つ魔物だ!」
「なにっ、どの方向から来ている。」
すぐさまローガの言葉に反応したロイドが聞き返す。
「向こうだ。」
ローガが魔物が来ている方向を指さし方角を示す。その指の先には確かに点のようなものが見えた。
ローガは目を凝らし近づいて来る魔物がどんな魔物なのか特定しようとする。
「アレは……たぶん羽トカゲだな。」
「羽トカゲ?なんだその魔物は?」
「ん?知らないのか?空飛ぶトカゲみたいなヤツで火噴いたりするんだけど……。」
「待て、イヤな予感がしてきたぞ。飛行するトカゲのような魔物で火を噴く……そいつはもしかして……。」
ロイドの脳裏に過った予感を肯定するように望遠鏡でその魔物を確認したチェイスが叫ぶ。
「ワイバーンだーーーーー!」
チェイスが叫ぶ横でローガは「おぉ、羽トカゲの正式名称はワイバーンというのか勉強になった。」と呟いていたが非常事態につき誰もツッコミを入れなかった。
「ワイバーンだーーーーー!」
チェイスの叫びはガッデム一行の全員に聞こえるほど大きく、当然その声はガッデムの耳のも聞こえていた。
「ほう、ワイバーンか。」
ワイバーンは下級とはいえ飛竜種の魔物であり空という接近戦が極めて難しい場所から奇襲してくるためギルドでも危険度の高い魔物として有名な魔物である。
そんな魔物が接近しているという知らせを聞けば普通は慌てふためくか神に祈るかするものだがガッデムは逆にニヤリと笑みを浮かべ上着に手をかけた。
「お父様。くれぐれも変な気は起こさないで下さいましね。」
ガッデムの馬車に同席していたガッデムの娘リンナがすかさずガッデムにくぎを刺す。
今まで全く話に絡んでこなかったため完全に空気になっていたが実はガッデムの娘もこの旅に同行していた。
「む、しかしなリンナよ。お前は冒険者や魔物に関して全く興味がないみたいだから知らないだろうがワイバーンという魔物はとても危険で厄介な魔物だ。追っ払う為にワシが手を貸さないといかん場合も十分にあり得る。そう、だからワシが手を出すのは仕方のないことなのだよ。決して馬車での長旅にいい加減飽きて体を動かしたいとかそういうのでは無いんだよ。」
ガッデムは言い訳がましい事を並べながら上着を脱いで外に出ようとする。
「お・と・う・さ・ま。たとえそうだとしてもお父様が行くのは冒険者達で撃退出来なかった場合の話でしょう?なぜ喜々として先陣を切ろうとしてらっしゃるのですか?」
「ぐぅ!それは……。いや、決して戦いに乱入しようとしている訳ではないぞ。だだ少し外の空気を吸いたいと思ってだな……。」
なおも言い訳をしようとしするガッデムをリンナは無言でギロリと睨む。
「…………。」
その視線に耐えかねたガッデムは無言で先程座っていた場所に腰を下ろしシュンとなる。
(ローガ達よ。頼むから少しでいいから苦戦してくれ。じゃないとワシは退屈で後で暴れ回った時の反動が凄いことになるぞ。)
馬車の外で大慌てで迎撃態勢を整えている護衛の騎士達と冒険者達を窓からうらやましそうに眺めるガッデムであった。
「ワイバーンだーーーーー!」
チェイスのその叫び声を聞いたグレン達は即座に迎撃の準備に取り掛かった。
「とりあえずロイド殿たちに合流しよう。あちらのメンバーには遠距離攻撃が出来るような人はいなかったハズだ。」
グレンの提案にソーヤとレンも頷く。
「そうですね。こちらには僕の魔法とレンの弓があります。合流して守りを固めてもらい僕らで攻撃すれば相手が竜種でも十分勝機はあります。」
グレン達は自分達の馬車を走らせロイド達に合流する。
「ロイド殿、応援に駆け付けました。」
「グレン達か、助かる。ワイバーンはどうやら3匹みたいだ。今の内に攻撃の準備をしておいてくれ。」
「分かりました、ところで……ローガ殿の姿が見えないようですが?」
「なにっ?本当だ。いつの間に……。」
二人の会話に割り込むように青い顔をしたチェイスが口をはさむ。
「あのバカなら秘密兵器を準備してくるって言ってさっきで出て行ったぞ。」
「なに!つくずく協調性とかチームワークって言葉を知らないヤツだ。チェイスもなぜ止めなかった?」
「ロイドの旦那もアイツが止めようとして止まるようなヤツじゃないことぐらいもう分かっるでしょう。それにアイツはこっちで指示するよりも好き勝手に暴れさせたほうが戦果を挙げそうですからね。」
「……それもそうか。」
ロイドもいい加減ローガの扱い方が分かって来たのかあっさり納得した。
そうしている間にワイバーン達はすぐそこまで迫って来ていた。
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